札幌市清田区にアンデルセン福祉村というところがある。おとぎの国のテーマパークかと思いきや、さにあらず。福祉の先進国、北欧はデンマークの理念にならって地域包括ケアを実践しているコミュニティーだった。訪ねてみると、立派な施設以上に、近隣住民や学生、障害者などが一緒になって、高齢者も隔たりなく尊重される社会にしようとしているソフトの充実が目を引いた。(札幌支局 藤井克郎)
札幌市内とはいえ、辺りは深い緑に包まれ、どこか人里離れた山奥の雰囲気がある。そんな中に現れたレンガ色の建物群が、アンデルセン福祉村だった。
「ここには特別養護老人ホームやケアハウス、それに看護を学ぶ専門学校などが建っていて、日中は高齢者に職員、学生、介護助手をやってもらっている知的障害者など1200人ほどが集まっている。さまざまな人がこのコミュニティーに暮らしています」と、これらの施設を運営する社会福祉法人ノテ福祉会をはじめとしたジャパンケアグループの代表、対馬徳昭さん(59)は説明する。
対馬さんが社会福祉法人の認可を取得したのは昭和58年のことだ。従来の老人ホームのあり方に疑問を感じていた対馬さんは、暗いイメージを打ち破った斬新な運営を目指して翌59年2月、札幌市豊平区月寒に小さな特別養護老人ホームを建てた。ちょうどデンマークの福祉の実態が日本に紹介され始めたころで、デンマークをはじめ北欧に足しげく通い、ノーマライゼーションの理念を学んだ。
「ノーマライゼーションはもともとは障害者の分野での考えで、デンマークではハンディを持っていてもいなくても、一つのコミュニティーの中で共生している。百貨店に行くと、1階の化粧品売り場の真ん中にあるウインドーが低い。車いすの人に見てもらえるようになっているんですね。障害者が生活しやすい環境になっているのを国民みんなが理解している。日本にもその理念を定着させたいと思ったんです」と対馬さん。清田区の現在の場所に施設を展開するようになったのは平成7年からで、デンマークを代表する童話作家にちなんでアンデルセン福祉村と名付けた。
職員の案内で村内を見学させてもらった。ちょうど通所リハビリを受けにきていた高齢者が帰る時間で、大勢のお年寄りが食堂に集まっていた。通所者は約100人、入所者は500~600人いるというが、200ものプログラムが用意されており、マージャンやカラオケ、映画鑑賞から陶芸、パン作り、外出ツアーと幅広い活動が楽しめる。手作りの工芸品が売られていたのでふと見ると、値段の欄に500アンデルセンとか200アンデルセンなどと書かれている。
「アンデルセンは施設内の貨幣単位で、リハビリをしないと稼げない。何歩歩いたらいくらいくらもらえる、という具合になっていて、200のプログラムの中にはカジノもあるんですよ。アンデルセンが破産した人はリハビリして、また稼げばいい。そうやって意欲を持ってもらっているんです」と対馬さん。
そのケアは地域ぐるみで行っており、職員だけでなく、グループの専門学校生のほか、近所のボランティアも200人ほど登録されている。それもお年寄りの心理や車いすの押し方などを4日間のプログラムで学んでからでないと参加できない。「決して職員の負担を軽減するためではなく、あくまでお年寄りの豊かな生活のために、新聞を代読してもらったり、ちょっとコンビニまで車いすを押してもらったりしている。そういう人たちにもノーマライゼーションを理解してもらうことが大切で、200人が2000人、3000人になると大きな輪になると思うんです」と対馬さんは強調する。
さらに地域に密着したサービス拠点として、清田区と豊平区に8カ所のサテライトを設置。今年度中にはさらに4カ所増やして、よりきめの細かい在宅介護の支援体制を整えるという。安心して暮らせる地域社会を目指して、すでに18年前に24時間定期巡回・随時対応サービスを開発、実践しているが、今年4月にようやく国の介護保険制度に導入されたところだ。
「地域包括ケアは国の基軸になっているが、まだ実践しているところはあまりなく、全国から見学に来るケースが増えています。われわれはこれを東京23区でやりたいと考えている。東京は特別養護老人ホームも少ないし、サテライトと組み合わせて展開すれば、多くのお年寄りを救うことができる。それに自分たちのやっていることが東京で評価されれば、職員のやる気もますます上がりますからね」と対馬さん。
一方で、アンデルセン福祉村の地域ぐるみの活動に力を注ぐことも怠らない。現在、施設内で湧出する温泉を利用してマトウダイを養殖しているほか、新たにスッポンやフグの養殖も始めるという。さらに天然の地下水を使ってうどんを開発。遊休地を畑に開拓するなど、いずれは自給自足のコミュニティーにすることも視野に置いている。
7月28日にはアンデルセン福祉村祭りが開かれ、お年寄りや職員、専門学校生のほか、地域の人々も含めて約3000人の人出でにぎわった。「定員100人のホームで100人のお年寄りしか恩恵を受けないのではだめだと思う。100人の定員だけど、地域のお年寄り300人に使ってもらうというようにならないといけない。われわれももっと汗をかいて、一般の人にも見てもらうように努力する必要がある。そして多くの人にノーマライゼーションについて知ってもらえればと思っています」と対馬さんは力を込めた。
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