REQU二浪日記は
イチローが二浪していたときに私が書いた愚痴日記です。
 
今回は
二浪の受験が終わった、調度今頃の季節に
親子揃ってイケメン先生にご挨拶へ伺ったときの話です。
イケメン先生がいなかったら、
イケメン先生が塾をやっていなかったら、
一体私たち親子はどうなっていたのか・・・
イチローは「恩師」と呼べるのはイケメン先生だけだと今でも時々口にします。
 
289話は無料公開となっておりますので興味のある方はご覧ください。
 
289話 イケメン先生ありがとう①
290話 イケメン先生ありがとう②
291話 イケメン先生ありがとう③
292話 イケメン先生ありがとう④
 
 

289話 イケメン先生ありがとう①


駅の改札を抜けると

バケツをひっくり返したような雨

本当にそんな雨が降っていた。

「・・・イチローっ!」

私は思わず彼をにらんだ。

「え?俺のせい?俺のせいなの?」

そんなこと言われても。

イチローはそう言う表情で私を見る。

「あんたのせいに決まっているでしょ?

だいたい、今日は朝は晴れてたもん。

その後曇って小雨になった・・・

ほらね、全部の天気になってるでしょう?

あとから強風も吹くかもね。

だいたい電車に乗ってた時にはさ、

確かに雨は降っていたけどさ、

こんなバケツをひっくり返したような雨じゃなったよね?」



今日はイケメン先生の塾へ

二年間の指導のお礼の挨拶へきている。

先生のご都合で授業終了後の夜の時間帯だった。

私は仕事を終えた足で、

イチローは自宅から、

途中駅で合流し、塾の最寄駅に到着したところだった。

駅から教室のあるマンションまでは1分とかからない。

「天気予報はひどい雨みたいだけど、先生に行くって言っちゃったし駅から近いし、まあいいか。」

と訪問を決行したのだが

駅について見たら、マンションまでの徒歩1分弱の間すら

外を歩くのがためらわれるほどの降りだった。


私は雨予報と、イチローと一緒ということを考えて

経験上、ある程度の用意はしていた。

朝は晴れていたので普通のパンプスで出かけたものの、

雨が降ったら会社で履き替えられるように

レインブーツを持参していたたし、骨の丈夫な傘を選んで持った。

突然の土砂降りで、道路には深い水たまりができている。

季節外れのゲリラ雷雨って感じの雨だった。

イチローの靴はハイカットではあるものの布製だったので

靴の中に水がたっぷりと入ってしまいそうだった。

「降るか? こんなに?」

私は歩きながらイチローに言う。

土砂降りなので大声だ。

大声を出さないと隣の人に声が聞こえないなんて雨、そうそうない。

「あのさ、僕一人の時、必ずこうなるわけじゃないから。

お母さんと、二人揃うと、ってことじゃないの?

僕のせいだけじゃないよ!」

なんだって、なんだって?

アタクシのせいだって?

私はイケメン先生に会う最後の日なので

綺麗に巻いてきた髪が濡れてほどけるのが悲しかった。

まあ先生はそんなこと1ミリも気にしないのは明らかだけど。

ようやくマンションのエントランスについた。

イチローは慣れた手つきで部屋を呼び出し

オートロックを解除してもらう。

部屋へ入ると

イケメン先生は立って挨拶してくれた。

「どうも、こんにちは。」

相変わらずのポーカーフェイスだ。

「先生!お久しぶりです。」

私は笑顔でそう言った。

教室のテーブルは片隅に

小さな二冊の参考書があるきりだった。

この前来た時は、赤本やらプラチカやら、

様々な受験参考書が小山を築いていたのに、

受験生が卒塾した今、

塾の表情もあの頃とは違っているようだった。

私は面談の時にいつも座る先生の正面の席に座った。

イチローは先生を見た。

どこに座ればいいの?

と言う感じに。

先生は、普段のイチローの指定席、

先生の隣、ではなく、

私の隣にあたる、先生の対面に座るように促した。

普通の面談の時にはイチローは

私がどこに座ろうと、

何のためらいもなく、先生の隣に座ってたっけ。

座る席、一つとってみても、

ああもう、塾生ではないんだなぁ。

と思い、私は何となく寂しかった。

席に着くと先生は

私をまっすぐに見て

「良かったですね。」

と言ってくれた。

そうだよね。先生。

おそらく一番手のかかった保護者だったよね。

先生は何も言わなかったけど

イケメン塾では前代未聞に違いない。

だってマサヒロ母の3~4倍は面談やら相談やらをしている計算になる。


「ええ。本当に。よかったです。私は年末あたりから、精神的にめげてました。なるべく表に出さないようにはしてましたけど。
合格して本当にほっとしました。ありがとうございます。」


そう言って先生の顔を見ると、

微笑んでくれていた。

私は続けた。

「イチローは最後の最後まで模試が悪かったですからね・・・。

もちろん先生のせいではありませんがとにかくミスがひどくて。

一点でも足りないと合格しないのが受験じゃないですか。

私は2か月くらいずっと生きた心地がしませんでした。」

私は正直な気持ちを打ち明けた。


イケメン先生はまだ若い。

無駄に心配する母親の気持ちは

まだあまりわからないだろう。

ちょっとは知っておいた方が今後のためにもいいかもと思って、包み隠さず伝えたのだった。


「なんとかセンターで滑り止めは、二つ取れました。その大学は私も好きですし、希望の学部でしたし。
行かせて悔いなしの大学でしたけど、でもやっぱり、推薦でも行けたところだったので・・・。」

先生はそうですよね。

という感じで聞いている。

それでイチローの方を向いて

「よかったよ。」

と言ってくれた。

イチローは照れくさそうに

「ああ、はい。」

とだけ言った。

なんかもっとないのかね?男って奴は。

私は目でイチローに

もっと気の利いたこと言いなさいよ

と訴える。

イチローの言葉が足りないことなど先生は気にもせず

「けっこうやったもんな。あのくらいやれば取れるよ。やっぱり最後はああならなないと。」

と、イチローを見てはっきりと言った。

「ええ。そうですね。はい。」

イチローはうなずきながら返事をした。

それから先生は私の方を見て

「メールでもお伝えしましたが、最後の追い込みは、かなりのものでした。ああならないと取れないんです。

逆にああなれた子は取れる。
彼は一人で過去問解きまくっていましたから。」

先生は 

な?

と言う感じでイチローを見る。

イチローはうなずきながら

「はい。」

と小さく返事をした。

「二浪ですからね、かなり精神的に追い詰められたと思いますけど・・・
よく頑張りましたよ。」

と先生は説明してくれた。



そうか。

そうだったんだ。

けっこうやり込んでいたんだな。

家でもやっていたのを見たけどさ

塾でも家でも君はちゃんとやっていたんだね。

私が個別指導なんかにしたものだから、

先生次は何にすればいいの?的な指示待ち君になってやしないかと心配したこともあったけど

さすがにそれはなかったか。

「僕もどこが合うのかな、と随分考えたんですよ。」

イケメン先生はそう言った。

それは私が夏前から頼んでいた

「押さえの一校の過去問対策」について言っているのだと思えた。

それはミスキングなイチローを懸念した私が

「一つでいいいから確実に取れるところを今からやり込むことによってつくりたい」

と申し出たことから始まったのだ。

イケメン先生は、

イチローは二浪だとはいえ、

「私が言うような対策は時が迫れば必ず行う。夏前から、塾で行うのはもったいないことだ。
その時間があるなら、数学の指導に使いたい。」

と言う考えで、譲らなかった。

イケメン先生は最善策以外は泣いて頼んでもやってくれない。

約束と違うじゃん!

その子に合わせた個別指導って言ったじゃん!

そう思う時もあったけど、

時期が来てからは濃縮された対策をし

ちゃんと約束を果たしてくれた。

随分考えた、というのは本当だった。

M大、Rm大、J大、DS大・・・

ここのあたりは数学物理はさほど問題ないのだが

英語・・・これがイチローのネックとなった。

Rmの英語ナシは3月だし、

DS大の数理重視は大学大学とかぶっていた。

M大は合格最低点が高いので数物で英語の穴を埋めにくい。

そして、S工大はイチローにとって数学の相性が悪いらしい。

そこで出てきたのが

R大のKK学部だった。

ここなら取れる

ということだった。

そして、センター試験が終わったころに

急浮上したのがMARCHの☆大。

イチローと先生は二人で話したと言う。

R大のKK学部と ☆大の両方に合格したとしたら

どちらに進学するべきか。

R大は留年率が高い。

イチローは二浪しているので、ストレートで卒業しないと

新卒扱いの就職ができない。

R大の中でも留年率の高いKK学部は

入学後に危険があった。

二つの偏差値はさほど変わらないし、

イチローはどちらかなら ☆大学に進みたいといい

先生もそれに賛成したと言うのだった。

はーん。 それでか。