その理由として、現在も企業の内部留保がどの程度あるかによって中長期的な賃上げ計画を企業に対して求める事が望ましいが、企業にとっては内部留保を人件費等に転用することを嫌がる可能性があり、この事が賃上げなどに影響していると考える事が出来る。

 

 そのため、中小企業も内部留保を活用した賃上げを進められるように支援する事が求められるのだが、現時点で内部留保が一定額以上残っている企業がどの程度あるかは実際に調査等をかけてみないと分からない部分であるが、仮に内部留保が一定額以上残っている企業の場合は法律で保持できる内部留保額に制限をかけることで賃上げに転嫁する、設備投資などを促進するという良い方向に進んでいくことが期待できる。

 

 一方で内部留保が一定額以下で経営状態は安定しているものの、長期的な判断として経営状態が悪化する可能性がある企業の場合は賃金を上げることが困難である事から“雇用支援補助金”という名目で従業員に対して若干の上乗せを行う事で人材の流出や人材不足の回避を行えるため、一定期間をこの補助金で乗りきり、賃上げ出来るタイミングを目指すという事も今後は企業の選択肢として考えていかないといけないと思う。

 

また、内部留保が一定額以下でかつ経営状態が悪化している企業に対しては賃上げをするのではなく、外部資金投入を行い、社員の給与額の減少や給与の支払い不能等による未払いを防ぐことを優先課題として実行し、そこから従業員等への経済支援や転職支援準備等を進める事で賃上げを出来ない場合でもギリギリまで当該企業に対する支援を進める事が出来るため、キャリア移行を進める上ではかなり重要なアクションである事は間違いないだろう。

 

 ただ、この方法をとるためにはいくつかの問題や課題が出てくる。

 

 まず“内部留保に対する公的干渉”に関する問題だ。

 

 これは長年議論が進んでいない項目だが、現在は大手企業を中心に内部留保などが増額されている傾向があり、この傾向が大規模な賃上げ等につながっているのだが、現在の内部留保に対して公的取引額が適正価格であるかを公正取引委員会や消費者庁などが主体となって調査し、適正であると認められた場合はその取引額を維持することが出来るが、適正ではないと判断された場合には“内部留保の持ち出し”もしくは“相対取引額への改定”などを企業に対して強制執行し、不当に利益を得られないようにすることも必要になってくると思うのだ。

 

 なぜなら、現在の経済状況を鑑みると内部留保が賃上げを阻害しているもしくは不当な取引を助長するきっかけになっているのではないかと考えられる事例が多数報告されていることや賃上げが難しい中小企業の多くがこのような大企業等から内部留保確保の犠牲を払わされているということもある。

 

 そのため、賃上げを求めるためにはこのような実態がないかをきちんと調査し、必要な対策を取りながら公正な利益確保を出来るように各省庁が連携して取引環境や賃上げ条件を整備することが求められる。

 

 例えば、値上げ等を行う場合には回数の制限規定を設け、値上げを行う場合には公正取引委員会や消費者庁が内部留保等の状況を鑑み、適正な値上げ幅である場合には承認するが、短期間に複数回の値上げを行う場合にはきちんと審査を受けて、承認された値上げ上限率を上回らないように値上げをさせるなど不正競争防止法や景品表示法の観点からも必要な対策だと思う。

 

 そのうえ、現在は30%値上げなど大幅な値上げが行われているが、これが賃上げに伴う財政確保の名目で行われている可能性がある場合には行政指導等を検討することや適正な値上げ幅であっても品目数に制限をかけるなどして値上げ理由の濫用を避けることも検討しておかないと元請けと下請け間における賃金格差につながる可能性もあるのだ。