「富士山は簡単には登れない」
最近やたらと富士登山について悪質な言動を目にするので繰り返し書いておきたい。
最初の結論:富士山の登頂確率は色々な本を読んだ限りで言うと約50%と言われている。
高山病リスク、天候リスク、装備不足、体力不足、知識不足、病気、ケガなど色々あり、
ハードルはかなり高い。
ちなみに昨年の私の登頂確率は約33%だった。
理由は台風2週連続襲来と言う事態を食らい、
3回目の山小屋予約変更がラッキーにも出来て登頂出来たから。
最近、やたらと問題視されている富士登山であるが、
それでも未だに「誰にでも登れる山」とか「簡単だ」とか
「難しくない」と発言する者がかなりいる。
経験者でもこのような発言をする者はかなりいて、
非常に悪質なので大変な注意が必要だ。
厄介な事にNHKですらも言い出すから恐ろしい。
(後述)
もちろんこれは完全な嘘だ。
そもそも富士登山はある一定の、しかも結構高い確率で、
おおよそ10~20%くらいと予想されるが、
絶対に登れない人が出て来る。
つまり10人のグループになったら1人くらい、
場合によると5人のグループで1人くらいいる。
私も現地で5人くらいの若者のグループで目撃している。
それはもちろん高山病が原因で登れない人となる。
私の目撃例では七合目で既にチアノーゼを発症していて極めて危険な事態だった。
高山病リスクと言った段階で、
「誰でも登れる山」発言をする人は極めて悪質な存在と言っていいのが分かるかと。
非常に危険な意見だ。
高山病によって登れない人は普通に大勢いるが、
それが高山病なのか疲労なのか、
判断が難しいケースもあるため統計では出難い問題なのが厄介さに拍車をかけている。
だが体験談を色々読むと、
酷い高山病に罹ってしまい、
同行者がやたらと吐いて八合目から上に行くのは断念した、
などと言うケースは普通に多く見る。
子供でも登っているよ、などと発言する人も後を絶たない。
だから簡単だ、と言いたいらしい。
だが、子供は意外にも体重が軽いので、
高山病リスクさえかわせたら登れるケースもある。
しかし大抵の場合、例えば大勢の団体登山経験者の記録を読むと、
登れない子供の方が遥かに多いのが分かる。
知り合いでも子連れで登山し登れなかった人が何人かいる。
登れる子供は登山エリート一家の子供くらいに思っておかないとこれまた危険極まりない。
さて、アップした写真は先日のNHKクローズアップ現代で出して来た表だ。
弾丸登山の問題点をやたらと指摘して危険を言い立てた後、
信じられない事に、最後に非常に恐ろしい体力指標を挙げて来た。
(表参照)
このような体力指標を挙げて来る者は結構いるから厄介だ。
いつもより多く歩くとか、駅の階段は登ろうとか。
これ、最新の運動生理学に基づく後述の名著、
「登山と身体の科学(講談社ブルーバックス)」で、
完全にアウトとされている行為だ。
こんな程度の運動では全く無理だ。
まるでトレーニングにならない。
誰が言っているのか責任追及したくなるほどいい加減な意見だと思う。
散々弾丸登山(夜から登り始めて、山小屋に泊まらないで頂上で御来光、その後下山する行為)を、
危ない危ないと言っておきながら、
いつもより多く歩いて、1ヶ月くらいのトレーニングで登れるとしているのは悪質極まりない。
大学の名門サッカー部や野球部、陸上部、ラグビー部に所属してました、
なんて言う20代の人なら可能だろうが、
普段運動していない人だと1ヶ月のトレーニングではどうにもならない。
ましてウォーキングでは全く無理だと思っていて間違いない。
詳しくは写真を掲載した前述の、
講談社ブルーバックスの最新刊「登山と身体の科学」をお読み頂くとして。
富士登山オフィシャルサイト(http://www.fujisan-climb.jp)でも、
フルマラソン42.195kmで消費されるカロリーは2500~3500kcal、
富士登山(吉田ルート&富士宮ルート)で消費されるカロリーは3000~4000kcalと書いてある。
つまり1日で富士登山をするならフルマラソンを走るカロリーよりもやや大きいくらいが要求されて来る。
1泊2日ならハーフマラソン級体力が要求されて来る。
また前述の本でも取り上げられている、
ここ数年で急速に浸透しつつある「コース定数(ルート定数)」と言う登山の体力指標がある。
これは「その山で要求される体力を数値化したもの」なので、
極めて便利ではあるが、
体力基準を具体的にしないと曖昧になるので、
きちんと明記しておきたい。
10 入門
20 初級(通常の登山)
30 中級(健脚向け。日帰り登山の限界)
40 上級(健脚向け。1泊2日以上の行程が必要)
これがコース定数(ルート定数)の基本になっている。
しかしこれだけだと具体的な体力が全く分からない。
そこで先ほどの富士登山オフィシャルサイトの出番となる。
先ず、富士登山のコース定数は、
吉田ルート(42)、富士宮ルート(40)、須走ルート(50)、御殿場ルート(60)、
となっている。
こう考えると、吉田ルートと富士宮ルートのコース定数40が、
フルマラソンの消費カロリーだと分かっているため、
吉田ルートか富士宮ルートから1泊2日で登る場合、
ハーフマラソン級体力を持っていないと難しいのが分かる訳だ。
この感覚は、フルマラソンと富士登山の両方を体験した私的な感覚でも極めて正しいと思っている。
ハーフマラソン級体力以下で来た場合、
登れないか、登れても五合目に戻った時は口も利けない事態になっているか。
そもそも楽しくないだろう。
疲れに疲れてしまい景色を楽しむ余裕も皆無だろうから。
正直、ハーフマラソン、出来たら25kmくらいは走り切れた体験がある上で、
日常ラン(週に数回)なら10kmは楽に走れるレベルになっていないと危険だ。
この上で事前に低山でいいのでリアルな登山の動きを最低でも1~2回はしておくべきかと。
関東なら初めてなら高尾山を稲荷山コースで登り、6号路で下山などが良く、
続いて丹沢の鍋割山が割と吉田ルートの感覚に似ているので良いと思う。
丹沢はかなり過酷なのでハーフマラソン級体力をつけてからでないと危ないと思うが。
もちろん他に装備、YouTube動画による事前のルートチェック、
地図や磁石の使い方、登山専用の地図アプリ(ヤマレコ、YAMAP)の習熟、
等々、色々ある。
まあ、ともかく。
罷り間違っても富士登山が簡単だと言うヤツを信用してはならない。
そんな言葉を信じてロクに鍛えず登ったら酷い目に遭わされると思う。
と言うよりも、今年は今日の7月24日の時点(開山は吉田ルート7月1日、他3ルート7月10日)で、
既に6人が亡くなっている。
これは例年の2倍のペースで死者が発生している事になる。
毎年毎年数人~6人くらいが亡くなり、
開山期間のほぼ毎日、遭難者が出ている。
これが富士登山の現状であり、
簡単に登れると言うヤツが如何に罪深いか分かるかと思う。
今年の私の富士登山は須走ルートからを予定しているが、
体力回復に難があり、現地では「どこで撤退するか?」を常に念頭に登る予定でいる。
終わり