こんにちは、まるこです
先日、高崎市タワー美術館に「もっと知りたい!日本画の世界」という展覧会を観に行ってきました
普段私は古典の西洋美術を見ることが多いので日本画はほとんど知識がありません
「ぶらぶら美術・博物館」とか「日曜美術館」とか「美の巨人たち」とかテレビで見聞きしたくらいのことしか知らないの
そんなまるこがとても楽しく日本画について学ぶことが出来たので展覧会のご紹介やら感想等思いつくまま書いていきたいと思います
興味ある方、どうぞ最後までお付き合いください
高崎市タワー美術館「もっと知りたい!日本画の世界」
美術館について
高崎駅(群馬県 両毛線/高崎線/上越新幹線 他)改札出て数十メートルにある建物の中に美術館が入っています。
展示の流れ
こちらの展覧会では日本画の絵具について、表装について、さまざまな吉祥画、日本画特有の技法についてなど学びながら観ていける展示の流れになっていました。
以下、まるこメモをまとめて書いていきますが、自分のための資料としての意味もありますので読みにくいかもしれません。
興味あるとこだけでもどうぞ
①絵具について~墨、岩絵具~
まず、日本画特有の絵具についての説明と展示がありました。
日本画の絵具
日本画で使用される絵具のほとんどは顔料(特定の色彩を持った粉末で、水や油に溶けない)であり、具体的には岩絵具・胡粉・墨を中心に描かれています。
岩絵具とは
岩絵具とは鉱物を砕いて作ったもので、砂の状態に膠(にかわ)を混ぜて紙などに描けるようにして使用します。
例えば、群青(ぐんじょう)は藍銅鉱(らんどうこう)、緑青(ろくしょう)は孔雀石(くじゃくせき)、朱・辰砂(しんしゃ)は辰砂(硫化水銀)などがあります。
岩を砕いた顔料なので、近くで見るとキラキラと細かく光ってキレイです
胡粉(ごふん)とは
胡粉とは白色の絵具の中で、カキ殻を主とした貝殻から作られる絵具で、白色としてだけでなく、下地や、盛り上げて立体的に描くためなど幅広く使われます。
②表装について~掛軸、巻子、屏風、画帖、額装~
続いて、表装についての説明と展示がありました。
表装とは
表装とは絵や書を軸や屏風などに仕立て、作品を保護し・強度を持たせ・鑑賞出来るように仕立てる技術のことで、掛軸・巻子・屏風・画帖 といった種類があります。
展示ではそれぞれの特徴や見方を本物を見ながら学ぶことが出来ました。
【掛軸】
掛軸は作品を裂地(きれじ)で保護しながら飾る仕立てのことで、かけ替えや収納が簡便という特徴があります。
2点で1セットになっている作品を双幅
3点で1セットになっているのを三幅
4点で1セットになっているのを四幅といいます。
双幅
双幅は2点が対になる内容が描かれています。
例えば、”眠っている鴨と飛んでいる鴨”が描かれた『睡鴨飛鴨(昭和4)(小茂田青樹)』や、『明治神宮図・伊勢神宮図(大正時代)』が描かれた双幅が展示されていました。
三幅
三幅は中央に主となる画題が描かれます。
展示されていたのは『観音・十六羅漢図(大正13)(藤井澄湖)』で、真ん中に観音様、両サイドの二枚には8人ずつかな(?)の羅漢(悟りを開いた高僧)が描かれていました。
この絵は人物描写がとても面白く、表情が豊かでみんなの様々な表情がとても細かく描かれていて見入ってしまいました
また、後方に人を乗せた動物も描かれていて見ていて楽しかったです
人や動物はとても細かいのに背景はかなりざっくりな感じだったり、空間の使い方が大胆だったりととてもリズムのある絵だと思いました
四幅
四幅は4点で1セットの作品ですが、展示されていたのは四季(春夏秋冬)とそれに対応する花鳥が描かれた『四季花鳥図(江戸後期)(矢島群芳)』でした。
この絵はそれぞれの鳥の一瞬の動きを写真のように捉えることに成功していると感じましたが、作者は鳥たちをよく観察し生態を熟知していたようです
この絵も細かく正確に描かれた主題と粗く描かれた背景のギャップが大きく、緻密な部分と大胆に設けられた余白にずっきゅんでした
【巻子(かんす)】
巻子とは巻物のことで、絵では時間の推移を伴って描かれます。
ちなみに日本画は本来、右から左へ時間が流れるものなのだそうです
展示には『浦島絵巻(大正末)』がありました。
ササっと描かれているような軽いタッチの絵で可愛かったです
【屏風(びょうぶ)】
みんなご存知屏風ですが、屏風にはいろいろなパターンがあって、数の数え方や呼び方、見方を知ることが出来る展示になっていました。
屏風
もともとは人目を遮り空間を分けるための家具で、奈良時代から調度品として使われてきました。
板状の1枚1枚を扇(せん)と呼びます。
屏風を数える単位~曲(きょく)~
曲は屏風の扇の数を表す単位。
例えば、六曲なら6枚の扇が繋がった6枚折の屏風、四曲なら4枚という意味になります。
屏風を数える単位~隻(せき)~
隻は一つの屏風を数えるときに使う単位。
一隻で屏風が一つという意味になります。
二つで対になった作品の右にある屏風を右隻、左を左隻と呼びます。
屏風を数える単位~双(そう)~
二つで対になった屏風を数えるときは双という単位を使います。
一双とは屏風が二隻で対になっているという意味。
対になっている作品の片方が無いものは隻ではなく半双と呼ぶことがあります。
(展覧会資料より)
言葉だけでは分かりづらいので図を貼っておきます。
Ⓐ六曲一双
六枚の屏風が二つで一組になっているので六曲一双
Ⓑ二曲一双
二枚の屏風が二つで一組になっているので二曲一双
Ⓒ四曲一隻
四枚の屏風が一つだけの作品なので四曲一隻
Ⓓ六曲一隻
六枚の屏風が一つだけの作品なので六曲一隻
となります。
屏風の見方
巻物のときに「日本画は右から左へ時が流れる」と書きましたが、屏風にも当てはまります。
物語が描かれている場合、右から左に時が流れていることを意識すると見やすいです
また、双(二つで一組)の作品はそれぞれの画題や表現方法が対になっています
展示されていた二曲一双(二枚折の屏風が二つで一組)の『青山白雲・虞山渓嵐図(大正元年)(小室翠雲)』を例に挙げると、右と左の屏風がそれぞれ「春と夏」「夕と昼」「静と動」「柔と剛」という対比になっていました。
画題(テーマやモチーフ)の選び方が対になっていたり、筆運びを片方は繊細に表現し、もう一方は荒々しく表現したりすることで対比を表現していました。
落款と工房
屏風の話とは少しずれるのですが、展示の中に六曲一隻の『四季草花図屏風(伊年印)』という作品がありました。
この作品は画家が作品が完成した時サインの代わりに押す落款(らっかん)に「伊年」という名が入っているのですが、これは個人名ではなく俵屋宗達が創始した工房の印なのだそうです
職人個人ではなく複数人で分業をし、その工房を一つのブランドとして価値を高めていこうとした(のかな?)という考えが、ただの職人ではなく経営者やプロデューサーとしての感覚にも優れていたんだろうなと感じました
【画帖】
画帖とは蛇腹状の厚紙に作品を貼った折本状の展示・保存方法。
(帖とは折本を指します)
③さまざまな吉祥画
続いて、さまざまな縁起物を描いた吉祥画が展示されていました
吉祥画とは、おめでたいモチーフや題材を描いた縁起の良い絵です。
繁栄や幸運を願い、幸福・富・美を象徴するような絵になっています
展示されていた作品に沿って、それぞれどんな縁起物が描かれ、なぜそれが縁起が良いとされているのかを簡単に書いていきます。
吉祥画の題材
旭日
朝日のこと。説明するまでもなく、おめでたい絵です
日本の象徴でもあるしね
(当たり前すぎてちゃんとメモしてこなかったので何がどう縁起がいいのか言葉で説明できないです察してください
)
松に鶴
松も鶴も縁起物ですが、鶴は松に留まることはないため、松と鶴を合わせて描くのは日本画ならではの創作なのだそうです。
そういえば以前、狂言を観に行った時に能舞台の客席から見て正面に松が描かれていますが、それは鏡板といって客席の後方にある松の神木が鏡に映っているという体(てい)で描かれているのですよ、という説明をうかがったことがあります。
その時になぜ松なのかとか、(生態学的に絶対にありえないけど)巨木になった松には鶴が巣を作るんだ(と言われる)という話を聞きました
松が縁起が良いとされる理由は、「年中緑を絶やさないから」と「”まつ”という音が”良いことを待つ”」に繋がるからと教わりました。
ちょっとうろ覚えなのと調べても出てこなかったので分かりませんが、もしかしたら松に鶴が止まっている絵が描かれた鏡板を有する能楽堂が存在すると聞いたような気がします
めっちゃ縁起の良い舞台ですね
梅
梅は春が来て一番初めに咲くからめでたいのだそうです
まだ雪が残る中でも咲くことから厳しさに耐えるという意味もあるし、春を告げるという意味でもありがたい象徴のようです。
ぶどう、ざくろ
たくさんの実をつけることから子孫繁栄の願いが込められます。
南天
なんてん=「難を転じる」という音から縁起物とされています。
ダジャレじゃん
おたふく(お多福)
おたふくとはおでこが出ていて下膨れの頬に低い鼻の女性を差す言わば蔑称ですが、おたふくという音に「お多福」という漢字を当てたらあら不思議転じて縁起物の扱いになっています
鯉
中国の黄河に流れの急な箇所があって、龍門と呼ばれるその急流を登り切った鯉は龍になるという言い伝えがあるのですが、それは「鯉の滝登り」などと言われ、(鯉が龍になるから)”立身出世”を表す縁起物とされているそうです。
牡丹(富貴)
牡丹は別名富貴と呼ばれるそうなのですが、多くの薄い花びらが豊かさの象徴とされているそうです
豊かな薄い花びらを表現するために、胡粉(だったかな?とにかく顔料)を何十回と、時には百回以上も重ねて塗っていくことがあるそうです。
桃
中国の最高位の女神「西王母」は、千年に一度しか実らない桃を手に持つそうなのですが、その桃は食べれば不老不死になれるという言い伝えがあるそうです。
つまり、桃は長寿の願いを込めて描かれます。
④日本画の技法
続いて、描き方(技法)が何種類か展示と共に紹介されていました。
一部をまるこメモをもとに書いていきます。
鉤勒(こうろく)法
輪郭線を描く描法のこと。
没骨(もっこつ)法
輪郭線を使わずに描く方法のこと。
白描画
墨による描線のみで描かれた絵のこと。
たらし込み
墨や絵具の濃淡、異なる色彩のにじみを利用した表現方法。
画面に施した墨や絵具が乾かないうちに、そこに濃度や色彩の異なる絵具・水をたらし、自然のにじみを色彩効果として用いた方法です。
江戸時代には琳派の画家が好んで使っていた技法だそうです。
ところで話ずれますが、ちょっと前くらいからネイルの技法として「たらしこみ」って流行っているようです。
「たらしこみネイル」といってアクリル絵の具などに水をうまく使って描くアーティスティックな方法ですが、最初にされた方は日本画の技法を持ち込んだのでしょうか?
温故知新っすな
【箔のバリエーション】
日本画の特徴的な画材の一つとして箔が挙げられます。
箔の種類や使い方や用語を展示から学ぶことが出来ました。
金箔
金に銅・銀を混ぜて薄く打ち延ばした箔。
銀箔
金と違って酸に弱く、酸化によって色が黒ずむことがあります。
現在はその性質を利用して異なる色合いに変色させた銀箔も製造されています。
親和箔
銀箔を着色加工した箔で、赤・青・緑の色鮮やかな色彩が30色ほどあるそうです
砂子
金箔を用いた装飾の一つ。
金網をつけた竹の筒に金箔や銀箔を入れ、筆などでその箔を金網に押し付けるようにすると筒から細かな箔片が出ますが、それを画面に定着させたものを砂子といいます。
切箔
金箔を四角く切ったもの。
野毛(のげ)
金箔を細長く切ったもの。
箔足(はくあし)
画面に箔を貼ったとき、隣の箔と重なって金属の光沢が強く表れた部分のこと。
印象に残った作品
展覧会を通して、特に印象に残った素敵な作品2点についてご紹介します
この2点はポストカードがあったので買いました
*『霜樹栗鼠(昭和10)』 橋本関雪
(ポストカードを撮影)
霜のおりた樹にリス(栗鼠)が描かれた絵ですが…
橋本関雪は渇筆(半渇きの筆)で毛並みなどを繊細に緻密に描くのを得意としていたそうなのですが、その毛並みが本当に柔らかくフワフワして見えました
しかもただ毛を描いているだけでなく、その毛を刈ったらその下に ”皮があり・肉があり・骨があり” という生きた動物としての存在を強く感じました。
毛並みを見てその下の皮・肉・骨が見えた感覚です。筋肉の動きも意識して毛並みを描いているんだろうなと思いました。
言ってること伝わります?
そのリスの毛並みにしばらく目を奪われていましたが、ちょっと落ち着いて絵全体を見ると緻密に描かれているのはリスだけで、周囲の木や葉はかなり荒い筆致なんですよね。
特に重要ではない部分が荒く描かれていることで確実にリスに目が行くようになっているんだなと膝を打ちました
そしてただただリスが可愛い
動きがあるので小さくも生命力を感じます
*『涼夏(平成元年)』 後藤順一
(ポストカードを撮影)
あじさいに鳥が描かれた夏の絵です。
本来は葉は緑色ですが、背景の葉を黒く描くことで青い花が浮かび上がって見えてきます。
そして面積としては非常に小さいのですが、黄色の鳥が良いアクセントになっていますね
黄と青紫は補色の関係なので、お互いの色を引き立て合い効果的だと感じました
葉は墨のベタ塗ではなくたらし込みの技法が使われ、表情があります。
この絵は”華美”ではなく”控えめな美”を感じます。
静かで落ち着いている雰囲気が魅力的だなと感じ、私はとても好きな一枚です
部屋に飾るならこういうのがいいな
展示の中で学んだこと~まるこメモより
それでは最後に、展示を通して知ったことや発見したこと学んだことをざっと書いていきます。
・画家は描くにあたって執拗に観察した
写真がない時代、画家が植物や動物を描くために多くの時間を観察することに費やしていたといったエピソードが何度か出てきました。
より忠実に描くためにはよく観察して知識として知ることが描くために必要なんだということは、どの時代のどの国の人にも共通なんだと知りました。
後世に美術館に飾られるような絵を描けたようないわゆる天才画家はチャチャっと何でも描くことが出来るものだと思ってましたが、彼らは(人にもよるけど)相当注意を払って細部まで観察し、見た目だけでなく行動パターンなど生態までも知り尽くしてから筆を走らせていたことを知って感動しました
才能あるんだから簡単に描いてたんでしょとか思っててごめんなさい
・余白、空間が効果的
いつも見慣れた西洋絵画に比べて、日本画は余白や空間が効果的に存在しているなと感じました。
大胆に設けた空白が行間を生み出しているように見えました。
・緻密な部分と簡略化された部分の対比
対象物を非常に緻密に描いているかと思えば、背景は大胆に簡略化されて描かれている作品が多かったように思います。
写真のピントのようで、画家が見せたいもの・見てほしい対象に自然に視線が行く効果を生み出していると感じました。
全体的な感想
日本画について体系的にもっと知りたいなと思っていたまるこにとってとても勉強になった展覧会でした
説明も丁寧で、展示の順番も分かりやすく、ボリュームも抑えめだったので最後まで丁寧に集中を切らすことなく学びながら楽しむことが出来ました
終わりに
展覧会で学んだことをサクッと記事にしようと書き始めたところ、全てを書き尽くしたくてかなり時間を費やしてとても長くなってしまいました
それでも最後までたどり着いて読んでくださった方、ありがとうぎょざいます
まるこ頑張って書いたね~、日本画楽しそうだね~、私も「もっと知りたい!日本画」観に行ったよ~、私も高崎市タワー美術館行ってみたいわ~ …などなど思ってくださった方、いいね!してってちょちょちょ
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高崎市タワー美術館「もっと知りたい!日本画の世界」は9月2日まで
夏休みの自由研究の題材にもおススメ
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