クラウドファンディングの概念はたいへん広く、なかなか正確な市場規模を把握することが難しい面があります。しかし、11年ごろを境に、日本をはじめ韓国、香港、シンガポールなど、アジア諸国でもクラウドファンディング・プラットフォームが続々と登場しています。
【他の画像】
●2013年は51億ドル、25年には960億ドル市場に
クラウドファンディングの概念はたいへん広く、なかなか正確な市場規模を把握することが難しい面があります。しかし、12年より米国のコンサルティング会社のマス・ソリューション(massolution)社がクラウドファンディング市場に関するデータを年に1回発行しており、これが参考になります。
そのデータによると、12年の全世界でのクラウドファンディング・プラットフォームを通じて行われた調達額規模は約27億ドルです。
同調査によると、11年が約14億ドルとなっていますから、前年より約2倍の伸びとなっています。さらに13年も約51億ドルほどの市場に成長すると予測しています。今後どれだけの市場になるかは未知数ですが、世界銀行が12年に発行したリポートによると、25年には960億ドル(約9兆円)市場になるだろうという予測もあります。
12年のデータを地域別に見ていくと、北米が16億600万ドルと全世界の59.5%を占めています。次いで欧州の9億4500万ドル(35%)、オセアニアの7600万ドル(2.8%)と続き、アジアは全体で3300万ドル(1%強)と、まだ小さな規模にとどまっています。
アジア諸国でもプラットフォーム登場
しかしながら、11年ごろを境に日本をはじめ、韓国、香港、シンガポールなど、アジア諸国でもクラウドファンディング・プラットフォームが続々と登場しています。
とくに、再度世界銀行のリポートを参照すると、彼らが予測する25年のクラウドファンディングの市場規模960億ドルのうち、実は約半分となる460~500億ドルは中国が占める内訳になっています。確かに、これまでアジアのなかでもクラウドファンディングについてそれほど目立った動きのなかった中国本土ですが、13年11月に自国のクラウドファンディング・サイト「デモアワー(DemoHour)」において、オンライン・アニメ制作費として約5500人から20万ドル以上を調達したという実績も登場し、今後の成長が注目を集め始めているところです(※1)。
これらの動きを総合して考えると、アジアのクラウドファンディング市場の伸びはこれからではないかと思われます。
※1=Vickie Elmer.(2013.11.18).“Crowdfunding in China could be $50 billion business by 2025.”Quartz.
●ベンチャーから大手まで、参入が続く日本
日本でも、高い技術とオリジナリティのある独立系事業の資金を一般の人たちから集める少額投資プラットフォーム「セキュリテ」(09年開始/ミュージックセキュリティーズ株式会社(※2)や、英国で始まった寄付型のプラットフォーム「ジャスト・ギビング(Just Giving)」の日本版である「ジャスト・ギビング・ジャパン(Just Giving Japan)」(10年開始/一般財団法人ジャスト・ギビング・ジャパン)などのプラットフォームが登場し始めました。
※2=セキュリテの前身となるインディーズ・ミュージシャンを支援するためのファンド・プラットフォームは 2000年より開始
購入型プラットフォームの誕生
日本で「クラウドファンディング」という言葉が本格的に知られ始めたのは、投資でもなく寄付でもない、購入型クラウドファンディング・プラットフォームが誕生した11年でしょう。
同年3月に開始した「レディーフォー(READY FOR)」(オーマ株式会社)は、日本初の購入型クラウドファンディング・プラットフォームです。さらに、同年6月「キャンプファイヤー(CAMPFIRE)」(株式会社ハイパーインターネッツ)、7月「モーション・ギャラリー(Motion Gallery)」(株式会社Motion Gallery)と、続々と購入型のプラットフォームがサービスを開始します。
その後も、女性による発案のプロジェクトに特化した「グリーン・ガール(GREEN GIRL)」(11年開始/株式会社ワンモア)や、各都道府県にプラットフォームを運営している「ファーボ(FAAVO)」(12年開始/株式会社サーチフィールド)、大手IT企業のサイバーエージェント・グループが運営する「マクアケ(Makuake)」(13年開始/株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディング)、「ジャスト・ギビング・ジャパン」を運営していたメンバーによる「シューティング・スター(ShootingStar)」(13年開始/株式会社JG マーケティング)など、13年12月現在までに著者もすべてを把握できていないほど多くのプラットフォームが生まれています。
被災地支援プロジェクトが端緒に
日本でのクラウドファンディング普及の特徴としては、「レディーフォー」「キャンプファイヤー」を始めとする初期のプラットフォームが11年3月11日に起こった東日本大震災の直後に開始していることもあり、まずは被災地支援のプロジェクトが多く立ち上がったことが挙げられます。
例えば、12年3月には、被災した陸前高田市の仮設住宅に新しく作られた図書室の蔵書購入のためのクラウドファンディング・キャンペーン「陸前高田市の空っぽの図書室を本でいっぱいにしようプロジェクト」が実施され、862人から824万5000円が集まっています。メディアにも、11年から12年初頭までは、被災地復興の1つのツールとしてクラウドファンディングが取り上げられていました。
このような経緯を経つつ、12年半ばからはクリエイターやアーティスト、そしてメーカーや工場などが利用するものとしても認知が広まっていきます。
先に取り上げた「ラピロ・プロジェクト」もそうですし、19世紀に誕生した“伝説のレンズ”と言われる「ペッツバール(Petzval)」を、今販売されているアナログとデジタルカメラ用のレンズとして復活させるロモグラフィ・ジャパンのプロジェクトは269人から1061万1600円を、ニューヨーク在住の日本人映画監督・佐々木芽生氏による新作ドキュメンタリー『ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの』の日本公開資金調達のキャンペーンは915人から1463万3703円を集めました。
さらに大手企業も、さまざまな形でクラウドファンディングの活用を始めています。3件の事例を紹介しましょう。
開発とマーケティングの一体化を企図するゲーム会社
『ドラゴンクエスト』や『ファイナル・ファンタジー』など数々の大ヒットゲームを発売している日本を代表するゲーム会社、株式会社スクウェア・エニックスは、13年5月13日に開催された同社の持株会社スクウェア・エニックス・ホールディングスの決算報告会にて、松田洋祐社長が今後の事業戦略の見直しのポイントの1つとしてクラウドファンディングの活用の可能性に触れています。
同社の公式資料によると、ゲーム事業を改革するポイントの1点目として「長期大規模開発の見直し」を挙げ、クラウドファンディングは「単なる開発者に対するファイナンスの仕組みではなく、開発中、発売前からお客様と関わりながらゲーム開発をするという開発、マーケティング一体になった仕組み」であり、収益を出さぬまま長期にわたってゲームを開発するリスクを改善する一策だと述べているのです(※3)。
この約5カ月後にスクウェア・エニックスは、米国のクラウドファンディング・プラットフォーム「インディゴーゴー」と提携した世界向けの新しいプラットフォーム「スクウェア・エニックス・コレクティブ(Square Enix Collective)」を設立しています(※4)。
※3=スクウェア・エニックス・ホールディングス「2013年5月13日開催 決算説明会 概要」※4=インディーズのゲーム製作者に対し、企画から資金調達、開発から配信までをサポートとするプラットフォーム。ゲーム開発希望者はこのプラットフォームを通じてアイデアを投稿、それに対しゲーム・ユーザーが評価する。人気があるアイデアであれば、スクウェア・エニックスが企画内容を検討、商品化へのアドバイスを経て、インディゴーゴーでのクラウドファンディングを開始する。資金調達成功後は、開発、配信まで随時スクウェア・エニックスのサポートが入る
出版企画の実現に特化したプラットフォーム
また13年12月には、日本最大の印刷会社である大日本印刷株式会社は、クラウドファンディングのコンサルティングやプラットフォーム運営、ASP販売を手がける株式会社ワンモアと提携し、出版物の企画実現に特化したクラウドファンディング・プラットフォーム「ミライブックスファンド」をスタートすると公表しています(※5)。
※5=株式会社ワンモア、大日本印刷株式会社共同リリース「ワンモアと大日本印刷 クラウドファンディングを活用した出版企画支援を開始-印刷製造・流通販売などをワンストップでサポート第1弾はランサーズ&韓流小説-」(2013年12月5日)
これは、出版物の企画段階からアイデアを一般公開、企画に賛同し、書籍化を希望する人たちから資金調達して出版を実現しようというプラットフォームです。出版取次会社から一般書店への流通サポートも受けられるので、自費出版とも少し違う形態と言っていいでしょう。
特殊な印刷を要する豪華本や一部でコアな人気を集めつつある新人作家の作品など、大きな部数は見込めないもののニッチなニーズをもつ出版をサポートすることを目的としています。紙媒体、電子媒体を含め多様な出版物を手がけることができる大日本印刷と、クラウドファンディング関連のソリューションを提供するワンモアが提携することで、企画実現に必要な資金の調達、出版流通のコンサルテーション、制作・製造などに至るプロセスを提供することができると言います。
両社はこのプラットフォームを通じて15年度までに100件の出版を予定しているそうです。
CSR活動を推進する企業への支援
クラウドファンディングとの少し変わった関わり方をしているのは、アサヒグループホールディングス株式会社です。
同社はレディーフォー社と提携し『アサヒマッチングギフト・サービス』(※6)というプロジェクトを開始しています。
※6=アサヒグループホールディングス株式会社プレス・リリース「新しい社会貢献プロジェクト『アサヒマッチングギフト・サービス』を6月4日開始」(2013年6月3日)。なお、2013年11月より株式会社ベネッセホールディングスもレディーフォーでの同様の取り組みを開始
これは、レディーフォーのプラットフォームに掲載されている資金調達キャンペーンのうち、プロジェクト内容がアサヒのCSR(企業の社会的責任)活動の方針に沿うものを同社の支援キャンペーンとして選定、それらのキャンペーンに対し、クラウドファンディングを通じて調達した額と同額(上限額あり)の支援をするという試みです。つまり、企業のCSR活動の1つとしてクラウドファンディングで資金調達しようとする人たちへの支援をしているのです。
同社は第1弾として、社会全体で子育てをするための環境整備プロジェクト「期間限定asobi基地カフェ」実施のキャンペーンを上限50万円で支援、13年10月からは第2弾として、新しい防災・減災研修開発のプロジェクトに上限120万円のマッチング・ギフトを提供しています。
●金融庁が動き出した「株式型」クラウドファンディングの法整備
最後に、執筆時点(2013年12月)のクラウドファンディングに対する金融庁の最新動向について触れておきます。
13年12月12日、金融庁の金融審議会が「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループ」を開催し、その報告書(案)のなかでクラウドファンディングについて言及しています。
これは、今後日本において起業や新規ビジネスの創出が活発になるよう、事業化段階における資金提供を促進していく施策のひとつとして挙げられたもので、現在禁止されている個人の非上場株式の取引に関して、インターネットを通じて行われる少額のものに関しては規制を一部緩和していくことが視野に入れられています。つまり「株式型クラウドファンディング」(※7)の導入です。この背景には12年4月、これまで同様の規制があった米国で「Jumpstart Our Business Startups Act(JOBS法)」が成立したことにより、株式型クラウドファンディングが認められたことがあります。
※7=金融庁発行の資料では「株式形態」と「ファンド形態」のクラウドファンディングを併せて「投資型クラウドファンディング」としている
本報告書(案)では、クラウドファンディングの導入について、
・仲介者の参入要因の緩和
・投資家保護のための必要な措置
・自主規制機関による自主規制機能の発揮
の視点からの検討がなされており、非上場株式を扱うリスク軽減のためにも「資金調達額は1億円未満、個人1人あたりの投資額上限は50万円以下」とする案などが挙げられています(※8)。
本報告を受け、14年の通常国会で金融商品取引法の改正案が提出される予定です。
また、金融審議会の翌日となる12月13日に金融・資本市場活性化有識者会合より公表された「金融・資本市場活性化に向けての提言」でも、起業・新規事業創出に向けた環境整備のひとつとして「クラウドファンディングの本格整備」が挙げられています(※9)。
今後この動きがどのように進んでいくかは現時点では分かりませんが、日本におけるクラウドファンディング普及の1つの鍵となるでしょう。
※8=金融審議会「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループ報告(案)」、2013年12月12日※9=金融・資本市場活性化有識者会合「金融・資本市場活性化に向けての提言」、2013年12月13日
(つづく)
[山本純子,Business Media 誠]
- インターネットの登場で活性化する古くて新しい仕組み
- 中小企業グループがタッグを組んだ2プロジェクトが日米で資金調達
- 今、大きな注目を集めるクラウドファンディング
- 人はなぜ“だれかの体験”に金を出すのか?――クラウドファンディングが育てるもの
大反響! 中川式腰痛治療法はこちら