読書感想 鹿の王 | 映画や芝居の感想

映画や芝居の感想

映画や芝居の感想、言いたいことを言いたいように自由に表現します。毒があるかも

今、映画がかかっているので見てきたら、あまり感動がなかった。

だけどそんなことってある?

上橋菜穂子だよ!

否、上橋菜穂子という作家は広がりのある世界をち密に多面的に描写しつくす作家だ。 絶対にこんな中途半端な感動で済むような作家じゃない。

彼女の世界は温かく、良いにおいがする温かい食べ物に溢れ、精神も肉体も整った男女が活躍するのだ。肉厚で立体的で私を包み込みさらっていく世界なのだ。

 

ということで「鹿の王」を読んだ。

といっても聴き放題のaudibleだから、超安心。

 

私は出版された直後に読破しているんだけど、一切覚えていないという情けなさ。

やはりこのようにして自分のためだけであってもアウトプットはしなければならんな と強く思った次第。

しかも、上橋菜穂子の小説を忘れてしまうなんて悲しすぎる。

 

あらすじ

強大な帝国・東乎瑠(ツオル)から故郷を守るため、死兵の役目を引き受けた戦士団“独角”。妻と子を病で失い絶望の底にあったヴァンはその頭として戦うが、奴隷に落とされ岩塩鉱に囚われていた。ある夜、不気味な犬の群れが岩塩鉱を襲い、謎の病が発生。生き延びたヴァンは、同じく病から逃れた幼子にユナと名前を付けて育てるが!? たったふたりだけ生き残った父と子が、未曾有の危機に立ち向かう。壮大な冒険が、いまはじまる――!

 BY アマゾン

 

病の話なのでコロナ渦の今読むのはまさにピッタリ。

病を操ろうとするもの、愛する国を守ろうとするもの、愛する人を守ろうとするもの、

政治、民族の絡み合った世界でその土地の特徴と思想を描きながらキャラクター一人一人の個性も鮮やかに絵巻物が繰り広げられる。

ストーリーの概略を載せてしまうとそれだけでもう一杯になってしまうから省きたい。

 

オタワル、アカファ、ツオルの3つの民のそれぞれの思惑、悲しみ、政治の駆け引き。

 

主人公1のヴァンはアカファで中年の強く正しい人だ。悲しみを恨みに変えることをせず包容力があり、人としてのすべてを持っている。 上橋菜穂子の小説の主人公って感じ。

野性味あふれるところも魅力。 

主人公2のホッサルは医術士。西洋医術に当たる。 彼もまた清廉な人だ。高貴な血筋でありながら国を持たず高度な医療によりどの国にでも根を生やしていく、まるでユダヤ人のような印象。

ツオルは平たい顔族だからアジア系って感じ。 組織だった動きや計算が得意でマネージメントに長けている。

主人公はこの二人だけど、女性も大活躍。 賢いミラルに精霊の守り人のバルサを思わせるサエ。

みんな心の正しい人ばかり。

 

このお話しには「悪役」という人は登場しない。

戦う相手であっても彼らには彼らの理屈や正義があり、それは私にも良くわかる

そうだろうな と思う。

上橋菜穂子は本当にすごい。

 

謎の病「ミッツァル」がまた恐ろしい。

この病、小説の中の病と思えないほど込み入っているし、変化していく。

コロナでウィルスが次々新型を生み出すのを実感として感じた後だとリアルに怖くなる。

 

また、いつもながら食べ物がおいしそう。

土地から採れたもののごちそうで、民俗学の先生というのがほんとによくわかる。

私「バルサの食卓」っていう、ジブリ飯ならぬ精霊の守り人飯本を持っているのだけどあまりにおいしそうだから作ってみたくて仕方なくなるってやつ。

上橋菜穂子は日本の宝だな。

 

動物も生き生きしてる。

トナカイにピュイカ、大鹿。 黒狼、犬、オッサム

もう、目に浮かぶ。 しかも生態まで描き切っている。

 

まぁ、何というか映画にするの無理ありすぎだよ。

物語の魅力はその細部に宿っているのだから。

4巻に分けた1巻だけ。。とかにした方が。っていうか絶対テレビシリーズでしょ。

精霊の守り人や獣の奏者と同じくNHKで良質なアニメにしてくれれば良かったのに。

 

どうやら続き?番外編があるのがわかったので急いで読もうと思います。