中学2年生の夏になり、受験に向けた準備と対策のための夏期講習が始まることになり、講習の日程と科目についてのアナウンス、講習で使用する追加テキストの購入が始まった。発表されてから周囲のクラスのメンバーはすぐ申し込んでいたが、菜芽にとっては悩ましい問題だった。というのは、姉たちはすでに働いている。もちろん収入もきちんとある。しかし、金額が高額のため、なかなか姉たちには言い出せない。もちろん、他の兄弟に話しても良いが、兄たちには家庭があるため、迷惑をかけてしまうかもしれないと思ったのだ。夏休みには担任との個人面談三者面談、学期が明けると学年主任との個人面談と三者面談、進路指導部長との個人面談と任意になっているが、三者面談がある。しかし、それぞれ個人面談は行けても、三者面談は姉たちのスケジュールを確認しなくてはいけないし、仮に予定が入っていない場合でも急に仕事が入る可能性もあるため、当日にならないと行けるか分からない。

 

 それでも、彼女にとってこの進学は人生をかけた挑戦でもあるのだ。実は彼女の気持ちの中で「兄や姉に恩返しがしたい」という気持ちが芽生えていたことは言うまでもない。しかし、その反面として彼女はどこか他の兄弟たちに申し訳ないような気持ちがあったのも事実だった。彼女は末っ子だったからだろうか、周囲からかなりかわいがられた。しかし、心の中での葛藤は計り知れなかった。今まで姉たちは転校などをする事はなかったが、母親から「女の子ならこうあるべきだ」という型枠を作られてその型に順応させられるという経験をたくさんしてきた。その影響なのか、姉たちは妹である菜芽に対しては型枠にはめようとも、考えを押しつける事もしたことがなかった。むしろ、行きたい学校を決めたらとことん応援してくれていたし、制服や学用品などが必要になると必ず買ってくれた。このようにやりたいことをやりたいようにやらせてくれて、必要な物を買ってくれていた兄や姉に頭が上がらなかった。そして、迎えた個人面談1回目となる担任との面談当日。空はまるで彼女を応援するかのように晴れ渡り、昨日まで降っていた雨がその日だけは止んでいた。その時彼女は「きっと天国にいるおじいちゃんおばあちゃんが私のことを応援してくれるのかもしれない」と思った。