彼女は学年があがっても引っ込み思案で、周囲とは積極的に交流を持とうとはしなかった。そして、次第に家族とも距離を置くようになってしまったのだ。そして、小学校4年生になると学校に完全に行けなくなり、家に引きこもるようになってしまった。彼女は家族に申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、彼女の心と体は限界をとっくに超えていたため、これ以上無理をしたら死んでしまうような恐怖に陥っていた。しかし、両親は無理をしてでも学校に行くように叶那子を説得していた。なぜなら、彼女は両親には何があったのかを話していない。そのうえ、父親は娘がどうなっているのかを興味を持っていなかった。

 

 彼女はその夜、学校で使っていた教科書を全てごみとしてゴミ袋に入れて捨てていた。そして、家族が捨てに行くゴミ袋と一緒に置いていたのだ。そして、袋に「これはゴミなので確実に捨ててください。」と書いていた。つまり、叶那子はもう2度と学校には行きたくないということなのだろう。すかさず、両親がそろって彼女の部屋に行くと彼女の部屋には鍵がかかっているのか、何かで開かないように工作しているのか分からないが、何度押しても引いても開くことはなかった。そして、開けるように何度もドアを叩いて叶那子に対して促していた。一方の優美子は来年小学校1年生になるため、お姉ちゃんと一緒に登校することを楽しみにしていた。しかし、お姉ちゃんが再び学校に行けるようにならないといけないし、彼女の心の傷の回復状況が順調にいかないとそれらの希望は絶たれてしまう可能性がある。実は彼女に何があったのかを誰にも話していなかったため、周囲の大人も先生たちも彼女が学校に来なくなった原因や発端となった出来事などを知らなかった。

 

 ある日、先生が不登校の児童のいる学年にいじめ調査を校長先生から指示された。そのときに回収したアンケート調査票を確認していくとある事実が発覚した。それは、叶那子が複数の女子児童と男子児童それぞれからさまざまないじめを受けていたということを仲の良かった女子生徒が教えてくれた。ただ、詳しいことは教えられないというため、先生の家から誰もいないときにその児童へ連絡を取って状況を聞くことにした。後日、先生から連絡が来た児童と話すことが出来て、たいていの概要を把握することが出来た。しかし、このことをどのように校長に報告するのかで頭を抱えていた。というのは、いじめ行為が発覚した場合、教育委員会への報告をしなくてはいけないのだが、このことが公になると叶那子もそうだが、いじめを受けていた子たちが更に学校に再び登校することが難しい状況になってしまう。先生はなんとかして子供たちに安心して学校に戻ってきてもらいたい。そして、彼ら・彼女たちが再び楽しく勉強が出来る環境を整備して、さまざまな形で学校生活が楽しくなるように配慮したいと思っていた。

 

 いじめにより親子関係も友人関係も簡単に壊し、今まで積み上がってきた信頼も一気に崩壊してしまった。

 

 いじめは本当に怖いことだと痛感した。