【登場人物】

・恵美…主婦。冷蔵庫が野菜で埋まりがち。

・隣の佐藤さん…“もらう”より“配る”が好き。

・向かいの高橋さん…巡回ルートに詳しい人。


【場面】

夏の夕方。恵美の家の玄関。

ピンポーン。

佐藤さん「恵美ちゃん、きゅうり採れすぎたから、これ!」

(袋いっぱいのきゅうり)

恵美「うわー!ありがとうございます!助かります!」

(心の声)「助かる…のか? もう冷蔵庫、きゅうり棚なのに」

翌日。今度は向かいの高橋さん。

高橋さん「恵美さん、なすが山ほどあるんだけど…いる?」

恵美「い、いります!…たぶん!」

(心の声)「たぶんって何」

さらに翌日。

佐藤さん「トマトも入ってきたから、はい!」

恵美「ありがとうございます!…夏が濃い!」

冷蔵庫を開けると、

赤・緑・紫の“野菜戦隊”がぎゅうぎゅう。


恵美「もう…うち、八百屋じゃん…」

【転機】

恵美、決意する。

恵美「よし。うちも“配る側”になろう」

袋にきゅうりを詰め、佐藤さん宅へ。

恵美「佐藤さん、きゅうり採れすぎたのでどうぞ〜!」

佐藤さん「まあ!助かるわ〜!」

(当たり前のように受け取る)

次の日。高橋さん宅へなす。

恵美「なす…よかったら…」

高橋さん「おお!ちょうど欲しかった!

この辺、なすの流れが来てたからね」

恵美「流れって何!?」

【ラスト】

その翌日。玄関のチャイム。

佐藤さん「恵美ちゃん、きゅうり採れすぎたから、これ!」

(恵美、袋を見る)

見覚えのある袋。

見覚えのあるシール。

そして…きゅうりの形状も、昨日うちから出したやつ。

恵美「……これ、うちのきゅうりじゃないですか?」

佐藤さん「え〜?そう?

野菜って“巡る”からねぇ」

そこへ高橋さんが通りがかり。

高橋さん「ああ、それ、

“きゅうり環状線”に乗ったやつだね」

恵美「路線名ついてる!!」

(夏の新潟、野菜はご近所を一周して、

なぜか持ち主の家に帰省する。)

いかがでしたか?笑っていただけましたか?


夏の新潟のご近所あるある——

野菜は「採れる」より先に「回り始める」。

きゅうり、なす、トマトが、まるで回覧板みたいに巡回して、

気づけば冷蔵庫が“野菜の待合室”になるんですよね。


しかも、配り始めた瞬間に発生するのが

「恩返し野菜」ならぬ「里帰り野菜」。

自分が出したはずのきゅうりが、

違う家を経由して堂々と戻ってくるあの現象は、

もはや地域循環の完成形です。


新潟の夏は、

人の距離も、野菜の距離も近い。

そして野菜は、最終的に

“持ち主の家に帰省する”——

そんな、ありがたいのに困る一編でした。