“豪華クルーズ”体験、カジノゲーム、パチンコ、スロット…。高齢者の通所介護(デイサービス)が、あの手この手で趣向を凝らしている。施設数が10年間で3倍に増え、競争が激しくなっている中、差別化を図ろうという試みだが、高齢者にとっては、“お遊戯”ではなく本物のレクリエーションを楽しめるとあって、「行きたくなるデイサービス」と好評だ。(横山由紀子)



 「ご乗船ありがとうございます」。午前8時半、船員服姿のスタッフに手を引かれ、白と黒を配した“豪華客船”に入る高齢者。足を踏み入れると、ふかふかの真っ赤な絨毯に豪華なシャンデリアがきらめく。全員がそろうと、屋上からテープを投げる“出港セレモニー”が始まり、ドラの音が響き渡る中、リンゴジュースを注いだシャンパングラスで乾杯-まるで本当にクルーズが始まりそうな雰囲気だが、ここは兵庫県姫路市広畑区のデイサービス「杏の里I・II」。施設の利用には介護保険が適用される。



 客船の形をした建物内で、看護師や介護士、音楽療法士らスタッフは全員、白い船員服姿。部屋には、「ニューヨーク」「イタリア」「イギリス」などの名前が付き、壁にはステンドグラス、丸窓にはエーゲ海の風景動画が流れる。



 施設内で流通する疑似通貨「アーム」を管理する銀行もあり、利用者はぞれぞれ口座を持っている。貨幣を手に入れるには、プールでのリハビリで600アーム、体操は500アーム、食器洗いは200アームといった具合に、リハビリに励むと“報酬”が支給される仕組みだ。



 船旅には欠かせない、ルーレットやトランプなどのカジノゲームもある。照明を落とし、にぎやかな音楽が流れる中、今度はちょうネクタイに黒いベストのディーラーが着用する服に着替えたスタッフが登場する。そこで、利用者は「アーム」をかけて盛り上がる。



 利用者の小畑希子さん(85)は、「週に2回、ここに来るのが生きがいになっています。リハビリするとアームがもらえて、やりがいがある。カジノゲームなんか、普段の生活では考えられない夢のような体験で刺激的です」と話す。



 施設を経営する医療法人社団「石橋内科」の石橋正子事務長は、「外出すらままならない高齢者に、旅行気分を味わってもらいたいとの思いで施設を作りました。豪華客船並みのおもてなしで、日常から離れた気分を満喫してほしい」と話す。



 広島県福山市加茂町のデイサービス「サテライト松風園」。利用者が絵を描いたり、切り絵をしたりする中、ひときわにぎやかな一角がある。置いてあるのは、「パチンコ」。音楽が鳴り響く中、パチンコの玉がジャラジャラと出てくる。大当たりが出ると、スタッフが拍手で盛り上げる。



 同園では、系列の施設を含めて昨年夏にパチンコ台を導入。利用者にアンケートをとったところ、「パチンコをやりたい」と希望する声が多く、導入を決めた。中古のパチンコ台を購入、高齢者がつかまって立ち上がってもぐらついたりしないように木枠に収めた。車いすでも入れるように、木枠の幅は広くとった。



 右手でハンドルを握り、左手で出てきた玉を投入箱に入れる作業が手の運動になる。また、玉を追うことで動体視力が鍛えられ、にぎやかな音と映像が脳の刺激になるという。



 センター管理者の小林弘文さんは「施設も、利用者のみなさんに楽しんでもらえる工夫をして差別化を図っていく。それが、今の時代の流れです」と話す。



 デイサービスは高齢者の増加を背景に、少ない設備投資で参入することができるといった理由から数が増え、厚生労働省の調べによると、ここ10年で3倍以上の約3万6千カ所(平成24年度)に増えた。高齢者福祉に詳しい神戸市看護大学元教授で、国際高齢者医療研究所・岡本クリニック(兵庫県芦屋市)院長の岡本祐三さんは、「デイサービスでの歌やお絵描きなど、まるでお遊戯のようなレクリエーションを心から楽しんでいる利用者は少ない。施設同士が競い合うことで、高齢者の本当の思いや欲求をくんでさまざまな取り組みを行うことは、結果的に、高齢者の尊厳、そして生活の充実にもつながるのでは」と話している。