彼女は小学校では成績が優秀だった。しかし、それは彼女にとっては何の意味も持っていなかった。彼女は良い成績を取らないと正座か食事抜きになるのだった。そのため、頑張ってでも良い成績を取らなくてはいけないのだ。ただ、彼女は良い学校に行きたいとは思っていなかったため、何のために勉強しているのか分からなかった。そして、いじめられていることで自尊心を失い、自己肯定感も次第に低くなっていった。彼女は成長と共に自分に自信を持てなくなり、体をかきむしる、髪の毛を抜く、腕に傷を作るなど自傷行為が始まっていった。

 

 そして、次第にストレスからホルモンバランスが崩れていき、肌荒れなども始まっていった。彼女は学校に行くことも辛くなっていき、ついには学校を休むようになってしまった。担任の先生は突然学校に来なくなった美菜子を心配していた。担任の先生も「あの時にきちんと話を聞いてあげるべきだった。」や「彼女を追い詰めてしまった」と自責の念にかられていた。

 

 そのまま、彼女は学期の終わりまで学校に来ることはなかった。担任の先生は毎日1つ空いた席を見る度に「守ってあげられなくてごめんね」と心の中でつぶやいていた。

 

 一方、家から出られなくなってしまった美菜子は一日中ずっと自分の部屋にこもったまま夏菜子が帰ってくるまで出てくることはなかった。夏菜子も部活があったため、ほぼ毎日帰ってくるのは6時過ぎだが、部屋の電気は真っ暗のままで美菜子はベッドの上で天井を見ていた。

 

 夏菜子が帰ってきても一言も話すことはなかった。母親も彼女が全く話さなくなり、ご飯も食べられなくなることが増えていたことが気がかりになっていた。そこで、母親は担任の先生に電話をして聞いてみることにした。すると、彼女がいじめを受けていたことやかなり思い悩んでいたのではないかという話をされたのだった。母親は「何故その話を早くしてくれなかったのか?」と担任に対して詰め寄った。すると、担任の先生が「美奈子ちゃんの異変を感じて何度か話をしても何も話してくれなくて、事実が分からなかったため、お伝えできなかったのです。」と申し訳なさそうな口調で話していた。

 

 彼女も彼女なりに頑張っていたのだろうが、おそらく心が完全におかしくなり、自らの殻にこもってしまったのだろう。今も彼女はどこに向かうべきなのかわからない。1度いじめを経験してしまうとまた何かされたらどうしようという不安からくる恐怖が彼女の背中を引っ張っている。母親もいじめを受けたことはあるが、彼女のように追い込まれるような経験をしたことはなかったため、母親も彼女の状態を知る事は難しかった。そのため、彼女をなんとかして学校に行かせようという考えやなんとかして良い成績を取らせようと思うことはなかった。