小さな中華料理店があった。
月に一度、母とラーメンを食べるのが唯一の楽しみ。
本当は酢豚が食べたかったけど、
店で一番値段が高く、貧しい母子家庭には高嶺の花。
いつかお金持ちになって、酢豚を思うさま食べてやる。
そう心に誓った私は、猛勉強の末、T大法学部に入学。
国家公務員Ⅰ種試験にも合格し、念願の財務省へ。
エリート街道まっしぐらのハズが・・・
忘年会でハメを外し過ぎ、
局長のズラをむしり取ってしまったのだ。
ホームレスに身をやつし、ゴミ箱をあさっている時、
道端に倒れていた老人を救助!
実はその老人、政界のフィクサーで、
「お前の望みは何でも叶えてやろう」と言われ、
私は迷わず即答した。
「ならば、酢豚を思うさま食べてみたいのです」と。
こうして、酢豚を巡る長い旅が始まった。
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お好み焼きの有名店の隣にあるこの店は、
ビル全体が店舗になっている。
大人数の宴会も出来るキャパなので、
おそらく忘年会にも使われるのだろうが、
間違っても上司のズラは投げない方が身のためだ。
昼の定食はすべて760円(税込)。
日替わり、酢豚、八宝菜、唐揚げ、麻婆豆腐、野菜炒めの6種。
注文はもちろん酢豚定食だ。
3分も待たずに運ばれてきた。
作り置きのようだが、ランチタイムなので仕方ない。
玉子スープ、小鉢(麻婆春雨)、漬物付。
値段の割に、肉がたっぷりで嬉しい!
甘酢はかなり酸っぱ系だが、嫌いじゃ無いぞ。
白メシが進む、進む。
スープと小鉢も何気に良い味だった。
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「歩(アユミ)・・・か」
昔、同棲していた女と同じ名前だ。
あまりにも若く、未熟だった二人は、
互いに傷つけ合うこともしばしばあった。
だが喧嘩をしても、すぐに仲直り。
「ゴメンね」のKISS。そして・・・
整然とした店内には4人卓と2人卓、奥には座敷。
ベテランのご夫婦が切り盛りされている。
通常750円(税込)の定食(酢豚/唐揚げ/八宝菜等)は、
日曜日は700円になるようだ。
この店の酢豚は肉、玉ネギ、ニンジン、筍に、
キュウリが加えられているのが特徴的。
甘酢あんは酸味だけが突出してはおらず、
甘さとのバランスが絶妙だ。
シャキシャキの玉ネギ、ニンジン、筍の食感が良いな。
満足して店を出た。
新たな酢豚を目指す足取りは軽い。
しかし、私の行く手に恐ろしい罠が
待ち受けていようとは、まだ知る由もなかったのだ。
つづく
[店舗データ]
店名:桂林
住所:広島市中区八丁堀6-6(地図)
営業時間:(タイムサービス)11:00~15:00
定休日:日曜、祝日
訪問日:2015/04/14
[店舗データ]
店名:歩(アユミ)
住所:広島市西区天満町4-28(地図)
営業時間:11:00~21:00
定休日:火曜
訪問日:2015/04/19