今年は、なんだか気温も安定しないのか少し寒い日もあり、金魚の産卵もないし、仕事場のメダカの産卵も無い。
しっかりしろギョルイと思った。
去年の今頃は身体の中から湧き出る熱との戦いで、ポリタンクに水を汲んで持って行き、海に入っていた。
暑い暑いと、中高年の女がどんどん薄着になり、人様に迷惑を掛ける時期が到来した。
私は鼻が利くので、若い女の独特のフェロモンのニオイが嫌いだ。
それが中高年になると途端に消え失せる。
我々の時代は、ポワゾンという毒という名前の香水で、若い女の臭さをかき消す者が多かった。
教壇の先生は、若い女のニオイと香水が混ざったものは肥溜めを超える悪臭だ、香水つけるなと怒っていたが、今ならその気持ちがわかる。
若い女の臭さよりも運動部の高校生の部室の、梅雨時に濡れた靴がずらりと並ぶ入り口のニオイの方がまだましだ。
動物だって繁殖期になるとフェロモンを出すが、人間の臭さよりははるかに嗅いでも良いニオイである。
とにかく自分が飼っている動物のニオイは好きなのに、梅雨時で生乾きになったかつて自分が身に着けていた衣類の臭さと言ったら。
とにかく人の事を言えたもんじゃない。
梅雨時とは自分が生産したニオイとの戦いである。
カブトニオイ亀は、ムスク系の良いニオイがする。
怒ったときはオッサンの腋臭のニオイになるので、あまり怒らせないようにしている。
玄武ちゃんは、とても可愛い。
自分が可愛いことも知っている。
仕事場のマルグリット(野良8歳)は、出産を終え、産後はガリガリの姿で現れ、体重は半分以下になってしまっているし、このまま産後の肥立ちが悪くて死んではたまらないと休み返上で毎日餌をあげに通った。
ここでも、私イコール餌という認識でしかないのはわかっているが、あえて考えないようにしている。
「まあちゃん」と呼ぶとにゃあーーと返事をする。
この娘は、自分がマルグリットと勝手に名前を付けられて、愛称はまあちゃんだと理解している大変賢い娘だとうなった。
横になってしまってなおせないが、こうやってみるととても野良には見えない。
栄養過多のウエットフードに牛乳を混ぜてやってみたが、見事に全く食べ無いのでいつものコメリブランドの安い餌にしたら良く食べ、だいぶ体重も戻ってきた。
そのコメリのカリカリも少しでも湿ると絶対食べないので、さっき大雨警報の中餌をあげに行ってきた。
子供はまだ見ていない。
お腹を触ると、乳は使用されている様子だし、これは三匹は居るなと産婆のように腕組みをしてうなった。
ここに来る客は、去勢してやれとか、家に持ち帰って室内で飼えとか、外で可哀そうだと思わないのかと生意気にも説教をしてくるのだが、大きなお世話だと一喝してやった。
そもそもが、隣のバアサマが外で飼っていて、そのバアサマが死んで家族が全く猫の世話をしないものをあまりにも餌クレクレしつこいので私が餌を買ってきて、やってあげているだけなのだ。
ここまでこの土地を愛して住み着いているマルグリットを誰かにあげたり、保健所送りなんてそれこそ可哀そうじゃないか。
「8年も外で自由に暮らしていたものを、今更狭い家でどうしろっていうんだい。家の中は嫌いだ。」とマルグリットは語った。
マルグリットを抱き上げ、毛をモフり、顔を埋め大きくニオイを嗅いだ。
ホコリと、お花とムスク系のニオイがした。
どうして猫って良いニオイがするんだろう。
挨拶の鼻と鼻をくっつける鼻チュウをしてきた。
彼女の右の鼻の穴が、いつも黒く汚れているのをそれが一体何なのか。
気にしないようにして目を背け、その黒い物体について考えないようにした。
それが野良育ちの彼女に対するリスペクトだった。
モフモフしたい欲求が満たされた。
たまには哺乳類動物をモフモフするのも非常に癒される。
子猫の名前はどうしようか、ジョセフィーヌとかシャルルとかフランス語の名前が良いよねえ、誰にあげようか。
とにかくギョルイは全く卵を産まないのだけれど、亀(いつもの夢精卵)と猫の出産で非常に忙しかった。
「一応春だったな。」
と腰に手を当てて遠くを眺めていた。