『ハスリンボーイ』を読んで思い出したこと | 丸山ゴンザレス オフィシャルブログ「ゴンザレスレポート」Powered by Ameba

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歌舞伎町からアフリカまでカバーする考古学者崩れの犯罪ジャーナリストの丸山ゴンザレス(=丸山佑介)のブログ

古い友人に草下シンヤという男がいる。

いまでこそジャーナリストとして裏社会とか解説することがあるのだが、俺は彼と出会うことで、裏社会の取材を始めたようなものだ。
そんな草下は現在、漫画原作を多く手がけている。実際のところどうかはわからないが、俺から見ているとヤツと出会う作家はコラボしたがるように思う。同世代の中では抜きん出た取材力と文章力、人を引きつけるマインドがあって、彼のまわりにはいつもいろんな人が集まってきていたから当然なのかもしれないが。


その一方で、過去の裏社会取材で出会った人たちの中には、それっきりで出会わない人もいる。

若かった時には、彼を軸に新宿で出会いと別れを繰り返してきたように思うのだ。

思い出話はともかくとして、それだけ多くの人と接してきた草下だから描ける世界がある。そんな世界観を具現化したのが、草下が原作をしている最新作『ハスリンボーイ』(小学館)である。

 


現在、「週刊ビッグコミックスピリッツ」に連載されているので目にした人も多いことだろう。

 

この作品を解説する前に思い出したのが、作画の本田さんとの出会いだった。
数年前の新宿。まだ、俺がテレビに出るようになる前だったように記憶している。
木造モルタル建築が残るエリアにある二軒の中華料理屋のうちメジャーじゃない方(ボッタクリしないほう)で飲んでいるときに草下が連れてきてくれた。
当時、本田さんは漫画家としてデビューをしていて『東京闇虫』(白泉社)が注目されていた。
売れている人独特の鼻もちならない感じもなく(昔はよくそんなことを思っていた。きっとひねくれていたのだろう)、腰が低く、気がついたことをメモする青年だったのを記憶している。

このときはたくさんある出会いのひとつにすぎないと思っていたのだが、何年も経って、あのときの二人が一緒に作品を作ったことで感慨深い。

誤解しないでほしいのは、ノスタルジックな感傷から作品を評価するつもりはないということ。

本作は、かなりリアルな裏社会の実情、フィクションだから描ける部分を巧みに使っているなと思ったのだ。

ヤクザ、ハングレのバランス、死後になっていない隠語、服装、設定、違法品の金額……。

非常にリアルすぎる。

なぜリアルなのかはわかる。現場に足を運び、きっちりと当事者に取材を重ねているからだ。裏社会であってもだ。それは草下作品にとって珍しいことではない。『裏のハローワーク』(彩図社)でヒットを飛ばした草下は、そこで立ち止まることもなく継続して日本の裏社会を取材をしてきた。俺も数年前までは一緒に歩くこともあったが、いまの俺は海外を主戦場にしていこともあり、日本の裏社会がやや遠い位置にある。

とはえい縁がなくなったわけではなく、不定期に日本の裏社会事情を草下に会って聞いたりしている。草下が作品の構想を始めた当初も、飲みながら池袋のアングラ社会に潜るための試行錯誤を聞くことができた。

 

横目にしてきた作品だから、そのときに聞いていた話が『ハスリンボーイ』の主人公の生き方に被ってしまう。

主人公が裏社会とかかわる動機は借金。それも奨学金。好きで選んだ道じゃないけど、ここで踏ん張らないと一気に負け組に転落する。若いうちから表も裏もなく社会は厳しいことは知っている人は少ないかもしれないが、そんな現実に気がついている若者もきっといるだろうと思う。その意味では、どこにでもいそうな主人公。特殊能力があるわけでもないし、腕っぷしが強いわけでもない。機転と覚悟で裏社会と渡り合うのだ。そのあたりはいかにいも草下っぽくも思う。

 

裏と表の境界線が曖昧な現代、裏社会はある意味、特別な場所ではなくなった。

誰でも踏み込むかもしれない場所となった裏社会で繰り広げられるドラマだから、誰にでも起こりうることかもしれないのだ。

 

人間の本質がむき出しになる裏の世界、そこで起きているドラマだからこそ、そういう方面が好きな人にも突き刺さるところがあるだろうし、かつての歌舞伎町に満ちていた空気も思い起こさせてくれる。


ということで、早く続編出してください。
連載も楽しみにしています。

 

ハスリンボーイ (1) (ビッグコミックス)   草下 シンヤ

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