【登場人物】
・男
・妻
・同僚
朝、玄関。
男:「よし!」
妻:「今日は早いわね」
男:「昨日みたいな失敗はしない!」
妻:「忘れ物は?」
男:「ない!」
妻:「財布は?」
男:「ある!」
妻:「スマホ」
男:「ある!」
妻:「鍵」
男:「ある!」
妻:「定期」
男:「ある!」
妻:「資料」
男:「ある!」
妻:「本当に?」
男、胸を張る。
「完璧!」
妻:「その自信が一番心配なんだけど」
男:「大丈夫!今日は俺に死角なし!」
意気揚々と出発。
会社到着。
男:「おはようございます!」
同僚:「おはようございます」
男:「今日は珍しく余裕で来たよ」
同僚:「よかったですね」
男:「しかも忘れ物ゼロ!」
同僚:「すごいじゃないですか」
男:「財布、スマホ、鍵、定期、資料……全部確認した!」
同僚:「完璧ですね」
男:「そう!」
カバンを机に置く。
男:「さて、仕事するか!」
同僚:「…………」
男:「ん?」
同僚:「あの……」
男:「何?」
同僚:「今日、在宅勤務の日ですよ」
男:「…………」
同僚:「昨日、自分で決めてましたよね?」
男:「…………」
スマホを見る。
予定表には大きく――
『本日・在宅勤務』
男、天を仰ぐ。
同僚:「忘れ物はなかったんですよね?」
男:「ああ」
同僚:「じゃあ何を忘れたんです?」
男:「会社に来ないことを忘れた」
同僚:「一番大きいやつ忘れてます」
男、胸を張る。
「でも自信だけは持ってきた!」
同僚:「それ、家に置いてきてください」
いかがでしたか?笑っていただけましたか?
財布よし。
スマホよし。
鍵よし。
資料よし。
ここまで確認すると、人間は急に強くなります。
「今日は完璧だ!」
しかし人生には、
「持ち物リスト」には書いていない忘れ物があります。
約束。
予定。
目的。
そして、ときどき――
自分がどこへ行く日だったのか。
人生、だいたい予定外。
忘れ物がない日はありません。
なぜなら人間は最後まで――
「何を忘れたか」を忘れるからです。
