どーもー、自称日本一面白い男、半世紀君(丸子稔)でーす。

 その日本一面白い男の私が書いた世界一笑える小話集【中華風おやじ】が、絶賛発売中でーす。

 〈タイトル〉  中華風おやじ

 〈著者〉    丸子稔

 〈出版社〉   トーク出版

 〈カバー〉   ソフトカバー

 〈サイズ〉   四六判

 〈ページ数〉  200

 〈価格〉    1080円


 以下は【中華風おやじ】を取り扱っている書店です。

 〈フタバ図書〉 〈紀伊国屋書店〉 〈未来屋書店〉 〈廣文館〉 〈至誠堂〉

 〈小研勉強堂〉 〈盛文堂〉 〈サンクス書店〉 〈クレ書店〉 〈啓文社書店〉

 広島県内が主で、少しですが、岡山県と埼玉県にもあるみたいです。

 現在、順調に売り上げを伸ばしており、重版まであと一歩のところまできています。

 書店によっては在庫切れのところもありますので、待ちきれない方や遠方の方はアマゾンをご利用ください。

 それでは本日のタイトルは『偽装カップル』です。

 
 俺の名前は佐藤潤。

 自分で言うのもなんだが、顔は超が付くほどのイケメンで、おまけに頭脳明晰。

 そのうえ運動神経が抜群ときたものだから、当然女子は俺のことを放っておくはずがなかった。

 どういう経緯でできたのかはもう憶えていないが、小学三年生の頃にできた俺のファンクラブは、日を追うごとにどんどん増え続け、中学三年生になると、もう学校内のほとんどの女子は俺に夢中だった。

 その噂はたちまち遠方に広がり、学校でサッカーの大会を開催した時なんかは、わざわざ隣町から応援に来る熱狂的な者もいた。

 俺も最初の頃は嬉しかったのだが、途中からだんだんとうっとうしくなり、最後の方はもういい加減ウンザリしていた。

 
 中三の夏、最後の大会に敗退し、引退となった時、他の者は受験勉強に勤しんでいたが、俺はサッカーの腕を見込まれて何校かのスカウトが来ており、どの高校にするかで悩んでいた。

 サッカーに集中したかったので、男子校が良かったのだが、スカウトに来ていたのは、いずれも共学校だった。

 これじゃあ、高校に入っても今と一緒でサッカーに集中できそうもないなと、半分あきらめかけていた中で、ふと頭の中にある考えがよぎった。

━━そういえば、俺はファンの手前、今まで特定の彼女は作らなかったけど、もし作ったとしたら、ファンは離れていくんじゃないか。そうなったらサッカーに集中できる。でも、彼女を作ると、デートとかしないといけないから、サッカーの練習時間が減るな。それは困る…… ん? 待てよ。彼女ではなく彼女のフリをしてもらうというのはどうだろう。それならデートもしなくていいし、思う存分サッカーができる。

 
 
 〇〇高校に入学した俺は、クラス分けによって振り分けられた三組の教室の中で、どの子を彼女にするか品定めしていると、目があった女子が顔を赤らめたり、なんか変な声を出して喜んだりして完全に勘違いしていたため、俺は慌てて目をそらし、自己紹介の時にさりげなくチェックする事にした。

 自己紹介は男子から始まり、俺の番になると、まだ始める前から聞きなれた黄色い声援みたいなものが聞こえてきた、

「佐藤潤です。俺は将来サッカーのプロを目指しています。できるだけサッカーに集中したいので、みなさん、というか女子の方はあまり俺に関わらないでください」

 俺は嫌われるのを覚悟で、このような言葉を吐いたが、女子の反応は期待したものとは正反対だった。

「きゃー! なんか男らしい!」

「硬派って感じで、なんか好感がもてる」

「ブサイクな奴が言ったのなら腹が立つけど、佐藤君みたいなイケメンなら全然許せちゃう」

 俺の考えた〈女子に嫌われる作戦〉は、あえなく失敗に終わった。

 やはり、彼女を作るしか、もう道はなさそうだ。


 俺はその後の女子の自己紹介を、一人ずつ真剣に耳を傾けた。

 まず、俺に気がありそうな女子は排除し、それ以外の女子にターゲットを絞った。

 その中で、ある一人の女子が目に留まった。

 名前は坂本美希。

 彼女は見た目は地味なのだが、将来女優を目指していると言ったため、そのギャップで、なんか強烈な印象が残った。


 その後、彼女以上のインパクトのある女子は現れなかったため、俺は彼女に声を掛けることを決めた。

 そしてHR終了後、彼女が教室を出ていったのを見計らって、俺は声を掛けた。

「あの、ちょっと話したい事があるんだけど、ちょっといいかな」

「えっ、話したい事ってなに」

 彼女は怪訝そうな顔を俺に向けた。

「うん。まあ、ここじゃちょっと話しづらいから、とりあえず外にでようか」

 校門を出てしばらく歩いていると、小さなカフェが見えたので、とりあえずそこに入った。

 彼女になにを飲みたいか訊くと、コーヒーと答えたので、俺もそれに合わせてコーヒーを二つ注文した。

「ごめんな。急に声掛けられてビックリしただろ」

「うん、まあ。ところで、話というのは?」

「えーと、実はね…… あっ、ちょっと待って」

 店員がこちらに向かってくるのが見えたため、俺は話を一旦保留した。

 お互いがコーヒーを一口啜り、飲むにはまだちょっと熱いのを確認した後、俺はおもむろに口を開いた。

「ちょっと言いにくい事なんだけどね。まあ、簡単に言うと、俺と付き合ってほしいんだよね。……あっ! ゴメン、間違えた。付き合ってるフリをしてほしいんだ」

「えっ、言ってる意味がよく分からないんだけど」

「自己紹介の時も言ったけど、俺将来サッカーのプロを目指してるんだ。だから、できるだけサッカーに集中したいんだけど、今のままじゃ、女子たちに騒がれてそれも難しそうなんだよな。だから特定の彼女を作れば、女子たちも離れていくんじゃないかと思ったんだ。でも、本当に彼女を作るとデートとかしないといけないだろ? それだとちょっと面倒だし、サッカーの練習時間も削られてしまう。そこで俺は考えてある結論に達したんだ」

「それがさっき言った彼女のフリってこと?」

「そう。君、将来女優を目指してるだけあって、勘がいいね」

「そんなの、ちょっと考えれば誰でも分かるよ。それより、どうしてその役目に私を選んだの?」

「まず、最初の段階で、俺に気のありそうな女子は切り捨てて、残った女子の中で、なぜか君が一番印象に残ったんだ」

 俺はそう言った後、照れ隠しにコーヒーを一気に飲み干した。

「そうなんだ。それって、私が女優を目指してるって言ったから?」

「まあ、そうかな」

「見た目が地味なくせに、よくそんな事言えるなって思ったんじゃない?」

「いや、まあ、そこまでは思わないけど……」

「あはは! 隠してもダメよ。ちゃんと顔にそう書いてあるから」

 美希は笑いながら俺を追い込んできた。地味な顔のくせに、もしかしてSなのか?

「まあでも、なんか面白そうだね。いいわよ。私でよかったら、その役目引き受けてあげる」

「本当か! よかった。もう、てっきり断られるもんだと思ってたから、ほっとしたよ」

「普通の子だったら当然断ってたんだろうけどね。でも、よく考えたら、それって私にも利があると思って」

「どういう事?」

「女優を目指すにあたっていい勉強になるって事。つまり、あなたと交際してるフリをするという事は、言い換えれば演技をするという事になるでしょ。だから、私にとっても悪い話じゃないと思ったの。ねえ、二人で協力して、この三年間、いい意味でみんなを騙しちゃおうよ」

 美希が急にやる気になったので、俺は少し面食らった。

「そうだな。美男ブ女のでこぼこカップルで、この三年間を突っ走ろうぜ!」

「ちょっと、だれがブ女よ!」

「ああ、ごめん。ちょっと調子に乗り過ぎた。じゃあ、改めて美男美女の黄金カップルで、この三年間お願いします」

「うん。それでよし」

 こうして俺と美希との〈黄金偽装カップル〉が誕生した。


 その後美希は演劇部に所属し、日々腕を磨いていった。

 俺は無論サッカー部に入部し、日々練習に明け暮れていた。

 美希との偽装カップル効果で、女子たちは俺に近寄らなくなった。

 美希は最初の頃、なんであんな子がとか言われていたみたいだが、それも徐々に薄れ、一ヶ月が過ぎた頃にはもう何も言われなくなり、俺達はもう堂々と偽装カップルぶりを発揮していた。

 昼休みには、美希が作ったという体の、美希ママ手作り弁当を一緒に食べ、放課後は俺の練習が終わるのを美希が図書室で待ち、練習が終わると、俺が美希を迎えに行き一緒に帰った。

 
 その後、二年に進級すると、美希は演劇部の部長を任され、台本も自分で書き、後輩に演技指導するまでになっていた。

 一方俺は、一年の冬に全国大会で活躍したのがきっかけで、時々取材されたり雑誌に載ったりしていた。

 この頃から美希は色々なオーディションを受けるようになったが、結果は芳しくなかった。

「やっぱり私には女優は無理なのかな。こんな地味な子は他にはいて捨てる程いるもんね」

 美希が時々グチるこういうセリフに対して、俺はなにも言えなかった。

 本当の彼氏なら励ましのセリフを言ったりするのだろうが、俺がそれを言ったところで、ウソくさくなるのは見え見えだし、美希もそれを望んではいないと思った。

 
 そんなある日、部活を終え、図書室へ美希を迎えに行く前に携帯をチェックしていると、美希からのメッセージが入っていた。

『ごめん。急用ができたから今日は先に帰る』

 俺は急用ってなんだろうと少し気になったが、とりあえずその日は一人で帰った。

 
 翌日、登校して教室に入るなり、美希が嬉しそうな顔で走り寄ってきた。

「ねえ、聞いて! 私、受かったよ!」
 
 俺は美希が何を言っているのか分からなかった。

「受かったって、なにが?」

「映画のオーディション。一ヶ月前に私東京に受けに言ったでしょ。その連絡が昨日あったの!」

 俺はそれを聞いて、一ヶ月前に美希が東京に行ったのを思い出した。

「おめでとう。これで美希の女優になる夢が実現するってわけか。てっきり俺の方が先に実現すると思ってたのに、先を越されたな。ん? でも、待てよ。映画って東京で撮影するんだろう。その間、学校はどうするんだ?」

 美希の表情はさっきまでと打って変わって、険しくなった。

「まだ決めてないけど、もしかするとやめるかもしれない」

「そんな……」

 その先の言葉が浮かばなかった。

 なんて言っていいのか分からなかった。

 クラス中が俺達に注目する中、俺は黙ったままそこに立ち尽くしていた。


 その後、美希は両親と担任を交えて話し合った結果、今月いっぱいで学校をやめ、来月東京へ引っ越す事になった。

 両親は反対したみたいだが、美希がどうしても女優になりたいと主張し、結局両親がそれに折れたみたいだった。

 俺はそれ以来、美希とは話さなくなった。

 お互いがなんとなく話し掛けづらいというのもあり、日々は刻刻と過ぎていった。


 そして、美希が東京に発つ日がやってきた。

 前日に美希からもらったメッセージで新幹線の時間は分かっていた。

 行こうかどうか迷ったが、『最後に話したいことがある』という文が気に掛かり、俺は家を出て駅へ向かった。

 新幹線のホームに着くと、美希が両親とともに最後の別れの言葉を交わしていた。

 美希が俺に気づき手を振ってきたので、俺はわざとゆっくり歩きながら美希の方へ向かった。

 美希の両親が、私達が代わりに並んで順番をとっといてあげるからと言って、美希と二人きりにしてくれた。

 美希はなにか言いたそうな顔をしているくせに、なにも言わないものだから、俺の方から切り出してやった。

「話ってなんだよ」

「うん。その前にひとつ聞いてもいい。もしかして、怒ってる?」

「別に怒ってねえよ」

「その言い方が怒ってるんだけど」

「だから、怒ってねえって。話があるんなら早く言えよ」

「うん。じゃあ言うけど、怒らないで聞いてね。私達、偽装カップルという契約で始まったけど、私、早々に違反しちゃったんだよね。潤のこと、最初は変な提案したり、モテるのをひけらかしたりして、あまりいい印象じゃなかったんだけど、サッカーに真剣に取り組んでいる姿を見ているうちに、気がつくとと好きになってた。でも、こんなのもちろん潤には言えないから、ずっと胸のうちに抱えてたの。だからずっと苦しかった。私はみんなを騙してたの。潤と、クラスのみんなと、両親と、そして私自身の心をずっと騙してたの……」
 
 美希は泣いてもう最後は声になっていなかった。

 俺は美希の心を薄々は気付いていた。

 でも、気付いていないフリをしていた。

 そうすることがお互いのためにもいいと思った。

 しかし、それが間違いだったことが今わかった。

 結果的に美希を苦しめることになってしまった。

 今頃それに気付くなんて、俺はばかだ。


 俺は美希の手を握りながら、「東京に行っても頑張れよ。女優になるのが美希の夢だったんだからさ」と言った。

 美希はきょとんとして、「どうしたの、急に手なんか握って。両親の事なら気にしなくていいよ。私と潤が本当の恋人じゃないって、もう言ってあるから。それにここには知ってる人もいないし、恋人のフリはしなくていいんだよ」と不思議そうな顔で言った。

「いいんだ。これは俺の意志でやってるんだから。それとも俺に手を握られるのは嫌か?」

「ばか。嫌なわけないじゃない」

 俺達はしばらく手を握ったまま、お互いの顔を見つめていた。

 まるで本当の恋人同士のように。

「ねえ、最後にお願いがあるんだけど、いいかな」

「いいよ」

「なんか俳優とか歌手とかの有名人が、昔好きだった人とか親しかった友人を探してもらうって番組があるでしょ。十年後にまだその番組が続いてたら、私、潤のこと指名してもいいかな?」

「ああ、もし続いてたら、その時は喜んで出るよ。俺は昔、坂本美希と付き合っていたってな」

 その後、出発時間となり美希は新幹線に乗り込んだ。

 出て行く新幹線を、俺は美希の姿が見えなくなるまで見送った。

 新幹線の後ろ顔が遠のいていく中、俺は最後の美希の言葉を振り返った。

 頑張り屋の美希のことだから、十年後はだれもが知っている女優になっているだろう。

 俺も努力して、それに負けないくらいのサッカー選手になる。

 そして十年後、有名女優坂本美希の初恋相手として番組で再会する。

 それが美希と交わした、最初で最後の大切な約束だから。


   
            完