鳥取から米子までは、道は国道9号になったり179号になったりはしますが、『とにかく直進』でたどり着きます。雨のあがった夜の道をただひたすらに西へ。日中だったら日本海の素晴らしい景色が広がりますが、真夜中なのでそれもなし。
 しかし何度も走った道ですから、真っ暗闇でも寂しさはありません。この店行ったことあるなあ。とか、あの店また来ようとか、そんなことを考えながら黙々と西を目指します。

 この地域に特徴的な穏やかなアップダウンを幾度となく乗り越えて、550キロ地点の米子に着いたのは、すでに明るくなった午前5時。この区間は時速15キロで踏破したことになります。

 タイムとしては大分厳しい状況ですが、とにかく休まなければなりませんし、ナビとライトの充電もしなければなりません。米子を出てからゴールまでの450キロは宿を使わずに仮眠だけで行く予定ですから、特に休憩が重要です。
 充電器をセットしてシャワーを浴びて、ソフトクリームを食べてしばし睡眠。目を覚ましたのが午前8時。天気予報を見ると、すでに外は結構な強風です。

 ここで食事をしながら悩みました。幸い体は少し元気になりました。さらにこれから気温もあがってくるので、体温も大丈夫でしょう。けれど、かなりの強風が西から吹いてきており、完全な向かい風。この風はお昼の12時頃をピークとして、15時頃にはやむとの予報。
 なるべく早く出発しないといけないけれど、早く出れば出るほど風の影響を受ける時間が増えるし、一方ここで長時間休めば、体力が回復できるうえに風を受ける時間も短くなる。でもあまり遅く出てはもちろん間に合わない。
 どれくらい休むべきか?寝転んだままさんざん悩んで、午前9時30分頃に米子を出発しました。約4時間の休憩でした。

 米子から境港へは何度も走っている平坦路。しかし台風のような強風で、枯れ枝が路面にどんどん落ちてきます。
 570.6キロ地点のPC9、境港のコンビニに着いたのが5月4日の11時15分。スタートしてから46時間15分でグロスタイムは12.33キロ。
 残り430キロを28時間45分で走らないといけなくて、要求されるグロスタイムは時速14.95キロ。

 タイム的には2時間以上の借金を背負っていますが、これから400キロブルベを走ると思えばなんとか。すぐに出発だ!と思ったところで、突然の豪雨。スマホで雨雲レーダーを見ると、通り雨的な雨雲がいくつも付近にあるようです。やきもきしながら10分ほど待って、雨があがったので出発。
 べた踏み坂という名称で有名な橋を渡って江島に。そしてここから海の上に浮かぶ普段なら素晴らしい道を走って松江へ。しかし、本当に最悪と言っていいほどの暴風。そしてまたもや豪雨。せっかく乾いた服があっという間に水浸し。
 濡れた服は一時間も走っていれば乾くからいいのですが、まっすぐ走れないほどの大変な風で真面目に命の危険を感じます。横から正面からと吹き続ける風で、時速も15キロも出ません。それどころかまっすぐ走るのも困難なので、歩道がちゃんとあるところは歩道に入ってゆっくり走ります。そんなこんなで何とか松江城を越え、宍道湖を西へ。

 と、ここで荷物の中からクリートカバーが一つ消えていることに気付きました。お恥ずかしいことですが、私は坂を上るとき、無理だと思ったらすぐにクリートカバーをはめて歩いて上ります。100キロマラソンとか100キロウォークとかもしている身としては、頑張って自転車で上っても時速7キロとかしか出ないような坂だったら、おにぎりとかを食べながら時速4キロで歩いて、お尻とかを休ませつつ進むようにしているのです。
 しかしここでまさかの紛失。ここから先は激坂はそんなには無いと思うけれど、あれが有ると無いとでは心持が違う。けれど、こんなところにアレを売っているお店なんて無いし、出雲市内で探す時間も無い…。なんて思っていると、なんとすぐ目の前にピナレロの看板が!

 そういえば確かにここにあった!スポーツ自転車のお店!すぐに駆け込んで、クリートカバーを購入!二個セットですが、こんなんなんぼあってもいいんです。お店の人から、こんな凄い風の日によく走るねえと言われつつ、篤くお礼を言って出発!漫画かな?っていうくらい出来すぎたタイミングでした。
 本当に、紛失に気付いてからお店に着くまでほんの5分くらいでした。

 その後は相変わらずの風の中を走り、出雲大社の前を過ぎ、稲佐の浜に着いたのが16時45分くらいかな?ここから日御碕灯台まではアップダウンの連続ですが、何度も走った道。しかし今日は強風のため、時々潮が体に降ってきます。体はいいのですが、自転車、特にチェーンとかに問題が起こらないか心配。

 641.8キロ地点のPC10、日御碕灯台に着いたのが17時30分。スタートしてから52時間30分でグロスタイムは12.22キロ。
 残りの距離は358キロで残り時間は22時間30分。要求されるグロスタイムは時速15.91キロ。ヤバイ借金状態です。米子からここまでの間は本来であれば平坦路で、平均時速18キロは出したい区間です。それが平均時速13キロも出せていなかったという衝撃。
 さらにいえば、稲佐の浜から日御碕灯台までの往復区間は片道45分ですが、他の参加者に全く会いませんでした。ということは、多分私は最後尾で、しかも少なくとも私の前の人は、私より45分以上前にいるということになります。
 なんとも絶望的な状況。しかしこの頃、空がスッキリと晴れ、さらに予報どおり風もピタッと止んでくれました。なんだか吹っ切れたというか、きれいな海を見て、とりあえずあと22時間だけ走ってみようかな、なんて思ったのを覚えています。
 夕日になりつつある太陽を拝んで、自転車に跨がりました。