世には色々と変わった人間がいます。私の周りだけでも、何か月も小さな船で太平洋を好んで危険な船旅をしている人間があるかと思えば、わざわざアラスカの寒い地に行って過ごしている女性があり、ある国の軍隊に傭兵として入って何年も日本に帰らない人間もあります。彼らはイマジネーションを膨らませて、凡人が思いつかない世界へ旅立ったのでしょう。

 

しかし普通に多くいるのは、仕事好きなのかいつも仕事から離れられず、仕事と無関係な無駄な時間はできるだけ削って、分野の違う人とは関係を持とうとしないで、自分から了見を狭くしているような人間もいれば、仕事をそっちのけで色々な人間と広く交流していつも遊びまくっている人間もいます。

 

私はと言えば、-20度になる戦場で祖国を守るために戦うウクライナ兵のことや、暖房も食糧も少ない田舎でガチガチに凍った家を守る人らを思うと、気象予報士が今日は今年一番の寒波が来ると脅しますが、めったに零下にならない東京で暮らす自分は部屋に暖かいエアコンをつける気にならないのです。

 

それで、夕方から気温が下がる小部屋で、昔、裁判官としていい働きをした今は故人の知人から貰った、南極でも使えるという羽毛の軽いLサイズのジャンパーに身を包み、腰から下は手製の長めのスカートをはいて過ごしているのです。このスカートはむろんスカートですが、これもある知人が毛糸のセーターの端切れに裏布をつけたものを何枚も頂き、私がパッチワークのように何枚も繋ぎ合わせてスカートに仕立てたもので、これを履けば足元の暖房効果抜群。で、北向きの寒い小部屋でもエアコンなしに過ごせるのです。こうして、今どきの東京で、人が見たら実にけち臭く見える生活をぞっこん楽しんでいる人間なのです。

 

今は省エネの時代。また気候変動と地球温暖化を考え、温暖化のスピードをグンとダウンさせなければ人類はこの惑星で生き残ることができないかも知れない時代を迎えています。そのため、私はこんなしみったれに見える日常の姿を好んでしている訳ですが、この間近くの区役所に用事があり、寒い日であったので厚着で4階の税務関係の課に行ったのですが、その部屋の熱いことと言ったらたまらなかったです。見るとほぼ全員がカッターシャツ一枚になって仕事をしているじゃあないですか。この大寒の時期にですよ。びっくりしました。

 

用事がすんで、この部屋は熱いですねと言ったら、おそらく有名大学を出た若く賢そうな係員が、「全員がパソコンを使っているので部屋が熱くなるんです」とシャーシャーと言ってのけたのには恐れ入りました。多分後期高齢者をとっくに過ぎた高齢者には、パソコンの発熱量など知らない分野だろうと、いわば猫に水をぶっかけるようなことをしたのでしょう。

 

税務課は区民から住民税を取り上げている総元締めのような課ですが、ここでは税金を惜しまず平気で暖房に使って、普通の市民が日々案じている気候変動を少しも気にかけていないようなのです。区役所の若者の意識がこれでは、来世紀まで日本の国は持つのか、人類は持つのかと思わず心配になりました。いや、能登の被災した人らを思っても残念でした。

 

イマジネーションという若者に流行った歌がありましたが、歌を歌っているだけじゃあ想像力は豊かになりません。イマジネーションより、腹をすかし寒さに凍える生身の人間へのシンパシーこそ大事で、いったん生身の人間への愛のシンパシーを持てば、愛と連帯のネバー・ギブアップが心に住み続けるでしょう。

 

思わずため息をつきながら、エレベーターを使わず階段で一階まで降りましたが、生身の人間へのシンパシーを持つ者は、いつまでもため息などついておれません。家に帰れば、またはるか遠くの-20度の人らを思い、相当変わり者だと言われそうですが、あのLサイズのジャンパーと手作りスカートに守られ、寒い小部屋で中々完成しない仕事をしながら楽しく過ごそうと、暖房のきいた区役所を後にしたのです。

 

「難船したことが三度。一昼夜海上に漂ったこともありました。……苦労し、骨折って、しばしば眠らずに過ごし、飢え渇き、しばしば食べずにおり、寒さに凍え、裸でいたこともありました。」(1コリント11章)

 

          2月3日