数多くいる少数民族の中で、なぜ中国がここまでウイグル民族への弾圧を続け、かつ年々、取締りを強化していっているかというと、その原因の一つには地下資源の問題がある。
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現在中国には漢民族(90%以外)以外に55の少数民族がいるが、独立を目指すウイグルやチベット以外の他の少数民族が弾圧を受けている事実は、あまり見られない。ウイグルやチベットなど、広大な面積を占める少数民族地域が独立すれば、中国の崩壊につながることは目に見えているので取り締っているという事情は基本にあるものの、ウイグル族への執拗な弾圧には別の大きな理由がある。
1949年10月1日に中華人民共和国(新中国)が誕生した時、「中国」という国家の代表として国連に加盟していたのは「中華民国」(現在の台湾)だった。新中国には同盟国が少なかったため、新中国はエネルギー源の供給を、自力で行わなければならなかった。
そこで1952年8月、毛沢東は中国人民解放軍第19軍第57師団を石油工業開発に転属させ、石油の発掘作業に当たらせた。
◆「何としても独立しては困る」少数民族の筆頭に
53年から始まった第一次五カ年計画では、重点項目の一つを石油探査に置いていた。
そのお蔭で55年10月29日、新疆ウイグル自治区にあるジュンガル盆地でカラマイ油田があるのを発見。「カラマイ」はウイグル語で「黒い油」という意味である。規模は大きくないものの、カラマイ油田は中国誕生後に発見された最初の油田だ(詳細は拙著『中国人が選んだワースト中国人番付紅い中国は腐敗で滅ぶ』のp32~35)。
毛沢東の喜びようは尋常ではなかった。
その間、中国人民解放軍第一野戦軍第一兵団を中心として「新疆生産建設兵団」を設立し、一般人民にも呼び掛けて、大量の漢民族を新疆ウイグル地区に送り込んだ。
この時からウイグル民族は「何としても独立しては困る」少数民族の筆頭に位置付けられるようになる。漢民族を増やしウイグル民族の割合を減らすことによって独立できなくなるようにするため、ウイグル民族への弾圧を強化している。
もともと新疆地区は、清王朝に征服され「回彊(ムスリムの土地)+新領土=新疆」と命名され(18世紀)、行政制度の整備(19世紀)に伴って「新疆省」と称されるようになった。
「中華民国」が誕生すると、蒋介石は清朝時代の「新疆省」を引き継ぎはしたものの、その領有権に関しては、それほど固執していない。蒋介石は1938年に発掘した甘粛省北西部の甘粛回廊にある玉門油鉱を重要視していたし、まだ石炭が主流だったからだ。
ところが前述したように、毛沢東になってから一変し、1955年に「新疆ウイグル自治区」と命名し、新疆はエネルギー源獲得のための地と変貌していったのである。これが54ある他の少数民族と異なるところだ。
ソ連崩壊後は、本コラムで何度か書いてきたように、中央アジア諸国から石油や天然ガスを輸入する拠点が新疆ウイグル自治区にあり、全中国にパイプラインを敷いて全中国のエネルギー需要を支えているので、なおさらのことウイグルを手放すわけにはいかなくなった。
◆ウイグルも尖閣も、すべては「エネルギー源の獲得」
中国が日本の尖閣諸島の領有権を主張し始めたのは、同じく地下資源があるからだ。1969年に海底に天然ガスや油田があることが分かったためだが、中国が領有権を主張し始めたのは、「中国」の代表として「中華人民共和国」が国連に加盟した1971年からで、それまでは尖閣諸島を日本の領土と毛沢東は認めてきた。
このように、一見、中国が内政として抱えているように位置づけられがちな少数民族問題も、実は尖閣諸島や南シナ海における(外国と争っている)領有権問題と、根っこは同じなのである。
南シナ海も海底に天然ガスや油田があるためで、すべては「エネルギー戦争」と言っても過言ではない。
中国共産党は自らの統治の正当性を人民に説得するために経済発展しなければならない。経済発展を持続するには、何としても「エネルギー源」が欲しい。
そのため国内においてはウイグル族を弾圧し、国外では尖閣を始めとした東シナ海や南シナ海の領有権を主張している。行動のパターンは、一見、違うように見えるかもしれないが、その根っこは一つ、「エネルギー源の獲得」だ。中国が国内外で起こしている問題は一つにつながっており、行動の共通点は「力」によって推し進めようとしていることである。
この視点に立てば、中国がいま何をしようとしているか、なぜここまで挑発的で強権的なのか、その全体像がより鮮明に見えてくる。ウイグル弾圧問題は、日本とも無関係ではないのである。
<遠藤誉が斬る>第36回
遠藤誉(えんどう・ほまれ)
筑波大学名誉教授、東京福祉大学国際交流センター長。1941年に中国で生まれ、53年、日本帰国。著書に『ネット大国中国―言論をめぐる攻防』『チャイナ・ナイン―中国を動 かす9人の男たち』『チャイナ・ジャッジ毛沢東になれなかった男』『チャイナ・ギャップ―噛み合わない日中の歯車』、『●(上下を縦に重ねる)子(チャーズ)―中国建国の残火』『完全解読「中国外交戦略」の狙い』、『中国人が選んだワースト中国人番付』など多数。
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