先日、初めて千葉県市川市での標記の会合に参加した。
集まった人数は数名でしたが、非常に密度の濃い時間を過ごさせていただきました。
時代を変えていくのはこのような小さな集まりが起点になるのかもしれない。
友人から紹介されたOさんが長年にわたる政策秘書の経験と才能を開花させ、
乾坤一擲、下記の文章を作ってくれた。
非常にわかりやすく。納得してもらえる内容だと思う。
間もなく小さな冊子になる予定。
大ベストセラーをめざし、そして社会を変える1冊になるのかもしれない。
小さくてもキラリと光る小冊子にならんことを願う。
私たちは基本的には情報はすべてオープン「特定秘密」などない。
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誰もが「自分の人生」を歩めるーベーシック・インカムというしくみー
第1章 ベーシック・インカムって何?
「ベーシック・インカム」とは、国がすべての国民に対し、最低限度の生活に必要なお金を無条件に支給するという構想です。日本語では、「基本所得」「基礎保障所得」「国民配当」などと訳され、略称「BI」と呼ばれることもあります。
その歴史は古く、18世紀末に活躍した有名な社会思想家であるトーマス・ペインに始まったとされ、20世紀に入ると、具体的な提案を出す学者が現れ始め、80年代頃からヨーロッパを中心として、構想の実現をめざす国際的な組織の活動が始まりました。日本では、2000年代に入った頃から議論がさかんになり、注目が集まるようになっています。
日本の政党でも、政策案に盛り込むなど導入の検討が始まっています。党としては打ち出していない政党の国会議員でも、個人的に賛成する人が、かなりの割合にのぼるという調査結果もあります。立場の違う人たちが、それぞれの考え方で賛成しているのがベーシック・インカムの特徴であり、海外でも、そういう傾向にあります。
個人では、作家の田中康夫さん、脳科学者の茂木健一郎さんなどが熱心なベーシック・インカム論者として知られています。海外では、有名な英国の社会学者であるJ.S.ミルやドイツの心理学者のE.フロム、米国の公民権運動指導者のキング牧師、日本でも著作がベストセラーになった経済学者のJ.K.ガルブレイスなどがいます。
「ただ、一律にお金を配る」という単純な構想が、なぜ200年以上も議論され続け、21世紀に入って、クローズアップされているのでしょうか?それは、この構想が、私たちの生き方、心の持ち方、そして社会のあり方や経済のしくみさえも大きく変える可能性を秘めているからです。その結果として、いままで解決できなかった、いくつもの大きな問題を解決できる糸口が見えてきました。「どうして、そんなことが…」と思われるでしょう。では、その謎解きのツアーにご案内いたします。
第2章 どのような効果があるの?
ベーシック・インカムが導入されると、毎月、各個人に最低限度の生活に必要な額(8~10万円程度)が支給されます。そうなると私たちの生活(人生)や社会はどのように変わるのでしょうか?その効果はどのような形で現れるのでしょうか?
①「貧しさによる苦しみ」を無くす。
長く続く病気や障害があったり、年をとって働けなくなったり、小さな子供を抱えたひとり親などで、社会保障制度からこぼれ落ちて苦しんでいる人が大勢います。悲しい事件も後を絶ちません。また、ここ10年程で、失業が増え、派遣などの非正規雇用が急増したことで、「働きたくても働けない。仕事に就けても、収入が少なく、いつ首を切られるかわからない。」という人々が増大してしまいました。
ベーシック・インカムが導入されれば、このような人たちが貧しさで苦しむことが無くなります。私たちが長い間抱えてきた「どんなに社会が豊かになっても、貧しさに苦しむ人がいる」という矛盾を無くすことができるのです。少し大げさに言えば、「人類の夢を一つ叶えた」と言えるのではないでしょうか?
②生き方が変わる
私たちは、生活に必要な収入を得るため、さまざまなものを犠牲にしなければいけないことがあります。ベーシック・インカムが導入されれば、それらを犠牲にせずに生きていけます。例えば、ボランティア活動やNPO活動、その他の仕事も含め、低収入(無収入)であっても、自分がやりがいを感じる仕事に時間を割くことができます。また、資格を取るための勉強や事業を起こすための準備などを、安心して時間をかけて行うこともできます。家族の介護や子育てなどに集中することもできます。人生の選択肢が大幅に広がり、自分がやりたいこと、価値を感じることをやれる可能性が開けます。
事業を始めたい、この道のプロになって成功したいなど、私たちは夢を抱いても、失敗したときのことを恐れ、あきらめてしまいがちです。ベーシック・インカムが導入されれば、私たちは夢への挑戦を続けること(繰り返すこと)ができるようになるのではないでしょうか?
近年、日本では、多くの若者が将来に不安を持ち、結婚や子供を持つことをあきらめています。そのため、未婚率は急激に増加し、少子化が進んでいます。ベーシック・インカムが導入されれば、将来への不安は取り除かれ、安心して結婚し、子供を持つことができるようになります。これは、本人たちの幸せのために必要なことですが、それと同時に、少子化という日本社会最大の問題を解決することにもなります。
企業や職場はどうなるでしょうか?人々は、生活のために我慢して苦しい職場に勤め続けることはしなくなります。社員を過労死させたり、精神的苦痛を与えたりするような企業は生き残れないでしょう。逆に、給与は低くても、社員が生き生きと働けるような企業は発展するかもしれません。
失業を減らすために、仕事を分け合って働く「ワークシェアリング」という考え方があります。例えば、仕事が2人分しかなく、働く人が3人いる場合、3人で2人分の仕事を分け合うことで、失業者が1人出ることを防ぐというやり方です。合わせて、それぞれが、余った時間を家族と過ごすなどして有意義に使えるというものです。ヨーロッパなどで成功している国々があり、日本でも取り入れようとする動きがあります。しかし、仕事量が減れば、その分の給料も減ってしまいます。そのため、社会保障が手厚いヨーロッパでは良くても、事情が違う日本では、なかなか進みませんでした。ベーシック・インカムが導入されれば、このやり方が普及し、失業を減らすと同時に、ゆとりのある生活が送れるようになると思われます。
③今の制度より良くなるの?
今の制度である生活保護、基礎年金、失業保険などからの給付は、ベーシック・インカムに統合されていくことになります。これらの制度に関わる事務作業は膨大で、多額のコストがかかっていました。例えば、生活保護では、申請者が条件を備えているか調べるのに、大変な手間や時間をかけていました。年金制度では、保険料徴収のためにたくさんの人を雇い、給付額の計算も複雑で長い時間をかけていました。これらの制度が統合されることで、手続きが簡素化され、莫大な行政コストを削減することができます。また、削減された分を支給額に充当することで、その分、負担額が軽くなります。
生活保護を受けるには、手持ちの現金がほとんど無く、他の資産も全て失い、親類等からの援助も受けられないことが条件となっています。そのため、貧しくても申請をためらう人や申請しても認めてもらえない人が数多くいます。また、働いて収入が増えると、その分、給付額から引かれてしまうので、労働意欲が減退してしまうという問題もあります。さらに、不正に受給しようとする人が後を絶ちません。それを見破ろうとして、職員の時間や労力がさかれるという悪循環が続いています。
ベーシック・インカムに統合されることで、このような問題は、全て解決されます。
今の基礎年金制度では、何十年も加入して保険料を払っていないと年金をもらうことができません。定められた期間に満たない場合は、それまで払った保険料が無駄になってしまうのです。また、収入が低い時期は保険料を払わなくてもよいことになっていますが、その分、受け取る年金額が減ってしまいます。このようにして、無年金者・低年金者と呼ばれる人がたくさん出てしまいました。また、近年は、年金に加入しなかったり保険料を納めなかったりする人が全体の4割にもなってしまったので、将来、老後に年金を受け取れない人が大量に出てしまうことが心配されています。
ベーシック・インカムに統合されることで、このような問題は、全て解決されます。
④経済にどのような効果を与えるの?
ベーシック・インカムは、経済にどのような影響を与えるのでしょうか?プラスの効果になるのでしょうか?
そもそも「経済効果」とは、何でしょうか?それは経済を成長させることです。簡単に言えば、「お金を使う」ことです。「お金が回る」と言ってもいいでしょう。私たちは、お金を使う時に、お金と「物やサービス」を交換します。その時に「物やサービス」が生み出されたことになり、経済が成長したことになります。
それでは、逆に経済にマイナスになるのは、どういう行為でしょうか?それは「お金を貯める」ことです。「お金が回らない状態」と言ってもいいでしょう。でも、私たちは「貯蓄は美徳」と言われて育ったような気がします。間違いだったのでしょうか?
そこには、少し説明がいりますので、なぜ「お金を貯める」ことが、経済に悪いのかお話しします。
日本はここ20年ぐらいほとんど経済成長をしていません。これは他の国と比べても珍しく、「失われた20年」と言われることもあります。なぜ、そうなってしまったのでしょうか?それは、みんながお金を貯めこんで使わなくなってしまったからです。まず、私たち消費者が物やサービスを買わず、お金を貯めるようになってしまいました。そのお金をタンス預金として家に置いている人もいますが、これが一番悪いことです。お金が使われる可能性を完全に奪っているからです。
次に銀行に預けた場合はどうでしょうか?私たちが預けた預金は、企業に貸し出され、事業を広げることに使われると良いのですが、今は、借りる企業が無いため、何百兆円というお金が銀行に貯まっています。
企業はどうでしょうか?実は企業も何百兆円というお金を貯めこんでいます。それを使って事業を広げたり、商品をたくさん作ったりすればよいのですが、商品を多く作っても売れないので、ただ貯めこんでいるのです。将来の経営が心配なので、社員のお給料にして配ることもしません。
こうして、私たち消費者、銀行、企業がそれぞれ、お金を貯めこんで使わなくなったため、経済が成長しなくなったのです。では、ベーシック・インカムが導入されると、この状況はどのように変化するのでしょうか?
まず、日本のかなりの割合を占める低所得者の方に、お金が配られることに大きな意味があります。この方たちは、毎日の生活で精一杯ですから、受け取ったお金を貯めることはせず、ほとんど使う(消費する)ことが予想されます。これは莫大な経済効果となります。
次に言えることは、私たちの「心の持ち方」に与える影響です。日本人は他の国の人と比べて貯金を多く持っています。社会保障がしっかりしていないので、将来への不安が大きく、「何かあったとき」のために貯金をしていると言われています。しかし、その「何か」は起きないことも多いため、最後まで多額の貯金を持ったまま…というケースも多いと聞きます。
ベーシック・インカムが導入され、一生確実に収入が入るとわかれば、「将来起きるかもしれない何か」ではなく、「今の自分に必要なもの、価値あるもの」に、ためらわずにお金を使おうとするのではないでしょうか?もし、多くの人がそう考えるのであれば、これもまた、莫大な経済効果となります。
英国の有名な経済学者J.M.ケインズは、1930年代に、経済を成長させて失業を無くすために、「国が、大規模な工事などを実施し、大量のお金を使う」という方法を考え出しました。それを「土の中にお金を埋め、それを掘り出す作業をさせることで、経済効果が生まれ、失業者が減る」という言葉で説明しています。
今でも、それは行われていますが、残念ながら、ほとんど効果がありません。そもそも、穴を掘る作業は必要なく、最初から直接、お金を渡せばよいのです。
⑤その他の効果は?
今でも、日本の多くの会社経営者たちは、「社員や、その家族の生活を預かっている」という強い責任感を持っています。そのため、自分がうまく経営できなかったせいで社員が苦しんではいけない、というプレッシャーを感じて生きています。ベーシック・インカムが導入されれば、その精神的負担をだいぶ減らすことができます。
貧しさゆえの犯罪も少なくなることが見込まれます。特に、貧しい人たちの中には「刑務所に入れば、衣食住を心配しなくてよい」と考え、軽い犯罪をわざと繰り返す人たちがいます。少なくとも、このような人たちが犯す犯罪は無くなるでしょう。
第3章 疑問にはどう答えるの?
ベーシック・インカムの話を聞いた時、だれもが感じる疑問があります。その点について述べたいと思います。
①働かないのにお金をもらっていいの?
まず、一つ目は「働かないのにお金をもらってもいいの?」という疑問です。「働かざる者、食うべからず」という言葉もあります。それでは、そもそも「働く」とは、どういう意味なのでしょうか?
私たちが「働く」という言葉から連想するのは、どこかへ勤めに出て、お給料をもらってくるような場合です。でも、家事や育児も大変な重労働です。町内会の仕事やボランティア活動もそうです。これらは「働く」とは言わないのでしょうか?
もっと広い目で見てみましょう。人間の歴史は数千年続いていますが、多くの人が勤めに出て給料をもらうようになったのは、ヨーロッパでも200年ぐらい前から、日本では戦後ぐらいからです。世界全体では、まだそうなっていない国や地域があるほどです。家族のうち誰かが勤めに出て、貰った給料で家族全員が生活するというしくみは、人間の長い歴史の中では、つい最近始まった、一つのやり方に過ぎないと言えます。
昔の農村では、私たちは集落単位で生活し、農作業をしたり、山へ焚き木を取りに行ったり、道具を作ったり、家事や育児をしたり、みんなで必要な仕事を分担して、それぞれが働いていた(役割を担っていた)と言えます。老人や障害がある人でさえも、何らかの役割を担っていたと考えられます。その働き(役割)に対して食糧や生活に必要なものが与えられていたという考え方もできます。
今の社会のしくみでは、お金が無いと必要なものを得ることができません。昔は、集落の一員であれば、生活に必要なものを得ることができました。それを現在に置き換えてみれば、ベーシック・インカムになるという見方もできます。私たちは「給料をもらうような仕事だけが、収入に値する価値がある。」という狭い見方を捨てる必要があるのかもしれません。
もう少し違った角度からの見方もあります。先ほどの例で言えば、「土地や畑や山は、昔から受け継がれ、集落の仲間が共同で使ってきたもの。そこから生み出された食べ物や道具は、集落の一員であれば、誰もがもらえるはず。」という考え方です。
この考え方の現代版とも言えるのが、英国のベーシック・インカム論者で技術者でもあるC・H・ダグラスの次の言葉です。「現代の工場で高度な製品が作られるのは、労働者の力というよりは、高度な設備や製造方法による。これは、長い歴史の中で培われた知識や技術によって生み出されたものなので、人類共通の文化遺産である。すべての人が遺産の共同相続人なので、工場の経営者と労働者以外の人にも、そこから得られる分け前が与えられるべきである。」
②働かない人が増えてしまうのでは?
次に、「ベーシック・インカムが支給されると、人が働かなくなり、怠け者になってしまうのではないか?」という疑問について考えてみたいと思います。月に8~10万円程度が支給されて、働ける人が働かなくなるのか、という点について二つの観点から述べたいと思います。
一つ目は、必要性という観点からです。月に8~10万円程度では、ぎりぎりの生活しかできません。働かない分、時間がたっぷりあって遊ぼうと思っても、それに使うお金が無いという状態です。一般的に考えれば、仕事をして稼いで、もっと自分の欲しい物やサービスを買いたいと思う人が大多数ではないでしょうか?
二つ目は、私たち人間の本性とは何かという観点からです。最低限の生活が満たされたとき、私たちはどのような行動をとるのか、ということです。人により、いろいろな考え方があると思います。J.S.ミルは、ぎりぎりの生計を立てるための仕事よりも、生活の心配のない状態での仕事の方が、「強度に勝る」と述べて、ベーシック・インカムの導入を勧めています。人間の本性を否定的に捉える人もいますが、私たちはもっと私たち自身を信頼し、肯定的に捉えてもよいのではないでしょうか。この点に関しては、第6章で、もっと掘り下げてみたいと思います。
第4章 財源はどうするの?
ベーシック・インカムの話を聞いた時、もう一つだれもが感じる疑問は、財源をどうするのか、という点です。「実現できれば、いいこと尽くめかもしれないが、財源が大きすぎて無理ではないか?」という意見もあります。
財源に関していろいろな提案がなされているのでご紹介します。今ある税金や保険料を組み替えて財源とする案と、まったく新しい発想で財源をまかなう案に分けて述べたいと思います。
①税金等を組み替える
京都府立大学の小沢修司教授は、ベーシック・インカムに必要な費用をすべて所得税からとる案を示しています。すべての国民に月8万円が支給された場合、一律に所得税の税率を約50%にすれば、まかなえると試算をしています。「給料の半分もとられてしまっては大変」と思ってしまいますが、例えば、年収700万円の家庭で、両親と子供二人の場合、ベーシック・インカム導入後の方が収入が増える計算になります。もっと収入が多い家庭などは、逆になるケースも出てきます。
ドイツの大手企業経営者であるゲッツ・W・ヴェルナーは、所得税や法人税を廃止し、消費税に一本化して、そこからとることを提案しています。そのほうが経済活動をゆがめないと考えているようです。
環境を重視する考えを持つ人たちは、石油や石炭などの使用にかかる税金や土地の地代にかかる税金を充てるべきと主張しています。そのほか、相続税や贈与税など、さまざまな案が提案されています。
②公共通貨を発行する
C・H・ダグラスは、政府が発行する「公共通貨」(政府紙幣)で財源をまかなう案を唱えました。一般的には、通貨は、政府ではなく、中央銀行が発行します。日本では日本銀行(略称:日銀)が、それにあたります。中央銀行ではなく、政府が発行することで何が変わるのでしょうか?
政府はベーシック・インカムを支給しようと思っても、手持ちのお金が無い場合は、お金を借りて、将来、金利を付けて返さなければなりません。
でも、自分で通貨を発行してしまえば、金利は言うまでもなく、元本さえも誰にも返さなくてよいのです。そんなうまい話があるのでしょうか?
実は、昔は政府が通貨を発行していましたが、多くの国では、中央銀行を作って、そこに発行させるようになったのです。日本でも明治時代の初め頃は政府が発行していました。海外では、今でも、政府が発行している国があります。また、中央銀行が出来てからも政府が発行した例が、米国のリンカーン大統領やケネディ大統領の時代などにあります。日本でも、最近、発行に関する議論が起きており、選択肢の一つと考えられています。
世の中で生み出される物やサービスの量に対して、世の中に出回るお金(通貨)の量が増えると、物の値段が高くなります。なぜなら「一つの物」に見合う「お金の量」が増えるからです。急激に物の値段が高くならないように、世の中に出回るお金の量を調節することが中央銀行の重要な仕事の一つとなっています。
政府が通貨をたくさん発行すると、急激に物の値段が高くなってしまうのではないかと心配する声があります。でも、実際には、日本の企業は十分過ぎるほどの工場や労働者を持っており、今よりずっとたくさんの物をすぐにでも作り出す力があるので、問題は無いという見方もあります。
さらに思い切ったアイデアについてお伝えします。「公共通貨」を「自由貨幣」にするというアイデアです。
「自由貨幣」とは、なんでしょうか?それは、「時間とともに劣化する貨幣」です。ドイツの経済学者シルビオ・ゲゼルが、「貯めこまれて循環しない貨幣が貧困を作り出している」と考え、考案しました。この貨幣は、時間が経つと価値が無くなっていってしまうので早く使わないといけないのです。
自由貨幣は、20世紀前半、オーストリアの小さな町で実践され成功を収めました。通常のお金の14倍の速さで流通し、すばやく使われることで大きな経済効果を生み出したのです。その結果、この町は、オーストリア初の完全雇用を達成した町になりました。
第5章 導入しなきゃいけない理由があるの?
今の私たちは「資本主義」というしくみの中で暮らしています。そのしくみは「企業で働きたい人はみんな勤めることができ、給料をもらって欲しいものを買い、商品が売れることで企業が儲かり、人を雇うことができる」というものです。
しかし、最近は状況が変化し、このしくみがうまく回らなくなってしまいました。うまく回していくためには、ベーシック・インカムを導入するしか方法がないのではないか、という考え方があります。この点について触れておきたいと思います。
①失業は無くならない?
先ほど説明したしくみでは、「失業者は出ないか、出てもすぐ減る」と考えられていました。ところが、20世紀の後半頃から失業者が大量に出るようになり、いつまでも減らないようになってしまいました。理由は商品を作るときの技術が発達したせいでした。例えば、同じ商品を同じ量作るときに、ロボットなどを使うことで、以前より少ない労働者で済むようになったのです。
政府は、失業者を訓練して仕事に就かせようと努力していますが、就く仕事自体が減っているので、なかなか成果が上がりません。失業は収入が途絶えるだけでなく、意欲や自信を失わせ、精神的痛手を与えます。さらに、社会から孤立させ、家族の崩壊につながりやすいなど深刻な社会問題となっていきました。
②物が売れない?
企業が作る商品が売れなくなってきました。大きな理由の一つは、大量に増えた失業者や非正規雇用の方達がお金が無いので物を買えなくなってしまったことです。そのため、企業は儲からず、社員を解雇するようになり悪循環が続くことになります。
③二つを同時に解決する
企業は十分すぎるほどの工場や労働者を持っているので、今より商品が売れて、たくさん商品を作るようになっても、新たに多くの人を雇うことはないと予想されています。
ベーシック・インカムを導入すれば、失業者に無理に勤めさせようとする必要は無くなります。本人がやりたいと思う人生を歩んでもらえばよいのです。また、低所得者の方達が物を買い始めるので、企業が儲かり始めます。経済が回り始めるのです。
④三つめも…
先ほど説明したしくみから、はずれてしまう人達のために、生活保護や年金制度などが作られました。しかし、第2章の③でみたように、どうしても制度から漏れる人がたくさん出てしまうことと、莫大な事務コストがかかってしまうことが大きな問題でした。この点も同時に解決できることになります。
200年前に、一人ひとりの幸せのために考え出されたベーシック・インカムが、今では、社会の大きな問題を一度に解決する切り札として期待されています。
第6章 最後に
最後に、私たちの心の奥深い部分についてお話ししたいと思います。第3章の①で見たように、私たちは、歴史上のある時期から、勤めに出て給料をもらわないと生きていけないようになりました。そのことが、私たちの「心」や「生き方」にどのような影響を与えているのでしょうか?当たり前過ぎて、普段、そのようなことは考えていないと思います。ベーシック・インカムに関する議論は、普段忘れている大事なことを思い起こさせてくれます。
①「恐れ」と「支配」は創造的な生き方を邪魔する?
著書『自由からの逃走』で有名な心理学者E.フロムは、「今の世の中のしくみは、飢えへの恐怖をあおって強制労働をさせるシステムである」と述べています。そして、こうした状態では、人間は仕事をさぼろうとしがちであると指摘しています。
しかし、ベーシック・インカムにより、仕事への強制や脅迫が無くなれば、「何もしないことを望むのは少数の病人だけになるだろう」と述べています。
19世紀ベルギーの著述家ジョゼフ・シャルリエは、「必要な所得が保証されている人々の方が、そうでない人々の労働よりも優れている」として事例を出して説明しています。また、ロバート・セオボルドが編集したベーシック・インカムに関する本の中では、「所得が保証されることで人々が創造的な活動に従事できる」という論文が発表されています。
米国の社会学者アルフィ・コーンは、「人は生まれつき豊かな好奇心を持ち、創意工夫して、より良いものを作ろうとする性質を持っている。」と述べています。しかし、「報酬を与えられた途端、その性質を失ってしまう」と指摘しています。なぜなら、報酬が、「自分のすることは自分で決めたいという私たちの基本的欲求」を制限するため、と説明しています。
さらに、「報酬を与えるということは、人をコントロール・支配すること」であると指摘しています。そして、「人は、報酬を決めるのが自分ではないので、誰かに依存しないと生きていけないと思うようになる。すると、精神的な健康を維持できなくなる。」と述べています。
私たちは「誰からか給料をもらわないと生きていけない。」と考え、一生、生きていきます。そのことが、私たちが思っている以上に、私たちの心に悪い影響を与え、私たちのエネルギーを奪っているのかもしれません。
②誰もが「自分の人生」を歩める
最も良い生き方とは、どのような生き方でしょうか?
それに関し、次のような考え方があります。「自分が心の底からやりたいと思うことをやる生き方が、最も良い生き方である。そのように生きれば、自分が授かった能力を最大限発揮することができる。そして、他人を幸せにし、自分の使命を果たすことができる。」
そして、次のように続きます。「今の世の中では、リスクが大きいと感じたり、わがままな人間だと思われたりするので、多くの人がこの生き方をあきらめている。しかし、そこで勇気を出して踏み出せば、必ず成功できるだろう。」
このような人生―いわば本当の意味での「自分の人生」を、すべての人が歩めるようになるのが、人類の究極の夢とも言えるでしょう。しかし、勇気のある一部の人に対してならともかく、今、全ての人に、この生き方を勧めるのは、やはりためらってしまうのではないでしょうか?
でも、ベーシック・インカムが導入されたら、どうでしょうか?その時こそ、私たちは、“誰もが「自分の人生」を歩める”という夢の扉を開くことができます。
≪裏表紙の文面≫
これは、あなたへの毎月10万円のギフトです。
この情報をみんなが知れば、それはかないます。
かなった時の毎日の暮らしを想像してみてください。
―どんな時も安心して、あなたらしい人生を大事に生きていく―
そして、この情報をあなたも大切な人にプレゼントしてください。
集まった人数は数名でしたが、非常に密度の濃い時間を過ごさせていただきました。
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誰もが「自分の人生」を歩めるーベーシック・インカムというしくみー
第1章 ベーシック・インカムって何?
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その歴史は古く、18世紀末に活躍した有名な社会思想家であるトーマス・ペインに始まったとされ、20世紀に入ると、具体的な提案を出す学者が現れ始め、80年代頃からヨーロッパを中心として、構想の実現をめざす国際的な組織の活動が始まりました。日本では、2000年代に入った頃から議論がさかんになり、注目が集まるようになっています。
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ベーシック・インカムが導入されれば、このような人たちが貧しさで苦しむことが無くなります。私たちが長い間抱えてきた「どんなに社会が豊かになっても、貧しさに苦しむ人がいる」という矛盾を無くすことができるのです。少し大げさに言えば、「人類の夢を一つ叶えた」と言えるのではないでしょうか?
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近年、日本では、多くの若者が将来に不安を持ち、結婚や子供を持つことをあきらめています。そのため、未婚率は急激に増加し、少子化が進んでいます。ベーシック・インカムが導入されれば、将来への不安は取り除かれ、安心して結婚し、子供を持つことができるようになります。これは、本人たちの幸せのために必要なことですが、それと同時に、少子化という日本社会最大の問題を解決することにもなります。
企業や職場はどうなるでしょうか?人々は、生活のために我慢して苦しい職場に勤め続けることはしなくなります。社員を過労死させたり、精神的苦痛を与えたりするような企業は生き残れないでしょう。逆に、給与は低くても、社員が生き生きと働けるような企業は発展するかもしれません。
失業を減らすために、仕事を分け合って働く「ワークシェアリング」という考え方があります。例えば、仕事が2人分しかなく、働く人が3人いる場合、3人で2人分の仕事を分け合うことで、失業者が1人出ることを防ぐというやり方です。合わせて、それぞれが、余った時間を家族と過ごすなどして有意義に使えるというものです。ヨーロッパなどで成功している国々があり、日本でも取り入れようとする動きがあります。しかし、仕事量が減れば、その分の給料も減ってしまいます。そのため、社会保障が手厚いヨーロッパでは良くても、事情が違う日本では、なかなか進みませんでした。ベーシック・インカムが導入されれば、このやり方が普及し、失業を減らすと同時に、ゆとりのある生活が送れるようになると思われます。
③今の制度より良くなるの?
今の制度である生活保護、基礎年金、失業保険などからの給付は、ベーシック・インカムに統合されていくことになります。これらの制度に関わる事務作業は膨大で、多額のコストがかかっていました。例えば、生活保護では、申請者が条件を備えているか調べるのに、大変な手間や時間をかけていました。年金制度では、保険料徴収のためにたくさんの人を雇い、給付額の計算も複雑で長い時間をかけていました。これらの制度が統合されることで、手続きが簡素化され、莫大な行政コストを削減することができます。また、削減された分を支給額に充当することで、その分、負担額が軽くなります。
生活保護を受けるには、手持ちの現金がほとんど無く、他の資産も全て失い、親類等からの援助も受けられないことが条件となっています。そのため、貧しくても申請をためらう人や申請しても認めてもらえない人が数多くいます。また、働いて収入が増えると、その分、給付額から引かれてしまうので、労働意欲が減退してしまうという問題もあります。さらに、不正に受給しようとする人が後を絶ちません。それを見破ろうとして、職員の時間や労力がさかれるという悪循環が続いています。
ベーシック・インカムに統合されることで、このような問題は、全て解決されます。
今の基礎年金制度では、何十年も加入して保険料を払っていないと年金をもらうことができません。定められた期間に満たない場合は、それまで払った保険料が無駄になってしまうのです。また、収入が低い時期は保険料を払わなくてもよいことになっていますが、その分、受け取る年金額が減ってしまいます。このようにして、無年金者・低年金者と呼ばれる人がたくさん出てしまいました。また、近年は、年金に加入しなかったり保険料を納めなかったりする人が全体の4割にもなってしまったので、将来、老後に年金を受け取れない人が大量に出てしまうことが心配されています。
ベーシック・インカムに統合されることで、このような問題は、全て解決されます。
④経済にどのような効果を与えるの?
ベーシック・インカムは、経済にどのような影響を与えるのでしょうか?プラスの効果になるのでしょうか?
そもそも「経済効果」とは、何でしょうか?それは経済を成長させることです。簡単に言えば、「お金を使う」ことです。「お金が回る」と言ってもいいでしょう。私たちは、お金を使う時に、お金と「物やサービス」を交換します。その時に「物やサービス」が生み出されたことになり、経済が成長したことになります。
それでは、逆に経済にマイナスになるのは、どういう行為でしょうか?それは「お金を貯める」ことです。「お金が回らない状態」と言ってもいいでしょう。でも、私たちは「貯蓄は美徳」と言われて育ったような気がします。間違いだったのでしょうか?
そこには、少し説明がいりますので、なぜ「お金を貯める」ことが、経済に悪いのかお話しします。
日本はここ20年ぐらいほとんど経済成長をしていません。これは他の国と比べても珍しく、「失われた20年」と言われることもあります。なぜ、そうなってしまったのでしょうか?それは、みんながお金を貯めこんで使わなくなってしまったからです。まず、私たち消費者が物やサービスを買わず、お金を貯めるようになってしまいました。そのお金をタンス預金として家に置いている人もいますが、これが一番悪いことです。お金が使われる可能性を完全に奪っているからです。
次に銀行に預けた場合はどうでしょうか?私たちが預けた預金は、企業に貸し出され、事業を広げることに使われると良いのですが、今は、借りる企業が無いため、何百兆円というお金が銀行に貯まっています。
企業はどうでしょうか?実は企業も何百兆円というお金を貯めこんでいます。それを使って事業を広げたり、商品をたくさん作ったりすればよいのですが、商品を多く作っても売れないので、ただ貯めこんでいるのです。将来の経営が心配なので、社員のお給料にして配ることもしません。
こうして、私たち消費者、銀行、企業がそれぞれ、お金を貯めこんで使わなくなったため、経済が成長しなくなったのです。では、ベーシック・インカムが導入されると、この状況はどのように変化するのでしょうか?
まず、日本のかなりの割合を占める低所得者の方に、お金が配られることに大きな意味があります。この方たちは、毎日の生活で精一杯ですから、受け取ったお金を貯めることはせず、ほとんど使う(消費する)ことが予想されます。これは莫大な経済効果となります。
次に言えることは、私たちの「心の持ち方」に与える影響です。日本人は他の国の人と比べて貯金を多く持っています。社会保障がしっかりしていないので、将来への不安が大きく、「何かあったとき」のために貯金をしていると言われています。しかし、その「何か」は起きないことも多いため、最後まで多額の貯金を持ったまま…というケースも多いと聞きます。
ベーシック・インカムが導入され、一生確実に収入が入るとわかれば、「将来起きるかもしれない何か」ではなく、「今の自分に必要なもの、価値あるもの」に、ためらわずにお金を使おうとするのではないでしょうか?もし、多くの人がそう考えるのであれば、これもまた、莫大な経済効果となります。
英国の有名な経済学者J.M.ケインズは、1930年代に、経済を成長させて失業を無くすために、「国が、大規模な工事などを実施し、大量のお金を使う」という方法を考え出しました。それを「土の中にお金を埋め、それを掘り出す作業をさせることで、経済効果が生まれ、失業者が減る」という言葉で説明しています。
今でも、それは行われていますが、残念ながら、ほとんど効果がありません。そもそも、穴を掘る作業は必要なく、最初から直接、お金を渡せばよいのです。
⑤その他の効果は?
今でも、日本の多くの会社経営者たちは、「社員や、その家族の生活を預かっている」という強い責任感を持っています。そのため、自分がうまく経営できなかったせいで社員が苦しんではいけない、というプレッシャーを感じて生きています。ベーシック・インカムが導入されれば、その精神的負担をだいぶ減らすことができます。
貧しさゆえの犯罪も少なくなることが見込まれます。特に、貧しい人たちの中には「刑務所に入れば、衣食住を心配しなくてよい」と考え、軽い犯罪をわざと繰り返す人たちがいます。少なくとも、このような人たちが犯す犯罪は無くなるでしょう。
第3章 疑問にはどう答えるの?
ベーシック・インカムの話を聞いた時、だれもが感じる疑問があります。その点について述べたいと思います。
①働かないのにお金をもらっていいの?
まず、一つ目は「働かないのにお金をもらってもいいの?」という疑問です。「働かざる者、食うべからず」という言葉もあります。それでは、そもそも「働く」とは、どういう意味なのでしょうか?
私たちが「働く」という言葉から連想するのは、どこかへ勤めに出て、お給料をもらってくるような場合です。でも、家事や育児も大変な重労働です。町内会の仕事やボランティア活動もそうです。これらは「働く」とは言わないのでしょうか?
もっと広い目で見てみましょう。人間の歴史は数千年続いていますが、多くの人が勤めに出て給料をもらうようになったのは、ヨーロッパでも200年ぐらい前から、日本では戦後ぐらいからです。世界全体では、まだそうなっていない国や地域があるほどです。家族のうち誰かが勤めに出て、貰った給料で家族全員が生活するというしくみは、人間の長い歴史の中では、つい最近始まった、一つのやり方に過ぎないと言えます。
昔の農村では、私たちは集落単位で生活し、農作業をしたり、山へ焚き木を取りに行ったり、道具を作ったり、家事や育児をしたり、みんなで必要な仕事を分担して、それぞれが働いていた(役割を担っていた)と言えます。老人や障害がある人でさえも、何らかの役割を担っていたと考えられます。その働き(役割)に対して食糧や生活に必要なものが与えられていたという考え方もできます。
今の社会のしくみでは、お金が無いと必要なものを得ることができません。昔は、集落の一員であれば、生活に必要なものを得ることができました。それを現在に置き換えてみれば、ベーシック・インカムになるという見方もできます。私たちは「給料をもらうような仕事だけが、収入に値する価値がある。」という狭い見方を捨てる必要があるのかもしれません。
もう少し違った角度からの見方もあります。先ほどの例で言えば、「土地や畑や山は、昔から受け継がれ、集落の仲間が共同で使ってきたもの。そこから生み出された食べ物や道具は、集落の一員であれば、誰もがもらえるはず。」という考え方です。
この考え方の現代版とも言えるのが、英国のベーシック・インカム論者で技術者でもあるC・H・ダグラスの次の言葉です。「現代の工場で高度な製品が作られるのは、労働者の力というよりは、高度な設備や製造方法による。これは、長い歴史の中で培われた知識や技術によって生み出されたものなので、人類共通の文化遺産である。すべての人が遺産の共同相続人なので、工場の経営者と労働者以外の人にも、そこから得られる分け前が与えられるべきである。」
②働かない人が増えてしまうのでは?
次に、「ベーシック・インカムが支給されると、人が働かなくなり、怠け者になってしまうのではないか?」という疑問について考えてみたいと思います。月に8~10万円程度が支給されて、働ける人が働かなくなるのか、という点について二つの観点から述べたいと思います。
一つ目は、必要性という観点からです。月に8~10万円程度では、ぎりぎりの生活しかできません。働かない分、時間がたっぷりあって遊ぼうと思っても、それに使うお金が無いという状態です。一般的に考えれば、仕事をして稼いで、もっと自分の欲しい物やサービスを買いたいと思う人が大多数ではないでしょうか?
二つ目は、私たち人間の本性とは何かという観点からです。最低限の生活が満たされたとき、私たちはどのような行動をとるのか、ということです。人により、いろいろな考え方があると思います。J.S.ミルは、ぎりぎりの生計を立てるための仕事よりも、生活の心配のない状態での仕事の方が、「強度に勝る」と述べて、ベーシック・インカムの導入を勧めています。人間の本性を否定的に捉える人もいますが、私たちはもっと私たち自身を信頼し、肯定的に捉えてもよいのではないでしょうか。この点に関しては、第6章で、もっと掘り下げてみたいと思います。
第4章 財源はどうするの?
ベーシック・インカムの話を聞いた時、もう一つだれもが感じる疑問は、財源をどうするのか、という点です。「実現できれば、いいこと尽くめかもしれないが、財源が大きすぎて無理ではないか?」という意見もあります。
財源に関していろいろな提案がなされているのでご紹介します。今ある税金や保険料を組み替えて財源とする案と、まったく新しい発想で財源をまかなう案に分けて述べたいと思います。
①税金等を組み替える
京都府立大学の小沢修司教授は、ベーシック・インカムに必要な費用をすべて所得税からとる案を示しています。すべての国民に月8万円が支給された場合、一律に所得税の税率を約50%にすれば、まかなえると試算をしています。「給料の半分もとられてしまっては大変」と思ってしまいますが、例えば、年収700万円の家庭で、両親と子供二人の場合、ベーシック・インカム導入後の方が収入が増える計算になります。もっと収入が多い家庭などは、逆になるケースも出てきます。
ドイツの大手企業経営者であるゲッツ・W・ヴェルナーは、所得税や法人税を廃止し、消費税に一本化して、そこからとることを提案しています。そのほうが経済活動をゆがめないと考えているようです。
環境を重視する考えを持つ人たちは、石油や石炭などの使用にかかる税金や土地の地代にかかる税金を充てるべきと主張しています。そのほか、相続税や贈与税など、さまざまな案が提案されています。
②公共通貨を発行する
C・H・ダグラスは、政府が発行する「公共通貨」(政府紙幣)で財源をまかなう案を唱えました。一般的には、通貨は、政府ではなく、中央銀行が発行します。日本では日本銀行(略称:日銀)が、それにあたります。中央銀行ではなく、政府が発行することで何が変わるのでしょうか?
政府はベーシック・インカムを支給しようと思っても、手持ちのお金が無い場合は、お金を借りて、将来、金利を付けて返さなければなりません。
でも、自分で通貨を発行してしまえば、金利は言うまでもなく、元本さえも誰にも返さなくてよいのです。そんなうまい話があるのでしょうか?
実は、昔は政府が通貨を発行していましたが、多くの国では、中央銀行を作って、そこに発行させるようになったのです。日本でも明治時代の初め頃は政府が発行していました。海外では、今でも、政府が発行している国があります。また、中央銀行が出来てからも政府が発行した例が、米国のリンカーン大統領やケネディ大統領の時代などにあります。日本でも、最近、発行に関する議論が起きており、選択肢の一つと考えられています。
世の中で生み出される物やサービスの量に対して、世の中に出回るお金(通貨)の量が増えると、物の値段が高くなります。なぜなら「一つの物」に見合う「お金の量」が増えるからです。急激に物の値段が高くならないように、世の中に出回るお金の量を調節することが中央銀行の重要な仕事の一つとなっています。
政府が通貨をたくさん発行すると、急激に物の値段が高くなってしまうのではないかと心配する声があります。でも、実際には、日本の企業は十分過ぎるほどの工場や労働者を持っており、今よりずっとたくさんの物をすぐにでも作り出す力があるので、問題は無いという見方もあります。
さらに思い切ったアイデアについてお伝えします。「公共通貨」を「自由貨幣」にするというアイデアです。
「自由貨幣」とは、なんでしょうか?それは、「時間とともに劣化する貨幣」です。ドイツの経済学者シルビオ・ゲゼルが、「貯めこまれて循環しない貨幣が貧困を作り出している」と考え、考案しました。この貨幣は、時間が経つと価値が無くなっていってしまうので早く使わないといけないのです。
自由貨幣は、20世紀前半、オーストリアの小さな町で実践され成功を収めました。通常のお金の14倍の速さで流通し、すばやく使われることで大きな経済効果を生み出したのです。その結果、この町は、オーストリア初の完全雇用を達成した町になりました。
第5章 導入しなきゃいけない理由があるの?
今の私たちは「資本主義」というしくみの中で暮らしています。そのしくみは「企業で働きたい人はみんな勤めることができ、給料をもらって欲しいものを買い、商品が売れることで企業が儲かり、人を雇うことができる」というものです。
しかし、最近は状況が変化し、このしくみがうまく回らなくなってしまいました。うまく回していくためには、ベーシック・インカムを導入するしか方法がないのではないか、という考え方があります。この点について触れておきたいと思います。
①失業は無くならない?
先ほど説明したしくみでは、「失業者は出ないか、出てもすぐ減る」と考えられていました。ところが、20世紀の後半頃から失業者が大量に出るようになり、いつまでも減らないようになってしまいました。理由は商品を作るときの技術が発達したせいでした。例えば、同じ商品を同じ量作るときに、ロボットなどを使うことで、以前より少ない労働者で済むようになったのです。
政府は、失業者を訓練して仕事に就かせようと努力していますが、就く仕事自体が減っているので、なかなか成果が上がりません。失業は収入が途絶えるだけでなく、意欲や自信を失わせ、精神的痛手を与えます。さらに、社会から孤立させ、家族の崩壊につながりやすいなど深刻な社会問題となっていきました。
②物が売れない?
企業が作る商品が売れなくなってきました。大きな理由の一つは、大量に増えた失業者や非正規雇用の方達がお金が無いので物を買えなくなってしまったことです。そのため、企業は儲からず、社員を解雇するようになり悪循環が続くことになります。
③二つを同時に解決する
企業は十分すぎるほどの工場や労働者を持っているので、今より商品が売れて、たくさん商品を作るようになっても、新たに多くの人を雇うことはないと予想されています。
ベーシック・インカムを導入すれば、失業者に無理に勤めさせようとする必要は無くなります。本人がやりたいと思う人生を歩んでもらえばよいのです。また、低所得者の方達が物を買い始めるので、企業が儲かり始めます。経済が回り始めるのです。
④三つめも…
先ほど説明したしくみから、はずれてしまう人達のために、生活保護や年金制度などが作られました。しかし、第2章の③でみたように、どうしても制度から漏れる人がたくさん出てしまうことと、莫大な事務コストがかかってしまうことが大きな問題でした。この点も同時に解決できることになります。
200年前に、一人ひとりの幸せのために考え出されたベーシック・インカムが、今では、社会の大きな問題を一度に解決する切り札として期待されています。
第6章 最後に
最後に、私たちの心の奥深い部分についてお話ししたいと思います。第3章の①で見たように、私たちは、歴史上のある時期から、勤めに出て給料をもらわないと生きていけないようになりました。そのことが、私たちの「心」や「生き方」にどのような影響を与えているのでしょうか?当たり前過ぎて、普段、そのようなことは考えていないと思います。ベーシック・インカムに関する議論は、普段忘れている大事なことを思い起こさせてくれます。
①「恐れ」と「支配」は創造的な生き方を邪魔する?
著書『自由からの逃走』で有名な心理学者E.フロムは、「今の世の中のしくみは、飢えへの恐怖をあおって強制労働をさせるシステムである」と述べています。そして、こうした状態では、人間は仕事をさぼろうとしがちであると指摘しています。
しかし、ベーシック・インカムにより、仕事への強制や脅迫が無くなれば、「何もしないことを望むのは少数の病人だけになるだろう」と述べています。
19世紀ベルギーの著述家ジョゼフ・シャルリエは、「必要な所得が保証されている人々の方が、そうでない人々の労働よりも優れている」として事例を出して説明しています。また、ロバート・セオボルドが編集したベーシック・インカムに関する本の中では、「所得が保証されることで人々が創造的な活動に従事できる」という論文が発表されています。
米国の社会学者アルフィ・コーンは、「人は生まれつき豊かな好奇心を持ち、創意工夫して、より良いものを作ろうとする性質を持っている。」と述べています。しかし、「報酬を与えられた途端、その性質を失ってしまう」と指摘しています。なぜなら、報酬が、「自分のすることは自分で決めたいという私たちの基本的欲求」を制限するため、と説明しています。
さらに、「報酬を与えるということは、人をコントロール・支配すること」であると指摘しています。そして、「人は、報酬を決めるのが自分ではないので、誰かに依存しないと生きていけないと思うようになる。すると、精神的な健康を維持できなくなる。」と述べています。
私たちは「誰からか給料をもらわないと生きていけない。」と考え、一生、生きていきます。そのことが、私たちが思っている以上に、私たちの心に悪い影響を与え、私たちのエネルギーを奪っているのかもしれません。
②誰もが「自分の人生」を歩める
最も良い生き方とは、どのような生き方でしょうか?
それに関し、次のような考え方があります。「自分が心の底からやりたいと思うことをやる生き方が、最も良い生き方である。そのように生きれば、自分が授かった能力を最大限発揮することができる。そして、他人を幸せにし、自分の使命を果たすことができる。」
そして、次のように続きます。「今の世の中では、リスクが大きいと感じたり、わがままな人間だと思われたりするので、多くの人がこの生き方をあきらめている。しかし、そこで勇気を出して踏み出せば、必ず成功できるだろう。」
このような人生―いわば本当の意味での「自分の人生」を、すべての人が歩めるようになるのが、人類の究極の夢とも言えるでしょう。しかし、勇気のある一部の人に対してならともかく、今、全ての人に、この生き方を勧めるのは、やはりためらってしまうのではないでしょうか?
でも、ベーシック・インカムが導入されたら、どうでしょうか?その時こそ、私たちは、“誰もが「自分の人生」を歩める”という夢の扉を開くことができます。
≪裏表紙の文面≫
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かなった時の毎日の暮らしを想像してみてください。
―どんな時も安心して、あなたらしい人生を大事に生きていく―
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