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JR東海はN700系以来のフルモデルチェンジとなる東海道・山陽新幹線の次期標準車両として「N700S」を製作,このほど確認試験車となるJ0編成が平成30(2018)年3月23日(金)に落成し東京交番検査車両所に配置されました。「N700S」は平成17(2005)年製造のN700系(量産先行車,Z0編成:現X0編成)登場以後も進化し続けたさまざまな最新技術を採り入れて誕生した車両です。主な特徴として,ATCとブレーキシステムの改良により地震時のブレーキ距離短縮,台車振動検知システムの機能向上,駆動システムの大幅な小型軽量化,機器の小型化による「標準車両」の実現・16両編成の基本設計のまま様々な編成(8両編成・12両編成など)にも適用可能,小型大容量のリチウムイオンバッテリーを搭載し,停電等の非常時時でも低速で自力走行し安全な場所まで移動する事が出来るバッテリー自走システムを装備,座席の改良による快適性の向上などです。今回完成した確認試験車の試験結果をもとにして令和2(2020)年7月に量産車が投入される予定です。確認試験車は量産に向けた最終確認では,客室内の騒音や乗心地を見るうえで設備もきちんと作りこまれていないと確認できないという考えから,座席などの車体設備は16両全てに設置されていますが,営業運転には使われない車両です。
「N700S」は東海道・山陽新幹線として定着した「N700」の名称に「最高の」を意味する「Supreme」の「S」を付けたものです。
「N700S」確認試験車は,16両編成(14M2T)で,東京方16号車から744-9001+747-9501+746-9201+745-9501+745-9601+746-9701+737-9001+736-9001+735-9001+747-9401+746-9001+745-9301+745-9001+746-9501+747-9001+743-9001の組成で日本車両と日立製作所が製造を担当しました。乗車定員は1323名(グリーン車200名+普通車1123名),最高速度は東海道新幹線区間は285km/h・山陽新幹線区間は300km/h,曲線通加速(R2500m)は275km/h,起動加速度は2.6km/hです。1編成当たりの出力は17080kW,台車は高速ボルスタレス台車,車体傾斜システムは空気ばね式(傾斜角度は1度),グリーン車は高性能フルアクティブ制振制御装置,普通車は高性能セミアクティブ制振制御装置をそれぞれ装備しています。
平成30年6月23日(土)に「N700S」確認試験車が東京駅を出発し新大阪駅へ向かっている事を知り,新大阪駅へ向かいました。「N700S」確認試験車は新大阪駅24番線入線でしたが,撮影するため待っていた25番線には列車が停車していたので,入線するところは残念ながら撮影出来ませんでした。「N700S」確認試験車は新大阪駅到着後約3分程で東京駅へ折返して行ったので,車両全てを撮影出来ず,また機会を見つけて撮影したいと考えています。
▲雨が降りしきる中,東京駅へ向けて出発する「N700S」確認試験車(J0編成)。この日初めて東海道新幹線全区間(東京駅-新大阪駅)を走行しました。23日は東海道新幹線を2往復(「のぞみ」ダイヤ1.5往復,「こだま」ダイヤ0.5往復)運転されました。画像は1往復目の復路で,列車番号は7884Aです。数分間で折返して行きました。1往復目の往路では東京駅で報道公開が行われています。
J0編成は令和2(2020)年7月に営業運転開始予定の「N700S」量産車の仕様を最終確認する役割と,東海道新幹線の更なるブラッシュアップを目指しN700系X0編成の後継としての試験車の役割をあわせ持っています。N700Sのデザインは700系・N700系のデザインにも携わった福田哲夫氏が携わっています。
▲ついに姿を現した次代の東海道・山陽新幹線用車両「N700S」確認試験車J0編成。平成30年3月20日(火)から走行試験が始まったN700S確認試験車。これまでは長らく深夜帯に,6月4日(月)から浜松工場への分岐点-新大阪駅間で日中の走行試験が実施されていましたが,平成30年6月23日(土)から東海道新幹線全区間で本格的な走行試験が始まったN700S確認試験車(J0編成)。今後,平成30(2018)年は基本性能試験として力行やブレーキ装置の試験やすれ違い試験,東海道・山陽新幹線で性能確認試験を行い,平成31年・令和元年(2019年)から長期耐久走行試験を概ね2年間走行し車両の耐久性の確認が行われます。またバッテリー自走システム試験,8両編成試験も行われます。
▲新大阪方先頭1号車普通車743-9001(Tc)。床下機器として電動空気圧縮機を山側,水タンクを車両中央部に搭載。16号車との共通事項としてM車改造が出来る設計になっています。台車カバーは前頭側がフルカバー,後位側は3分割のハーフタイプで台車はTTR7005Xを装備。2・4軸外側に着雪対策として融雪ヒータパネルを設置。定員65名で日立製作所製造。
▲編成中間2号車普通車747-9001(M)。おもな床下機器として車両後位側(3号車寄)に主変換装置(CI/コンバータ・インバータ:主変圧器(MTr)から定電圧の単相交流を入力して主電動機を作動させる可変電圧・可変周波数の三相交流を出力する機器のパワー半導体素子にSiC(炭化ケイ素)素子を採用しブロアレス化)・補助空気圧縮機を後位端部に搭載。15号車との共通事項として先頭車をM車改造した場合に先頭車用CIを搭載するスペースを確保。台車カバーは3分割のハーフタイプで主電動機駆動システムにSiC素子を採用し電磁石を6極に増やし小型軽量化の主電動機を装架したTDT207X台車装着。後位側屋根上にパンタグラフ搭載の準備工事があり短編成化に対応。全客室構造で定員は100名。日立製作所製造。
▲編成中間3号車として組み込まれる普通車746-9501(M´w)。おもな床下機器として車両中央部に主変圧器(MTr)・真空遮断器(VCB)・CIが並びます。台車カバーは2分割のハーフタイプで主電動機駆動システムにSiC素子を採用し小型軽量化の主電動機を装架したTDT207X台車を装着。N700系で設置されていた喫煙ルームは,確認試験車という位置づけから省略(7・10・15号車に設置)され当該スペースは空いた状態です。後位側(ロゴマークある部分)に設置のトイレは11号車とともに停電時にも使用出来る仕様です。定員は85名で日立製作所製造。
▲編成中間5号車に位置する普通車745-9301(Mpw)。おもな床下機器として車両中央部にCI,電動空気圧縮機,補助空気圧縮機などを搭載。台車カバーは2分割のハーフタイプで主電動機駆動システムにSiC素子を採用し小型軽量化の主電動機を装架したTDT207X台車を装着。後位側に集電装置(パンタグラフ)と付帯する2面側壁や碍子カバーを設置。確認試験車ならではの存在として車端部上部にN700系X0編成と同じく海側にパンタグラフ撮影用投光器(光源はLED),山側(画像側)にカメラを設置。後位側に洗面所設備があり定員は90名。日本車両製造製。
▲N700Sの奇数号車に配置されるロゴマーク。「Supreme」の頭文字「S」を中央に配し,高級感と上質感を表現した白地に金色の配色と形状となっています。
▲5号車(745-9301)と12号車(745-9601)に搭載されている集電装置(パンタグラフ)。「N700S」確認試験車のパンタグラフは支持碍子を2本に減らし基部の内部構造を見直し基部の幅が狭くなり,そこを覆う碍子カバーの幅も狭くなっています。たわみ式すり板(多分割すり板)が取り入れられ,分割されたすり板を個別バネ装置で支持し,すり板全体がしなって動けるようになりました。N700Aと比べて1台あたり約50㎏軽量化しています。パンタグラフ監視装置を搭載。パンタグラフ二面壁は,パンタグラフの基部が小さくなったため,二面側壁も幅が狭くなっています。
▲新大阪先頭車743-9001(1号車)の後位側と東京先頭車744-9001(16号車)前頭部側は3分割のハーフタイプの台車カバーで融雪パネルを設置など着雪対策が強化されています。台車はTTR7005Xを装着。
▲編成中間に位置する745-9001(4号車)の台車カバーは2分割のハーフタイプで,746-9501(3号車)・745-9301(5号車)・746-9001(6号車)・746-9701(11号車)・745-9601(12号車)・745-9501(13号車)・746-9201(14号車)が同じタイプとなっています。台車は全てTDT207Xを装着。
▲1号車となる743-9001の前頭部側面にはすれ違い試験の時に使用される測定用の窓(青帯部分)と思われるものが設置されていました。16号車の744-9001は未確認です。
▲743-9001(1号車)の前頭オオイ(連結器カバー)部分には銀テープで固定された測定装置(ケーブル)が取付られていました。 「N700S」は次世代の新幹線の車両となるべくして登場しました。東海道新幹線伝統のパールホワイト(白3号)にブルー(青20号)の帯を巻いています。先頭形状はN700系シリーズをさらに進化させ車体左右両サイドの標識灯(前照灯・尾灯)付近から後方にかけてもエッジの立った「デュアルスプリームウィング形」と呼ばれる形状で,走行風を整流してトンネル微気圧波・車外騒音・走行抵抗・最後尾車動揺を低減しています。側面の青帯がN700系より先頭方へ長く伸び,先頭部はSの字をイメージしたデザインとなっています。前面形状が改良され,開口部が大きくなった標識灯は「N700S」のアクセントになります。新幹線車両では初めてとなる標識灯がLED化されました。標識灯はN700系に比べ+80%に拡大され,運転士からの視認性向上が図られました。
▲N700Sの礎となったN700系A(X77編成)。X77編成はZ77編成を「A」(アドバンス)化改造を行っった編成で,Z77編成時代は,車両番号に777-77(10号車・グリーン車)が存在していましたが,「A」化改造で元番号に+2000となり現在は見れなくなっています。N700SはN700系置換用として開発がスタートしています。
画像は全て東海道(山陽)新幹線新大阪駅にて
※参考文献:「新幹線EX(エクスプローラー)」 Vol.47 2018Spring 特集N700SJ0編成の実力に迫る(イカロス出版),「鉄道ファン」2018(平成30)年6月号・9月号(交友社),「鉄道ピクトリアル」2018(平成30)年6月号(電気車研究会)。「新幹線EX(エクスプローラー)」はN700S開発に携わったJR東海の方々へのインタビューなどN700S確認試験車の詳細が記載されています。