1. 解除の意義 解除とは契約成立後に生じた一定の事由を理由として、契約の効力を一方的に消滅させる意思表示をいう(有斐閣Sシリーズ・民法Ⅳ-債権各論45頁)という見解が一般的である。これに対して、北川善太郎先生は、その著書である「民法講要Ⅲ債権総論[第3版]有斐閣刊」において、契約の解除は、契約成立後に、当事者の一方の意思表示によって契約を消滅・解消させる制度であり、より狭義には、債務不履行を原因として発生する契約解除権の行使による契約の解除をいう、とされ、この場合が契約の解除の機能する主な舞台であり、ここでの契約の解除は、債務不履行に対する救済である、とされている。
私は、現民法では、解除は、債務不履行された債権者を「契約の拘束力」から解放するための制度として立案されており、債務不履行により債権者が契約を維持する利益ないし期待を失っている-したがって、債権者を契約のもとに拘束しておくことが合理的にみて期待できない-との理由から、「契約の拘束力」から離脱する権利を債権者に認めた、それが解除権であると考えられている(潮見佳男著「債権各論Ⅰ[第4版]新世社刊」)という見解に従いたい。
このことは、次の二つの点で、重要な帰結をもたらす。
① 債務者の帰責事由は不要 解除権が認められるためには、債務者の帰責事由は不要である。民法541条以下は、「債務者の責めに帰すべき事由」について言及していないが、これは、債務者の帰責事由を意図的に解除の要件から外していることを意味する。
② 重大な契約違反 債務者が債務不履行をしたとの事実から、直ちに解除権が導かれるのではなく、契約の解除は、いったん認められた契約の拘束力を当事者の一方的な意思で事後的に失わせるという強力な効果を生じさせるものであるから、「債務者は債務不履行をしたのだから、解除されても仕方がない」などとは一概にいえない。契約関係を維持しつつ、債務不履行によって債権者が被る不利益を別の手段(たとえば、損害賠償)で満足させることができるのであれば、契約の拘束力を失わせなくとも債権者に不利益はないし、債務者にとっても、契約のもとで行ってきた活動を否定されなくてもすむからである。このような考え方からは、債務不履行を理由とする契約の解除が認められるためには、単に「債務不履行があった」というだけでは足りず、債権者を契約のもとに拘束しておくことが合理的にみて期待できないような事情が付け加わったときにはじめて、解除権が与えられるべきだということになる(重大な契約違反)。
もっとも、どのような場合に解除が正当化されるか(債務不履行+αの、αにあたるものが何か)は、催告解除の場合と無催告解除の場合とで異なってくる。
2. 解除の効果 解除の効果は、民法545条に定められている。それによると、解除が認められた場合、既に行われた給付については、原状回復がされることになる(同条1項本文)。ただし、解除前に登場した第三者の利益を害することはできない(同条1項ただし書)。また、解除がされたときであっても、債権者が債務者に対し、債務不履行を理由として損害賠償を請求することは妨げられない(同条4項)。
* 民法545条1項ただし書の「第三者」は、解除された契約から生じた法律関係を基礎として、解除前に新たな権利を取得した者(目的物の譲受人、目的物の上に抵当権や利用権を設定した者など)のことをいう。
ここにいう「第三者」にあたるかどうかを判断する際には、第三者の善意・悪意を問わない。解除が問題となる契約では、契約そのものに瑕疵はなく、効果面においてまったく問題のない契約が締結されているのであって、その基礎の上に登場した第三者は取引において合理的行動したものと捉えられるべきだからある。
もっとも、判例は、「第三者」が目的物に関する所有権の取得者である場合には、この者は対抗要件(民法177条・178条)を備えていなければ、自らの所有権取得を解除権者に対抗できないとしている(大判大10・5・17民録27-929。対抗要件というよりは、権利資格保護要件である)。結局、民法545条1項ただし書のもとでの保護を主張する者は、①みずからが同項ただし書の「第三者」であること、②解除前に登場した者であること、③みずからの地位につき対抗要件を備えたことを主張・立証しなければならないことになる。
3. 解除の遡及効-直接効果説
判例・通説は、ここで、解除の効果は契約締結時にさかのぼって生じる(解除による契約消滅の効果は、契約締結時にさかのぼって生じる)という立場を採用している(大判大7・12・23民録24-2396、大判大8・4・7民録25-558)。この立場は、一般に、直接効果説と呼ばれている。
直接効果説からは、解除された契約に基づいて当事者が既に行っていた給付は、いまや、契約が最初からなかったことになるので、「法律上の原因のない給付」と評価され、不当利得(給付利得)として返還の対象になる。したがって、民法545条1項本文が定める原状回復義務は、民法703条以下の不当利得返還義務の特則として位置づけられることになる(最判昭34・9・22民集13-11-1451)。
また、直接効果説からは、解除された契約に基づいて契約目的物の所有権の移転が行われていたとしても、所有権移転は、その原因となる契約が最初からなかったことになる結果、最初から生じなかったことになる(前掲大判大8・4・7、最判昭35・11・29民集14-13-2869)。たとえば、A・B間でAがBに自己所有地を売却し、その後に契約が解除されたときには、この土地の所有権は最初からAに帰属したままだったものとして扱われ、Bは、この土地について最初から無権利者だったということになる。
それでは、直接効果説からは、解除をしたとしても債権者が債務者に対して損害賠償を請求することができる(民法545条4項)ということは、どのように説明されるのか。論理的に考えたならば、解除の結果として契約が最初からなかったのならば、債務も最初からなかったわけであり、それゆえに債務不履行の事実も存在しないものとして扱われなければならないことになりそうである。このように考えると、ここでの損害賠償とは、せいぜい、契約の成立を信じたことにより解除権者が被った損害、すなわち信頼利益の賠償にとどまりそうである(実際、このように説く見解も、昭和初期までは一部に存在していた)。しかし、判例・通説は、民法545条4項の規定は、債権者(解除権者)を保護するため、法律が特に解除の遡及効に制限を加えたものだとする。こうすることで、債務不履行責任が残存するものとして扱い、債権者に、債務者に対する履行利益(履行があれば得たであろう利益)の賠償請求権を認めている(大判昭8・2・24民集12-251、最判昭28・10・15民集7-10-1093)。なお、債権者が債務者に対して履行利益の賠償を請求する場合には、民法415条の定める要件を充たさなければならないし、不履行が債務者の責めに帰すことができない事由によるものであったとの抗弁も問題となってくる。
直接効果説の立場からは、さらに、解除前に登場した第三者の利益を害することはできないとする民法545条1項ただし書の規定も、同様に、解除前に登場した第三者の利益を保護するため、法律が特に解除の遡及効に制限を加えたものと理解されている。
* 原内容変容説 判例・通説の遡及構成が破綻している点を捉え、また遡及的に契約の効果を消滅させるのは過剰である点を指摘して、「解除の効果は遡及しない」とする見解も有力に唱えられている。その論者らの主張にはバラエティがあるが、その中でも説得力があるのは、原内容変容説ともいうべき見解である。
それによれば、解除により、当初の契約関係の清算を目的とした原状回復を内容とする契約関係へと変容するだけであって、もとの契約は存続しつつ内容を変じるにすぎないとする。この立場からは、給付された目的物に関する原状回復は契約に基づく精算関係そのもの(実現された給付の巻戻し)であって、「不当利得」という観点から捉えられるべきものではないとされている。また、解除後もなお債務不履行を理由とする履行利益の賠償請求権が認められることや、解除前に登場した第三者が保護されることも、無理なく説明されることになる。
4. 原状回復の内容
(1) 給付された物の返還-原物返還義務 解除による原状回復の際に、給付を受領した者のところに現物が存在していたならば、原物返還がされることになる。双方が相手方から給付を受領した後に解除がされたときには、双方が給付対象の返還義務を負うところ、両者の返還義務は、同時履行の関係に置かれる(民法546条。給付と反対給付の客観的価値の大小を問わない。最判昭63・12・27金法1217-34)。
(2) 原物返還不能の場合の処理-価額返還義務 原物が滅失・毀損していたとき、その価値代替物(代償)が受領者のもとに存在していれば、原物返還の延長形態として、その代償の返還が認められるべきである。こうした代償すら存在しないときには、現物の客観的価値相当額の返還が認められることになる。
たとえば、A・B間で、AがBに中古のバイクを5万円で売却する契約を締結し、双方がそれぞれの給付を実現した後、このバイクに欠陥があったことが判明し、Bにより売買契約が解除された(この欠陥のあるバイクの客観的価値は3万円であった)とする。ところが、バイクと代金とを返還するという段階になって、バイクがBのもとから何者かにより盗まれた(バイクの盗難について、Bには故意・過失がなかった。バイクの盗難が解除の意思表示前に生じ、かつ、このことについてBに故意・過失があれば、民法548条により、解除権そのものが排除される)。このとき、Bは、バイクの客観的価値相当額の返還義務を負うことになる。他方、Aは、代金を返還しなければならない。
もっとも、このように考える場合でも、解除後の目的物の滅失・毀損について返還請求者の側に故意・過失があるときは、民法548条の趣旨(給付目的物の滅失・毀損につき給付者に故意・過失があるときは、この者が危険を負担するとの考え方)から、返還義務者は価額返還義務から解放されると考えることもできるように思われる。上記の例では、バイクの返還義務は、Bの責めに帰することができない事由により不能となったときでも、原則として価額返還義務に転換するものの、例外的に、この履行不能がAの責めに帰すべき事由によって生じた場合のみ、価額返還義務へと転換しないと考えることもできる。他方、Aの代金債務は、いずれの場合も、そのまま存続する。
(3) 利息・使用利益・果実の返還 契約当事者が金銭を受領していた場合には、金銭を受領した時からの法定利息を付して返還しなければならない(民法545条2項)。受領者の善意・悪意を問わない。
金銭以外の物を受領した場合には、解除による原状回復として、目的物を受領した時以後に生じた果実を返還しなければならない(民法545条3項)。使用利益についても同様に解すべきである。ここでも、受領者の善意・悪意を問わない(なお、占有者の果実収取権を定める民法189条・190条の規定は契約関係のない所有者・占有者間での果実の帰属に関する規律を定めたものであり、契約解除の場合には適用も類推もされるべきものではない)。
(4) 解除前に目的物に投下された費用の償還 解除前に目的物に投下された費用のうち、契約に基づき債務の履行として投下された費用については、解除による原状回復の枠内で-価額返還として-処理される。
これに対して、債務の履行とまったく関係なく目的物に投下された費用については、民法196条の費用償還請求権に関する規定によって処理されるべきである。
(承前)
四 解除の効果(星野英一著「民法概論Ⅳ 契約」良書普及会刊88頁以下)
(2) 既履行の給付
(イ) 契約により移転した権利の復帰
(ⅲ)契約によって発生した債権が解除前に相殺に用いられ、反対債権(受働債権)が消滅した場合においては、解除により右の債権(自働債権)が消滅するから、相殺も無効で反対債権(受働債権)も復活するとされた(大判大正9年4月7日民録458頁:買主かつ貸金債権者から債権の譲渡を受けて債権を行使したのに対し、売主としての代金債権をもって相殺したと抗弁したが、売買契約が売主の履行不能により解除されたので、相殺は無効として、請求が認容された-これは、直接効果説に有利な判決であろう)。