山で道に迷ったらどうなるのか?:その2.来た道には戻れない
ポイント1:戻れるくらいなら道迷いではない。
「道間違い」と考えるべき。
ポイント2:道迷いをして方向感覚を失ったら最後、
街中ならともかく山中なら自力脱出は既に難しい。
偶然に頼るしかない。
と言うより早い段階で救助要請した方がいい。
ほとんどの登山関連の本には「道に迷ったら来た道を戻れ」と書いてあります。
これは確かに間違いではないのですが、
大抵の道迷いではそれは出来ません。
何故なら、戻れるならそれはまだ本格的な道迷いではないからです。
戻れる以上、道迷いと言うよりは道間違いと言った方がいいかと思います。
街中であっても本当に迷ったら最後、戻れないかと。
人に聞かなかったら「偶然」分かる道に出るまで彷徨い続けます。
ここで問題なのは強調したように、
人に聞かない、スマホのナビが無い、と言う状態ならば「偶然」に頼る以外方法が無い点にあります。
間違えたと気付いたのが非常に早い段階で、
なおかつ道がストレートなら、
街中だと戻れるとは思います。
あるいは、街中ならいずれどこかの駅なりバス停なりに出ますし、
大通りならタクシーにも乗れます。
街中での道迷いは余程時間に迫られていない限りにおいては大した問題になりません。
少なくとも命に関わる事態にはなりません。
しかし登山だとそうは行きません。
大抵の登山道は何重にも曲がっていたり、交差したり、
はたまた獣道やら作業道やら紛らわしい道まであります。
あるいは森林の中で道が消失し拡散したような状況に追い込まれたりもします。
このような道との交差を繰り返した段階では方向感覚が失われている可能性がかなり高いです。
リンクを貼った動画では道迷いの典型的な凄い事例だと思っております。
そもそも誰でも最初は自分は間違っていないと信じながら歩き続けています。
時間経過と共に心理状態は以下のように進行します。
動画だと口に出してくれているため、
見事に心の変化が分かります。
ちなみにこのYouTuberの方はスマホの登山アプリを使って登山してましたが、
まさかの予備バッテリーとスマホを繋ぐケーブルの不良で電池切れとなり、
さらに紙の地図と磁石を持って来ていない状況で迷います。
・迷っていないと確信しながら進む
↓
・何か変だと思う(←この直感は非常に大切だと思う。心に引っ掛かりがあったら立ち止まるべきとも)
↓
・しかし間違っていないよなと思いながら半信半疑で進む(←心の引っ掛かりがありながら進むのは最悪)
↓
・明らかに変だと思う
↓
・それでも少し強硬に進む
↓
・ようやく間違いに気付く
↓
・恐怖を感じる
↓
・来た道を戻り始める
↓
《既に方向感覚が失われている》
↓
・明らかに来た道を戻っていない
↓
《とんでもない恐怖を感じる》
↓
・しばらく山中を彷徨う
↓
《偶然、登山道に復帰出来た》
ここで大切なのは前述したように、
偶然戻れた、と言う点にあります。
人がいない、スマホが使えない、地図も磁石も無い状態では偶然に頼るしかない、と。
もしこの「偶然」が無かったら、
もちろん遭難していた事になります。
動画においては、まだ日も高いため、
取り敢えず無理をせずに登山道を慎重に探し続け、
復帰を試みています。
これはパニックになるのを抑えながらの見事な対応であると思います。
また2日目の登山らしいのですが、
体力的にバテていないのもとても良いと思います。
疲れた状態だと無理をしてしまいますが、
その辺は5年ほどの登山歴がモノを言い体力的には全然大丈夫に見えます。
ちなみに地図と磁石ですが、
意外に知られていませんが、
「迷ってから地図と磁石を出しても手遅れ」です。
最新の登山ナビ関連の本にはそう書いてあり、
意外な盲点だと思っております。
そもそも正式な紙の地図と磁石の使い方を学ぶと、
想像以上に難しく、使いこなしている人はかなりの少数に思えます。
最初に「正置(せいち。整置とも)」と呼ばれる事をしないといけません。
これは自分が地図上のどこにいてどの方向を向いているのかを知り、
地図と現場を一致させる作業となります。
これ(正置)こそが紙の地図と磁石を使用したナビゲーションにおいて一番大切な最初の作業なのですが、
迷っていたら出来ません。
そもそも道間違いではなく方向感覚を失った彷徨い段階の山中においては、
目印となるものは極端に少なく、森林限界を抜けていない場所では視界も利きません。
全てが似たような光景になります。(動画参照)
ちなみに昔、何度か書いておりますが、
西丹沢でキャンプした時に近くの滝を見るために登山道に入って行った経験があります。
この時は危ないと思ったので事前に西丹沢自然教室(現・西丹沢ビジターセンター)に寄り、
装備チェックと状況を聞きました。
すると手書きの地図をくれ、それが後々非常に役に立ったのであります。
はっきり言って西丹沢はかなり危ないと思っております。
ヤバい感が満載であり、
事実、先日間も無くする予定の丹沢主稜縦走の意見を聞きたかったので、
神奈川県警の山岳救助隊に電話で問い合わせたところ、
裏丹沢や西丹沢は人が少ないため緊急時は迂闊に下りてはいけない、と言われたほどです。
表丹沢と比較すると極端に人が少ないですし、
何とも言えない、全てが同じ風景に見えてしまえるような樹林帯がかなりあります。
事実、北アルプスなども普通にヤる従妹はここで道迷いをした挙句に遭難しかけています。
天気予報が大外れし、晩秋に大雪。
道迷いしたけれど雪なのでビバークも出来ず(対雪装備無し)、
結果的に下山を強行するしか手段はなく、
崖のような急斜面を下りて何とかビジターセンター近くのキャンプ場に出られたと言っていました。
私の行った時は、アウトドア経験のほぼ無い妹が、
「何でそっちに行く?こっちではないのか?」と根拠のない意見を言って来て、
もらった手書きの地図を見ながら、
ああ、コヤツは既に方向感覚を失っているなと思ったのをよく覚えております。
目印になる物が少ない山中においては、
また人気のない山中においては、
街中でやるような「人に聞く」は出来ませんし、
「目立つ覚えておくべき建物」はありません。
そしてもちろん迷った段階においては、
来た道には戻れないのであります。
時間帯によりけりでもありますが、
迷って方向感覚を失い戻れないと思った段階で、
もし携帯電話が通じるようなら、
先ずは110番して、救助要請をするかどうかは別にして、
意見を聞くべきでありましょう。
警察の専門家が救助に向かうと判断したらそれに従うべきでありましょう。
携帯電話がもし通じているならその段階でともかく意見を聞く姿勢が大切かと思います。
道迷いは早い段階での対応こそが生死を分ける分岐点であるかとも思っております。
終わり
余談:登山アプリと紙の地図の併用方法について
登山アプリは便利ですがリンク動画のように失ったら最後、
大変な事態に追い込まれます。
従って紙の地図は必ず携行せよとは言われています。
しかしどうしたら良いのか。
今の私はこんな感じで使用しています。
山岳アプリを使用している場合、
前述した「正置」はスマホが自動的にしてくれますから、
登山者は画面を見ながら登山道を歩いていればいいだけです。
ちなみにスマホの登山アプリは電波の入らない場所でも使えます。
スマホ自身がGPS衛星からの電波をキャッチしますので携帯電波の有無は関係なく作動してくれます。
ただし事前に地図をダウンロードしておく必要があり、
アプリに寄ってクセがありますので、慣れるまで時間がかかります。
1ヶ月くらいの余裕を持って習熟するのをお勧めします。
私はリュックの肩紐に市販のスマホステーを付けて、
両手を放しても見られるようにしています。
また予備バッテリーと予備コードは複数携行し、
胸ポケットに予備バッテリーを入れて、
充電しながら歩けるようにもしています。
基本的にこの体制で歩行している限りは、
先ず道迷いはしません。
万が一、ルートから外れてもヤマレコの場合は警報と音声で知らせてくれます。
そもそも登山アプリで表示されているのも地図ですから、
紙の地図は、こと登山アプリが作動している限りにおいて出番はありません。
ではどこで使うのか?と言いますと、
私の場合は分岐点です。
道がストレートなら紙の地図は取り出し易いポケットに畳んで入れておきます。
重要な分岐点では必ず紙の地図を出して、それを登山アプリの地図と見比べて、
現在位置を再確認します。
つまり正置をする訳です。
磁石は登山アプリさえ動いていたら使いませんし使う必要もありません。
しかし要所要所で正置し、スマホが死んだら磁石を取り出して紙の地図によるナビをする体制にします。
幸いそれを経験した事はありませんが、
現在は紙の地図と小さなハンドコンパスを使いながら歩く、
オリエンテーリングの手法の1つである「サムリーディング」をマスターすべく練習しております。
詳しい方法は本をお読み頂くとして(そう簡単にマスター出来ない)、
この種の手法をマスターすれば、山中でスマホを失っても何とか登山を続行出来ます。
もちろん、スマホを失った時に正置出来ていれば、の話ですが。
従って要所要所で紙の地図を取り出して正置するのは最も合理的で安全な方法であるかと思っております。

