スワップの基本コンセプト、そしてクロスカレンシーとは? | マサのデリバティブ日記

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為替デリバティブを中心にいろんなトピックスをとりあげたいと思います。 © 2014-2016 Masayasu Aikawa

為替予約の仕組みを拡張したオプション・ストリップスでは、ゼロコストのもとで将来の決済レートを固定化するという明確なリスクヘッジ効果をつくりあげることができていました。もちろん、リスクヘッジ(オプション・ロング)とリスクテイク(オプション・ショート)のトレード・オフでゼロコストを実現しているので、そのバランスをさまざまなタイプのオプションでうまく構成できるよう工夫していくことになります。

今回は、新しいリスクヘッジツールとして、”スワップ”をとりあげます。

これまで登場したスワップとして為替スワップ取引がありましたが、この取引はスポット日の外貨売買と将来時点での反対売買を同時に契約するものでした。より一般的には、スワップでは「キャッシュ・フロー(Cash Flow、CF)」「レグ(Leg)」という考え方がとても本質的になります。

キャッシュ・フローというのは、よく”資金の流れ”といわれますが、結局は”キャッシュ・フローが発生する時点”と”金額”、そして”受けor払い”の3つの要素で特徴付けられます。つまり、”いつの時点”で”いくらの金額”を”受取るまたは支払う”のかをセットにしたものです。例えば、”半年後に100万円を受取る”というように示されます。

そして、レグというのは、時系列に並ぶキャッシュ・フローを束ねたもので、例えば”半年毎に100万円を10回受取る”というものです。このレグは、「想定元本(Notional)」「金利(Interest Rate)」「取引期間(Trade Tenor)」「金利支払日(Payment Date)」そして「支払者」の5つの要素で定義されます。先ほどの”半年毎に100万円を10回受取る”というのは、例えば、以下のように表されます。

     想定元本 : 1億円
     取引期間 : 5年
     金利 : 2.00%(年率)
     金利支払日 : 毎年1月末および7月末
     金利支払者 : 相手方

leg


横軸は時間軸、上に伸びる複数の矢印は半年毎に発生するCFを表しています。この場合ですと、1億円の2%(年率)の半年分にあたる100万円(=1億円×2%×1/2)が5年間にわたる毎年の1月末と7月末に相手方より支払われる(=受取る)ことを意味しています。想定元本という”金額の基準”に金利を掛けて、CFの大きさを表しているわけですね。

実は、レグにも日付計算などでコンベンションがありますが、それについては、別途、プライシング(時価評価)の解説の中で説明します。

そして、この1レグの相手方(このような取引関係者を「取引参加者(Party)」といいます。)とのCFの受け渡しの様子を下図のようなダイアグラムで表します。

1-leg


さらに、レグには金利の種類によって2つのタイプがあり、「固定レグ(Fixed Leg)」「変動レグ(Floating Leg)」に分かれます。レグの金利が固定金利の場合は固定レグ、変動金利の場合は変動レグとなります。住宅ローンでも固定金利と変動金利のタイプがあると思いますが、それと同じです。変動金利の場合は参照する金利を特定する「インデックス(Index)」を指定します。スワップの世界で最もよく使われる変動金利は”LIBOR(ライボー、London InterBank Offered Rate)”です。インデックスとなる参照金利は時々刻々と変化しますので、いつ時点のものを適用するのか時間までしっかり契約で規定します。

スワップというのは、”ゼロコストのレグの交換”(つまり”受取レグと支払レグのセット”をゼロコストで組成したもの)と定義します。そのため、スワップ取引としては、”固定レグ vs. 固定レグ”、”固定レグ vs. 変動レグ”、”変動レグ vs. 変動レグ”の3つのタイプに分かれます。また、交換するレグが同一通貨の場合は一般に「金利スワップ(Interest Rate Swap)」といいます。ただ、ここでは、為替リスクヘッジを考えますので、異なる通貨間のスワップ、つまりクロス・カレンシー・スワップを扱います。まさに外国金利と国内金利の両方にまたがるクロスカレンシー取引です。

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crs


そして、異なる通貨のレグを交換するクロス・カレンシー・スワップには、2つのタイプがあります。「通貨スワップ(Cross Currency Basis Swap)」「クーポンスワップ(Cross Currency Coupon Swap)」です。両者の違いは、当初及び満期での元本交換の有り/無しです。

両者とも取引期間中は決められた期日にキャッシュ・フローの受払いがあるのですが、通貨スワップでは取引期間のスタート時点と満期時点に異通貨の想定元本の総額を交換します。このパーツだけみれば為替スワップに近いと思うかも知れませんが、決定的に違う点は、通貨スワップの当初と満期の元本交換の交換レートが契約時の為替レートと同一水準であるというところです。為替スワップではゼロコストで組成するために、当初は為替スポットレートで外貨を売買して、満期では為替フォワードレートで反対売買します。ということは、通貨スワップの当初と満期の元本交換の交換レートを同じにしてしまうと、ゼロコストとなりません。実は、期中の異通貨間キャッシュ・フローで調整されて、はじめてゼロコストとなるのです。

通貨スワップとクーポンスワップでは、この元本交換の有り/無しの違いによって、為替リスクヘッジの目的が少し異なります。

次回は、通貨スワップ取引の仕組みと、為替デリバティブとしてのリスクヘッジの様子を具体的にみていきましょう。