わが校の体育祭は9月である。第4日曜日だったろうか。遥か昔のこと故、どんな種目をやったのかほとんど記憶にない。あるのはたった一つである。
4色対抗で白・黄・赤・緑とあり、私は白組であった。この4組がそれぞれ応援合戦を繰り広げるのだ。午後の部のアタマ(一時)から始めるのが恒例であった。まず白の袴姿となった有志応援男子50名が、入場門からおりゃーーっ!!という雄叫び上げつつ飛び出してくる。威勢だけはいい。白鉢巻の彼らはジャッキー・チェンのような動きをしているがバラバラで、ほとんどぶっつけ本番であることがわかってしまう。それでも迫力はありそうだ。審査員へのアピールは出来ているだろう。太鼓の音がドドンドドンと鳴り響く。その音は私の脳天にも響いてくる。なにしろ最前列に座っているから、自分の頭まで太鼓になりそうだ。
白の猛者たちの演舞は続く。その姿に暑苦しいなあと思っていたら今度は白衣装の女子連が入場門から飛び出してきたのだ。チアガールである。その数30人ほどだ。しかし雰囲気が何か違う。暑苦しい匂いが漂うのだ。それもそのはず女子ソフトボール部の面々なのだ。全国を狙う県内屈指の有力メンバーである。真っ黒に日焼けした顔。筋肉質でどっしりした身体。彼女等の姿に恐れをなしたのかわからないが、白の五十勇士はスゴスゴと退場していく。心なしか周りの男子たちの顔色がさえない。戸惑っている。ソフトチアの面々は白のノースリーブワンピースに黒のベルト(名称わからぬがスカーフを長くしたもの)、濃紺のハイソックスという衣装だ。当時流行っていたハマトラを意識したものであろう。そして両手に白ポンポンを持っている。なぜ白組にソフト部が集結しているのか?という疑問もあった。チア志願者がおらず助っ人として借り出されたのだろうか。
ピンクレディーのサウスポーが校庭にこだましている。
その曲に合わせ彼女たちなりに可愛らしく踊っているのだろうが、いかんせんワンピースから筋肉が盛り上がっている。否、ワンピースのサイズが合っていない。パツパツである。白衣装だから真っ黒な肌が際立つ。しかも皆短髪である。野球部をやめて髪を伸ばし始めた私の頭と同じぐらいなのだ。この髪だけでもなんとかならないだろうか。体育祭のある九月だけ長髪にできないだろうかと思った(無理である)。
そんな無茶なことを考えていた私は。一人のチアに目が行ったのである。大きな体のソフトチアの陰に隠れ、気が付かなかったが、一人小柄な短髪の女子が踊っている。肌は黒いが他のチアとは違い、ほっそりした体型だ。よくよく見ると恵子(仮名)ではないか!なんで彼女がここにいるんだろうか。名を轟かすソフトチアの中に1人混じっているのだ。恵子は同じ中学出身で中一・中三と同じクラスであった。帰宅部であり、目立たない大人しい子であった。私は彼女と話したこともほとんどなく、正直印象の薄い子であった。レベルの上がる高校の運動部に、それもわが校で唯一、インターハイを狙えるという女子ソフト部に入部しているとは思えない。ひょっとしたら恵子が唯一、白組チアの志願者だったのではないかと思った。
なぜそう思えるかというと中学時代に見せたことのないような表情をしているからだ。溌剌としている。イキイキとしている。とにかく楽しそうだ。他のムキムキなソフトチアと比べれば体つきこそ歴然としているが、動きは軽快だ。ソフトチアは腕力なら秀でているだろうが、動きはコチコチだ。専門家でないからうまく解説はできないが、ソフト部の面々は慣れないことをやらされているという雰囲気なのである。それに対して恵子は楽しもう、楽しんじゃおうという気持ちが表に現れていた。
変貌した恵子に私は目を白黒させていた。そして曲がサウスポーの二番に入るや否や、彼女が最後尾からセンターに上がってきたのである。
(つづく)