出版・編集その1

【登場人物】

・編集者:締切より“日本語”が怖い

・著者:内容は神。助詞は自由

・AIくん:文章校正AI。正しさに寄りすぎる癖がある


場面1

(編集部会議室。机の上にゲラが山)

編集者「今日は第3章の確認です。大筋は最高です。…大筋は」

著者「お、いけました?」

編集者「いけてます。内容は。…内容は」


場面2

(編集者、ゲラの一行を指さす)

編集者「ここ、“未来に希望を”ってありますよね」

著者「はい」

編集者「“未来へ希望を”でも良くないですか」

著者「いや、にです。希望は未来に“置きたい”」

編集者「置きたい…」

(会議室の空気が静かに重くなる)


場面3

AIくん「提案します。『未来へ希望を』は方向性。『未来に希望を』は到達点」

編集者「なるほど…」

著者「いや、希望は“方向”じゃなくて“設置”なんです」

編集者「設置!?希望を設置!?工事ですか!?」


場面4

(別の行)

編集者「次、ここ。“人は言葉で救われる”」

著者「いいでしょ」

編集者「“言葉に救われる”のほうが自然かも…」

著者「いや、“で”です。“言葉”は道具です」

AIくん「言葉は凶器にもなります」

編集者「今それ言わないで!」


場面5

(会議がだんだん助詞だけになる)

編集者「ここ、“私は”じゃなくて“私も”だと…」

著者「いや“は”で立てたい」

編集者「“が”にすると主語が…」

著者「“を”で受けたい」

AIくん「本会議の議題:助詞」

編集者「もう、タイトル『てにをは大全』にします?」


場面6

(時計を見る。会議終了10分前)

編集者「…では結論。第3章、内容は一文字も直しません」

著者「よかった!」

編集者「代わりに“てにをは”だけ、127箇所直します」

著者「え、内容じゃないの!?」

AIくん「内容はそのまま。人格だけ変わります」

著者「人格!?」


場面7(オチ)

(会議終了)

編集者「よし、今日は助詞が固まった。次回は…」

著者「次回は内容ですね!」

編集者「いいえ。次回は…」

AIくん「『、』です」

編集者「句読点だけで会議します」

著者「もう日本語、奥深すぎて底が見えない!」

AIくん「底はあります。校正地獄の底です。」


いかがでしたか?笑っていただけましたか?

出版・編集の会議って、ときどき“内容”じゃなくて「てにをは」に国会並みの審議が入ります。

希望を「未来に置く」か「未来へ運ぶ」かで、編集者の寿命が1ページ縮むあの感じ。

AIくんは正しさで解決しようとするけど、著者は「設置したい」――もう希望が工事現場。

そして次回予告が「句読点だけで会議します」。……日本語、深すぎて底が編集部です。