餃子を作る時、母は必ず兄の事を話す。

「お兄も包むのがだいぶ上手になってきてたけどね。」と。


鬱病になって、会社を辞めて、療養していた兄は、その頃殆ど実家にいて、出来るときには母の夕飯作りを手伝うこともあった。その頃の事は母にとっては、辛い思い出も多いだろうが、宝物なのだと思う。息子と過ごした時間を、昨日のことみたいに思い出しては、毎度話す。餃子を作る度に。


 だから、もう、私が初めて餃子を包んだ日のことも、競い合いながら一緒作った日のことも思い出さないだろうと思う。小さな事、なのだけど、少し寂しい。