「あの子はそんなに勉強が好きだったのかしら？」
二年通った大学を辞め、
大学を受け直すと言った息子の母の言葉だ。
「そんなに受験勉強がしたいなら
高校の時に一所懸命やれば褒められたのに。
なんで今更やるのよ。
時期がずれてんのよ。バッカじゃないの？」
その母は続ける。
「辞めた大学へ通うことになったのは、
勉強不足で志望校に届かなかったからだってこと
解ってんのかしら。
あの子の言う大学へ行きたいなら、
どんだけ頑張らないといけないか、
それがどんなに苦しいことか
解ってんのかしら。
現役時代にできなかったことを
今やろうって言うなら、
覚悟はできているのよね？
自分が今いる、崖っぷちがどんなに危うい場所か
解ってんのかしらぁ～～～！！！」
限定品の なんちゃらフラペチーノを前に
彼女は吠えた。
解った、解った。
私は解った。
過呼吸になって
ぜーぜー言いそうな母友をなだめる。
ここで吠えたのは、家では吠えられないからだと思う。
彼女は旦那と息子の板挟みになっているのだ。
息子の勝手な行動を旦那はかなり怒っている。
そりゃそうだ。
学費はタダじゃない。
辞めた大学を行き渋っていた時に、
「アイツの学費なんて無駄だから
振り込む必要は無い！」
と言う旦那を
「お願い。今辞めたらニートになるだけだから。
行かないとはっきり決めた訳でもないらしいし、
ここは払って様子を見させて。」
と言って説得して、学費を払い続けてきたのは彼女だからだ。
旦那を騙し騙し
息子を騙し騙し
良かれと思って、ここまでやってきたけれど
とうとう限界はやってきた。
騙し騙しじゃもう誰も騙されない。
二年たって、結局中退。
「そら見たことか。」
家で揉めたことは手に取るように解る。
そしていまだに
旦那と息子の板挟みになってるはずなのだ。
おそらく旦那は
「放っておけ、家から追い出せ。」
くらいのことを言ってると思う。
それをなだめて
浪人の費用を出してやるのはやっぱり彼女で
それは相当な苦労だと思うのだ。
だからフラペチーノの前でくらい吠えたっていいと思う。
時はもう１０月になろうとしている。
彼女の息子の行きたい大学とやらは国立大学だ。
狙うはおそらくそこ一本。
心境いかばかりかとお察しする。
高校時代の成績はウチよりは良かったとはいえ
この冬に旧帝レベルの国立大学を一発で取りたいなら
そりゃもう、鼻血がでるくらい、
頭に１０円ハゲができるくらい、
勉強しないと追いつかないと思う。
ハゲが１０円？ 
彼女の息子には会えていないが
そこまでできているのだろうか。
彼女の吠えっぷりから想像すると
できていないような気が・・・する・・・。
恐ろしいのは
来年もそんなことやってるかもしれないってことだ。
それが彼女をとことん苦しめる。
国立は科目が多いし、人気があるし、
ほぼ一発勝負で厳しいことこの上ない。
彼が苦手としていた国語だって
古文もあれば、漢字だってやらなくてはならない。
センターでもかなりの点を取らないと合格はないから
二次試験に無いからと言って
捨てるわけにはいかないのだ。
旧帝ともなれば
イチローが受けたような地方国立とはわけが違ってくる。
私は母の方に１０円ハゲができないことを祈るばかりだ。
苦労もしなけりゃダメらしいけど
それって母もなの？
私はこの母友の行動は間違ってはいなかったと思うんだ。
間違っているどころか
とても立派だった。
いつも見習わなくちゃと思っていた。
なのになぜ・・・。
押し付けては来なかったし、
背負わせても来なかった。
そんなに先回りもしていないし
勉強以外の息子のやりたいことにも協力的だった。
ウチみたいに一人っ子って訳でもないから
過保護でもない。
本当なんだよ。
家族のために自分を犠牲にできるような立派な母なんだよ。
それでもこんな目に合うんだね。
私には人様のお子様を心配する余裕はない。
ただ明日は我が身のことばかりで共感できるだけだ。
二浪の挙句下手すりゃ留年、無事に卒業できるのか？
という愚息を持つ私は、
この母の気持ちがそれは痛いほどわかるのだった。
あの努力家の母でもこんな目に合うニャンて
お母さんレベルだとこの先地獄かも・・・。
家事も家族の送り迎えも、役員も、仕事もこなしてたニャ
お母さんの１０倍くらい働き者の母ニャのに。
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marimcream