以前、まだ宅録を始めたばかりの頃、「While My Guitar Gently Weeps」を録りました。
当時としては、こんな程度で十分と思っていたのですが、宅録にも慣れて色々見えてきた現在では、「録り直し」レベルのものであるのは間違いなく、アルバム「The Beatles(通称ホワイトアルバム)」の50周年記念盤が発売されたことを受けて、再トライすることに決めたのでした。
どのパートも演り慣れているといえばその通りなので、音を録音すること自体は何の問題も無いのです(ピアノですら、ガキの頃から音楽室のピアノでイントロ弾いて遊んでいたので目をつぶっても弾けちゃいます)が、問題はミキシングなのです。
この曲のベースは、右チャンネルでガリガリと高音の立った音が印象的ですが、しっかりと低音も支えていることが分かります。
(センターポジションに小さい音でベースがもう1本入っていますが、これは低音を支えるほどの音量ではありません)
これは、ポールのアイデアだそうですが、1度の演奏をアンプを通した音(低音用)とアンプを通さず直接コンソールに入れた音(高音部)に分けて録音してミキシングしたとのことです。
ということで、これは今の宅録機材を以ってすれば同じようなことは可能であり、そのようにして対処できたのですが(上述の開始直後の録音ではそんなこともしていません)、問題はADTなのです。
ジョージがインタビューで、こういう言葉を残しています。
「うん、エリックが弾いた。あのリードギターはね。録音が終わった後、彼が言うんだ「マズイ、全然ビートリーにならなかった」と。僕は気にしなかったけど、やはり少しそれらしくしようということで、ADTを掛けて少し揺さぶってみたんだ。良い感じに収まったよ」
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ADTとは、Automatic Double Tracking の略で、要するにダブルトラックを1度で録音できるマシンということなんですが、これはただ単に位相をずらして再生するだけのものではないんですね。
ダブルトラックが音に広がりができるのは2重だからではないんですね。
ボーカルも生楽器も、2度と絶対に同じ音波は再現できません。なので、重ねると必ず波の干渉があって、うねりなどの様々な効果が表れます。
そしてそれが一定周期ではなくてランダムで現れるので、自然な感じで音に広がりが出ているように聞こえさせることができるのです。
ソフトシンセで出した音は、重ねても全くダブルトラック効果は出てきません。音量が変わるだけです。
時間差を与えて重ねても、音質は変わりますが、広がりやうねりは全く発生しません。それがシンセのしくみでもあるんですが。
ADTは二つのヘッドでテープを再生することで発生する音のズレの効果だけと思っている人も多いようですが、それだけではなく、少なくともビートルズが使ったADTは、音波にうねりを加えることができたんですね。
つまり、ただ一定の間隔で音を遅らせるのではなく、その遅らせる時間もある周期で変えることができたのです。エフェクターで言えば、コーラスとかフランジャーの効果も同時に備えていたんですね。
なので、ADTはどちらかといえば、アナログコーラスマシンなんですね。
で、このADTの音が曲者なんです。コーラスエフェクターでは全くそれらしくならない。
ビートルズがADTを使ったということで有名な曲は、だいたい大きく位相がずれている曲を指していることが多いですが、実はこのコーラス効果のみを使った曲はかなり多いと見ているのです。
オープンリールテープが傷んでワウ・フラッターが大きくなっただけというのもあるかもしれませんが、まさにそんな感じなんですね。
昔、聞き過ぎたカセットテープの音が段々儚い感じの音になっていった記憶がある人は(かなり年配の人に限られますが)、あのイメージだと分かって頂けるかと思うのです。ヨレヨレになってしまった感ですね。
ジョージは結構使っていて、私は「Something」のギターやボーカルには確実に使われていると見て(聞き取って)います。
あのイントロのリードギター、何とも儚い感じの揺れがありますよね。それこそテープが切れそうな感じの。あれはADTだと思うわけです。
「Something」が名曲になったのは、この儚さが基本にありながら、そこを切り開く一筋の光のようなものが組み込まれているからだと思っています(後述しますが)。

で、そのADTがこの「While My Guitar ~」でも最大のネックだったということなのです。
エリックのギターはそもそも大きなビブラートが売りですので、原音も揺れまくっているのですが、それをADTで揺さぶったのですから、揺れ揺れなわけですね。
確かに聞いてみると、エリックがビブラートを掛けてないところでも音に揺れがあるのが分かります。

今回トライしたのは、オートビブラートが掛けられるVSTを使う手法です。録音したリードギターのトラックを3つに複製し、1つは原音のまま、残り2つに周波数の違うビブラートを掛けて、それを再ミックスするという方法です。
ビブラートの波形もサイン派ではない形状とし、掛け方や時間差も色々調整して、何とか満足の行く状態にしたという感じです。
あくまでも言われてみなければ分からない程度のエフェクトが重要でした。

この曲のボーカルはADTではなく、本当のダブルトラックですね。エンディングの幽霊のような声(というか大きな揺れのビブラート)は、原曲もエフェクトではなく、生声のようでしたので、私もそうしました。声を出しながら、両手を前後に振ると、自然に大きなビブラートを掛けることができます。振る速度でビブラート速度も変えられます。

そんなこんなありましたが、音質も含めて、今の私としては満足できる出来の「While My Guitar Gently Weeps」が完成したという訳です。

本当はもう1曲紹介して、上述の「Something」の話に戻って終わろうと思ったのですが、行数が多くなってしまったので、別記事にすることにします。

そんなこんなで完成したものです。宜しければお聞きください↓
While My Guitar Gently Weeps/ The Beatles
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