◆橋下ブームに酷似 既成政党批判し新風



 【ソウル=黒田勝弘】韓国大統領選で19日、非政治家ながら出馬宣言した安哲秀ソウル大融合科学技術大学院長(50)は若い世代を中心に圧倒的な人気がある。無党派なためとりあえずは与野党候補に次ぐ“第3の候補”だが、これまでの政治指導者のイメージとはまったく異なる新鮮な人物だ。世論の“変化”への期待を背景に当選の可能性は十分ある。



 その最大の強みは既成政治批判。「政治経験だけでなく組織もなく、勢力もないため、誰にも“借り”はない」とし、自分こそが「国民が選択する新しい変化の政治」をやれるという。



 そして不正腐敗の金権政治や地域・左右イデオロギーによる激しい与野党対立など、韓国社会を「分裂と憎悪」に追いやってきた過去型の政党政治を厳しく批判。「国民の半分を敵に回しながら“国民統合”を叫ぶのは偽善」といい、既成の与野党対決政治からの脱皮を強調している。



 既成政党を激しく批判し政治あるいは選挙に新風をもたらすという意味では日本の“橋下ブーム”を連想させる。世論の不満に乗った“変化・改革ポピュリズム(大衆迎合)”が共通点としてあるようにみえる。



 ◆時代の先端、知識人 見えぬ具体的な政策



 ただ安哲秀候補は医者の家庭に生まれ、ソウル大医学部出身で米国で経営学を学び、理科系と文科系を“融合”する時代の先端を行く秀才型知識人。しかもコンピューターのアンチウイルスソフト開発で成功した先端起業家でもある。



 女性的ともみえるソフトな語り口で、肩に力が入った押しつけがましい感じがまったくない。



 これまで若い世代相手の公開トークショー「青春コンサート」で人気を博し、その時代感覚が新しい政治指導者として待望論につながった。



 出馬宣言の記者会見でも過去の大統領候補者のような“絶叫”はまったくなく、これまでと変わらず学生相手の大学教授のような雰囲気だった。



 たとえば「変化」「未来」「希望」などの単語が多く、あるべき指導者として「融合的思考」や「水平的リーダーシップ」を強調するなど学者風の抽象的な内容がもっぱらだった。



 出馬宣言のスピーチも最後は米国のSF作家ウィリアム・ギブスンの言葉という「未来はすでに来ている。ただ広がっていないだけだ」で締めくくったが、会見場では「ギブスンとは誰だっけ?」の声が聞かれるほどだった。



 具体的な政策は選挙過程で明らかにするとしているが、これまで貧富格差解消や弱者重視をよく語っており、政治的には“中道進歩派”の印象だ。対外政策はまだほとんど語っていない。ただ、北朝鮮に対しては支援・協力を通じた融和姿勢とみていい。



 韓国社会は近年、与野・保革・左右の両勢力がほぼ政治的には拮抗(きっこう)している。野党陣営は民主党の文在寅候補と安哲秀候補が一本化できないと与党ハンナラ党の朴槿恵候補には勝てないため、選挙戦は野党陣営の候補者一本化が今後の焦点になる。