富士登山と高山病 | 東京・横浜物語

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西麻布に生まれ育ち、現在は横浜に居住する筆者が、
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「富士登山と高山病」

 

講談社ブルーバックスの最新刊、

「登山と身体の科学」では運動生理学の観点から登山を考えていて、

非常に役に立つと思うし、これぞ待ってました!!と言った感が強いので、

改めて富士登山と高山病について、

本の内容を踏まえて書いてみたいと思います。

 

そもそも私が若い頃から富士登山をしたいと思いながらも出来ないでいた理由は2つあります。

 

1つは日本アルプス好きだった亡き父の富士山ディスりでした。

 

何故か富士登山を良く思わない日本アルプス好きの人は非常に多いです。

 

今なら絶対にこうは言えます。

 

富士登山の経験者ならともかく、未経験者の言動に惑わされてはならない、と。

 

2つ目は「高山病」です。

 

知れば知るほど高山病がヤバそうと思え、

どうしても実行まで至らなかったのであります。

 

色々な経緯があって、3年前に登山再開を志し、

2年ちょっと前の春にようやく高尾山を登りました。

 

そうして一昨年の8月に初めて富士山に吉田ルートから登頂し、

昨年も8月に富士宮ルートから登頂出来たのですが。

 

リアルな富士登山において、

やはり高山病は事前の知識としても大変でしたが、

現地でのソレはもっともっと大変でした。

 

何がどう大変なのか?と言いますと、

苦しさと共に遭難に直結している点にあるかと思います。

 

大人気アニメ「ヤマノススメ」でも、

主人公は最初の富士登山において高山病で敗退しています。

 

富士登山を扱ったマンガやネット記事においても、

高山病に罹ってしまった人がどうなるのか?を教えてくれます。

 

症状の出方は個人差がとても大きい高山病ですが、

富士山の場合、五合目から既に始まっていると思わないと非常に危険です。

 

ちなみにリンクを貼った本でも書いてありますが、

高山病は老若男女問わず、また体力の優劣に関係なく起こります。


実は体力の優劣に関係なく、と言う点が非常に危険です。


例えばフルマラソンをサブ5以下で走り切るランナー、

バリバリの若い現役の野球部、サッカー部、ラグビー部、はたまた武道の部員であっても情け容赦なく高山病は襲い掛かって来ます。


なまじ体力を過信していると高山病は非常に危険です。


昨年の異様な急登が連続する事で知られる富士宮ルートからの登頂においては、

帰りの下山時、新七合目の手前で道端に座り込み、

酸素缶を吸っているガタイのいい大学の運動部らしき若い男とすれ違いました。


そもそも富士宮ルートは登り始めの五合目が全4ルートの中で最も高い2400mで、

なおかつ最短ルートなので一見簡単に思えてしまえます。


しかし私は最初の富士登山で富士宮ルートはお勧め出来ません。


よほど登山慣れしていないと、かなり敗退確率が高いと強く思いました。


理由は高山病に罹り易いのと、

ずっと急登が連続する激しさにあるからです。


さて、高山病の症状としては「頭痛」「胃腸症状(吐き気・嘔吐)」「疲労・脱力」「めまい・ふらつき」などがあり、

最終的にチアノーゼ、脳浮腫、肺水腫に移行し、

最悪死に至ります。

 

どうしたらいいのか?と言いますと、

症状が出たら下山する以外に方法はないのですが、

出た場所がどこなのか?症状の程度はどうなのか?によって判断は難しいので要注意です。

 

一般的に、軽い頭痛や疲労・脱力は普通に大勢がなります。


軽いものだったら登山続行なのですが。

 

その原因が登山による疲れなのか?高山病なのか?あるいは両方なのか?、

その判断は素人には難しいです。

 

富士登山のテレビ番組を見ていて、

救護所に駆け込む人で意外に多いのが「脱水症状」なのも要注意なところかと。

 

ちなみに面白いエピソードが本に書いてありました。

 

一番混雑するシーズンは高山病の人が激減すると言うガイドの言葉でした。

 

これは登山道が渋滞するため、

ゆっくりしか登れないので、

意外にも多くの人が高度順応して登れてしまうと言うものでした。

 

基本は、

・五合目で最低でも1時間高度順応する

(じっとしている)

・ゆっくり歩く

(団体を率いる登山ガイドのスピード。驚くほど遅い)

・しっかりと呼吸する

(フーーーーーッハッ!!と吐き切る方に重点を)

・眠ると高山病が悪化するのを知っておく

(山小屋で眠れなかったら仮眠くらいに考えて楽観した方がいい)

・撤退を躊躇わない

と言ったところでしょうか。

 

問題は一番人気の吉田ルートは六合目から上は登山道と下山道が別になっている点にあります。

 

まあ、緊急事態でしたら躊躇わずに回れ右をして登山道で下山するしかありませんが。

(実際私が吉田ルートから登った時はかなりいた)

 

あるいは九合目辺りで頭痛が酷くなったらどうすべきなのか?など状況によって判断が迫られるケースもあります。

 

酸素缶については八合目の救護所の医師が、

「使うと悪化するからダメだ」

とテレビ番組で言い切っておられました。

 

理由は、せっかく高度順応しかかっているのに、

酸素缶を吸う事によりリセットさせてしまうから、と言うものでした。

 

また、頭痛薬は高山病の進行を分からなくさせるのでダメだと言う記述を多数見ます。

 

しかし現場で苦しむ人にとっては頭痛薬の服用は判断が難しいところです。

 

実際にYouTube動画で見た1つの例では、

九合目くらいで結構酷い頭痛がして来た人がいました。

 

このケースでは、頭痛薬を飲んで抑えてしまい、

登頂しています。

 

飲むなと言う意見を主張する人は、

リアルな現場のケースをどう判断すべきなのか、

しっかりと考慮しないと逆に危険だと思います。

 

現地において九合目近辺で頭痛がした場合、

場所によっては下山道は見えていますが結構離れています。

 

また、頭痛はそのままだったら直ぐに良くなどなりません。

 

頭痛を抱えたまま下山はかなり厳しいものになるでしょう。

 

医師が近くにいない状況での判断は、

こうすべし、とは迂闊に言えませんが、

その辺は自己責任において判断するしかありません。

 

頭痛薬はリアルな富士登山における現実的で有効な一手ではあるでしょう。


また、高山病の予防治療薬「ダイアモックス」の服用も有効な一手ではありますが、

普通の病院では処方してもらえず、

専門医のいる病院でしかダメです。


また副作用もあるため、

この辺も判断が難しいところであります。


http://jstm.gr.jp/summary/


ちなみに日本アルプス愛好家の中には、

亡き父を筆頭に富士登山を何故か軽蔑するような発言を繰り返す人が多いです。


しかしあくまでも高山病の観点から言うと、

日本で2番目に高い南アルプスの北岳でも、

標高は3193mに過ぎません。


これは富士山だと八合目くらいの標高です。


八合目は富士山に登れるのかどうかを知るための、

あくまでも体力指標とされている合目です。


かなりのパーセンテージで、

八合目まで辿り着けない人、

八合目で限界を迎える人がいます。


それは体力的限界か高山病的限界かその両方かはともかくとして、

富士登山が本当の意味で富士登山になるのは八合目を越えてからです。


つまり北岳の標高を遥かに越えてから始まる世界です。


北岳の標高は5段階の高度分類に従うと「高所」になります。

(表参照)


しかし富士山頂上は日本では富士山でしか存在していない「高高所」となります。


高所と高高所の差は非常に大きいです。


吉田ルートだと本八合目を越えて八合五勺くらいから始まるソレは神がかって来ます。


登山YouTuberで、

神の領域に入って行く、

と表現している人がいましたが、

まさしくそんな感覚かと。


富士登山と高山病。


ナめて来たらあっさりと敗退する世界かと。


終わり


余談:

非常に厄介な事に高山病は眠っている時に悪化します。

意識的に深い呼吸が出来なくなるからです。

本では恐ろしい実験結果があります。

富士山頂上で眠らせた若い人の酸素濃度を調べたところ、

普通は95%以上ないといけないのですが、

何と50%くらいまで低下していたそうです。

事情を知らない医師にデータを見せたら、

間違いなく危篤状態だと思う数値だと言います。

富士登山では毎年毎年僅かな夏の開山期間だけでも、

数人〜6人くらいが亡くなっています。

遭難者になると60〜80人以上います。

そのほとんどは疲労もしくは高山病で身動き出来なくなった人であり、

ほぼ毎日発生しています。

つまり富士登山とは物凄く過酷な登山であります。