[補足] 上代特殊仮名遣の「黄泉」と「夜見」〜初夏出雲行(47) | 日々のさまよい

日々のさまよい

昔や今のさまよいなどなど。

 

出雲二千年の謎が秘められた荒神谷遺跡~初夏出雲行(46)←(承前)

 

 


「「黄泉」と「夜見」の関係が気になりますから、今後もう少し調べてみようと思っています」と中海を渡り夜見の弓ヶ浜半島から美保関へ~初夏出雲行(37)で申し上げていた件なのですが、チョット恥ずかしながら、自分で一から調べるには手強すぎる課題とも思われ、どうしたものか思案していました。

 

『出雲国風土記』荻原千鶴(講談社/1999年)「出雲国風土記地図」アップ

 

 

そこでともあれ、図書館に丸1日こもって調べてみようかと考え、まず大阪府立図書館ホームページで語源、地名、歴史などの辞典類と上代特殊仮名遣い関連の書籍を検索し、およそ80冊近くのリストまでは作りました。

 

けれど、到底1日くらいでは調べ尽くせそうにありませんし、その1日でさえ中々都合が付けられない貧乏暇なしの日常です。
その上、府立図書館は我が家から遠いためそう簡単に通えず、かといって比較的近い市立図書館では蔵書の絶対数が違うためモノ足りません。

 

 

どうしたものか、PCモニターの前でボンヤリ考えていると、ずっと見ていた府立図書館ホームページのトップメニューにあった[調査相談]という文字が目に入りました。


何年にもわたり利用しているページですから、おそらくそのメニュー名はもちろん見たことがある筈ですけれど、特に興味を持ったことがありません。

 

けれど今回、あらためて、ん? と思いクリックし見てみましたら、

 

 

大阪府立図書館/調査相談(レファレンス)サービス

調査相談(レファレンス)とは

図書館では、所蔵資料を使って利用者の皆さんが必要とされる知識や情報を得ていただくためのおてつだいをしています。

 

どうぞお気軽にご相談ください。

 

「図書館の力!! あなたの「しらべる」応援します」

 レファレンスサービスをご紹介したパンフレットです。

 

 

 

とのことで、ジャンルにこだわらず何でも知りたいことや関連する資料を司書の方に調べて頂ける、というサービスでした。


「どうぞお気軽に」という言葉にもグッと来ましたし、もちろん、完全に無料です!(笑)

※ただし、近畿圏(大阪府、京都府、兵庫県、奈良県、和歌山県、滋賀県、三重県)以外にお住まいの方は、次のご質問に限ってお申し込みいただけます。
大阪に関するご質問
大阪府立図書館で所蔵する古典籍、国際児童文学館の資料など、他館で所蔵していないような資料に関するご質問

 

 

当然ながら大阪府に限らず、どうやら公共の図書館なら大体どこでも受付しているサービスのようですが、詳しくは何も知りませんでした~。orz

 

今までもアレコレと検索で調べ物をした際、↓こちらの個別項目を何度か見たことはありましたけれど、あまり自分と関係するシステムだとは思えませんでしたし。
レファレンス協同データベース

 

しかしながら、もちろんご存知な方は多いと思いますし、利用された方も少なからずおられると思いますから、今さらなんですけれど(苦笑)

 


ということで、今回はこの調査相談へ頼ってみようと思い、懸念の「黄泉」と「夜見」について質問してみましたので、そこで頂いたご回答の内容をご紹介したいと思います。

 

図書館からの回答メールをほぼそのまま、不要な部分を少し削除し、改行や引用・リンク表記・文字の大小など分かりやすいよう調整した状態で、下に引用いたします。

 

なお、当ブログでこれを掲載することは、あらかじめ大阪府立図書館からご了承を頂いておりますので、その点どうぞご安心くださいませ(笑)

 

 

大阪府立図書館です。
ご質問されたレファレンスについて回答いたします。

 

 

 

【表題】

 

黄泉のヨミという読み方を示す万葉仮名は、何処に記され漢字は何ですか?

 

 


【質問・相談などの内容】

 

黄泉は一般にヨミと読みます。
そして、“日本でヨミを「黄泉」と書くのは、中国の「黄泉(こうせん)」に日本語のヨミを結びつけたものである”『暮らしのことば 語源辞典』とのことですから、そうならば、この「黄泉」をヨミと読むように万葉仮名で指示した注記なり訓釈が、古事記か、あるいは他の典籍である筈なのですが、それは何処に、どのような漢字で表音されたのか、知りたいと思っています。


と申しますのも、Wikipedia/黄泉ではこのようにあり、

語源
黄泉とは、大和言葉の「ヨミ」に、漢語の「黄泉」の字を充てたものである。漢語で「黄泉」は「地下の泉」を意味し、それが転じて地下の死者の世界の意味となった。 語源には以下のような諸説がある。
1.「夜」説。夜方(よも)、夜見(よみ)の意味、あるいは「夜迷い」の訛りともいう[1]。

 

出典・脚注
[1] 出雲地方に「夜見」とつく地名があるのでこれにこじつける説もあるが、黄泉のヨは上代特殊仮名遣いでは乙類なので「夜」(甲類のヨ)ではありえず、現在では完全に否定されている。


ここで、黄泉のヨは上代特殊仮名遣いでは乙類、とありますけれど、その表音を示す万葉仮名が何か分からないため、本当に夜見≠黄泉なのか腑に落ちないからです。

 

一方で、『出雲と大和のあけぼの』と『列島縦断 地名逍遥』では同様に、夜見=黄泉、という見解になっていますので。


なお、ブログでこの疑問を掲載しておりますので、質問の出典に上げておきます。
よろしくお願い申し上げます。

 

 

 

【回答】

 

「黄泉」に関して、次の資料を調べました。

 

※資料内容の表記に関しまして、旧字体を新字体で記載している部分があります。[ ]内はルビを記載しています。ルビの位置に書かれていてもルビではないと思われるものは、[ ]に入れずにカタカナ表記にしています。

 

 

●『日本古典文学大系 1 古事記』(岩波書店 1958.6)


すでにご確認いただいている資料ではありますが、p.63「黄泉[よみ]ノ国」の頭注に「ヨモツクニ、ヨミツクニと訓んでもよい。死者の住む国で、地下にある穢れた所と信じられていた。黄泉の二字は漢語の借用で「地中之泉」の意。」とあります。

 

 

●『日本古典文学大系 67 日本書紀 上』(岩波書店 1967.3)


p.94「泉門」を「よみど」と読んでいます。「泉門」は頭注によればp.95「冥界の入口にあって、邪霊の侵入を防ぐ神。部落の入口に陽物の像などを立てて、その勢能によって、部落の安全を保った。それと同じく冥界の死神を防ぐ意。」とあります。

 

 

本居宣長は『古事記伝』において「黄泉国」について次のように書いています。

 

●『本居宣長全集 第9卷』(本居宣長/[著] 筑摩書房 1968.7)※中之島図書館所蔵資料


※【 】内は、この資料の底本の二行割注です。

p.237-239 「古事記伝六之巻」に「黄泉国」についての記載があります。


p.237「黄泉国は、【豫美能久爾[ヨミノクニ]とも、豫美都久爾[ヨミツクニ]とも訓べし、與美津[ヨミツ]と云ことは、祝詞式に見ゆ、されどなほ】豫母都志許賣[ヨモツシコメ]、又書紀に余母都比羅佐可[ヨモツヒラサカ]など、例多きに依て、豫母都久爾[ヨモツクニ]と訓つ、たゞ黄泉とのみあるは、豫美[ヨミ]と読べし、さて豫美[ヨミ]は、死[シニ]し人の往[ユキ]て居[ヲル]国なり」とあります。


また、p.238「名ノ義は、口決に夜見土[ヨミド]とある、土ノ字は非[ヒガコト]なれど、*夜見[ヨミ]はさも有リぬべし、下文[シモノコトバ]に燭一火[ヒトツビトモシテ]とあれば、暗處[クラキトコロ]と見え、又夜之食国[ヨルノヲスクニ]を知看[シロシメス]月読ノ命の、読[ヨミ]てふ御名も通ひて聞ゆればなり」ともあります。


また、別の記述の二行割注の中の記載ですが、「出雲ノ国ノ風土記に、伯耆ノ国ノ郡ノ内ノ夜見[ヨミ]嶋と云ことあるは、黄泉[ヨミ]に由あることありての名なるべし」とあります。

 

この資料には、「注釈が今日の語学研究から見て誤りと思われる場合など」に*をつけ、補注を加えたと凡例にあります。

上記、「夜見[ヨミ]はさも有リぬべし」の補注は次のとおりです。

 

p.545-546「上代特殊仮名遣によれば夜[ヨ]はヨ甲類 yo、見[ミ]はミ甲類 mi である。しかし、黄泉はヨモツシコメ、ヨモツヒラサカ、ヨモツヘグヒなどに、豫母都志許賣、余母都比羅佐可、譽母都俳遇比とあり、豫・余・譽は、いずれもヨ乙類 yö の音である。従って、夜見国の yo とヨモの yö とを関係づけるのは不適切である。ヨミノ国の古形は、ヨモツクニであるから、ヨミのミはミ乙類 mï である方が蓋然性がある。ただし、祝詞式の、鎮火祭に、「與美津枚坂」とあるが、これは平安時代の転写を経ているので、そのまま信じがたい。」

 

また、こちらも別の記述の二行割注の中の記載になりますが、

 

p.239「又世に十王経と云ものに、閻魔王国、自人間地去五百臾善那、名無佛世界、亦名預彌[ヨミ]国云々と云る、此経はもとより偽経と云中にも、此邦にて作れるものなり、預彌[ヨミ]国と云も、神典に依て作れる名なり、然るをかへりて、神典に豫美[ヨミ]と云る名は、此経より出たることかと、疑ふ人も有リなむかと思ヒて、今弁へおくなり」とあります。
※漢文の返り点などは記載していません。

 

国立国会図書館デジタルコレクションで『佛説地藏菩薩發心因縁十王經 1卷』((唐) 釋藏川 撰[他])がインターネット公開されています。

14コマ目に、上記の記載を見ることができます。
国立国会図書館デジタルコレクション『佛説地藏菩薩發心因縁十王經 1卷』(2016/3/1現在)

 

 

甲類・乙類の漢字については、次の資料に一覧を見ることができます。

 


●『万葉事始』(坂本信幸/編 和泉書院 1995.3)※中之島図書館所蔵資料


p.44に「特殊仮名遣表」があり、甲類、乙類の別に漢字がまとめられています。
「夜」が甲類、「豫・余・譽・與・預」が乙類となっています。
「美」「見」は甲類となっています。

 

 

●『小田切秀雄全集 1 戦時下の仕事』(小田切秀雄/著 勉誠出版 2000.11)


p.242-243に『古事記伝』の黄泉国の説明をまとめた記述を見ることができますので、一部記載します。


「黄泉国は「よみのくに」とも「よもつくに」とも読むが、『祝詞式』などという本を見ると「よみつ」という言い方もある。しかし『古事記』での他の部分などに「よもつしこめ」などといわれていたり『日本書紀』という本でも「よもつひらさか」などと言われているので「よもつくに」と読むことにしよう。ただ「黄泉」とだけ書かれていたら「よみ」と読む。以上は「黄泉国」の読み方について考えて見たのだが、こんどはその意味を考えるとそれは死んだ人の行っている国という意味である。」

 

 

●『本居宣長『古事記伝』を読む 1 講談社選書メチエ 461』(神野志隆光/著 講談社 2010.3)


p.94-97に黄泉国についての記載があり、「『古事記伝』には、黄泉=ヨミは「夜見」の意で、一つ火をともすとあるから「暗き処と見え」、「下方に在る国」(地下にある国)であって「死人の往て住国と意得[ココロウ]べし」というだけです」とあります。

 

 

●『新・古事記伝 1 神代の巻』(中山千夏/現代語訳・解説 築地書館 1990.2)


p.85-87に「黄泉国[よもくに]」の現代語訳があり、黄泉国の注釈にp.85「「黄泉」は漢語で「黄」が土の色を表し、総じて地下の泉の意味で死者の国を表す。読みのヨモは和語。ヤミ(闇)と同源の言葉かという。」とあります。

 

 

●『万葉ことば事典』(青木生子/監修 大和書房 2001.10)


p.415-416「よみ(黄泉)」の項目に、p.415「記には死んだイザナミの霊魂と肉体がともに住まう暗黒の汚れた世界として描写されるが、そこに描かれた「黄泉国」が古代人の普遍的な他界観であったかどうかは不明。紀本書にはみえない。出雲風には「黄泉坂」「黄泉穴」の地名があり、これは海辺の洞窟をさす。漢語「黄泉」は「地下の泉」を原義とするが、日本古代のヨミは必ずしも地下に限定されず、(略)水平的に遠距離の世界をいう場合もある。」とあります。
※記:古事記 紀:日本書記 出雲風:出雲国風土記

 

 

●『時代別国語大辞典 上代編』(上代語辞典編集委員会/編 三省堂 1990.1)


p.802「よみ[黄泉・泉]」(この[ ]は原文のものです)の項目に、「よみ」が出てくる資料として次の説明があります。
※漢文の返り点は記載しておりません。

 

「「与美津枚坂[よみツヒラサカ]に至り坐して思ほし食さく」(祝詞鎮火祭)「遠つ国黄泉[よみ]の界[サカヒ]に」(万一八〇四)「生けりとも逢ふべくあれやししくしろ黄泉[よみ]に待たむと」(万一八〇九)「夢至此礒窟之辺者、必死、故俗人自古至今、号黄泉[よみ]之坂、黄泉[よみ]之穴也」(出雲風土記出雲郡)」「所塞磐石是謂泉門[よみド]塞之大神也」<泉門与美奈止尓[よみナトニ]>(神代紀上・私記乙本)」(最後の、「与美奈止尓」は小さく書かれています。)

 

参考とすべき事柄や補足的な解説などとして、

 

「交替形としてヨモがある。上代の葬地は山坂・山上など山野に設けられることが多かった。後世も葬地・他界の意でヤマという語が多く用いられているが、ヨミはあるいは山[ヤマ]という語と関係があり、ア列音とオ列乙類音が交替して類義語を構成する一つの例ではないかと考える説もある。」と書かれています。

 

また、「一方、死後の世界はネノクニ・シタツクニともいい、地下の国とも考えられていた。交替形にヨモがあり、木[キ]―木[コ]の交替の例から考えて、ミの仮名は乙類と考えられる。第四例の、ヨミノ坂は山のヨミの、ヨミノ穴は地下のヨミの入り口として考えられそうである。」とあります。

 

 

『時代別国語大辞典 上代編』の説明より、「黄泉」以外の表記となっている次の資料を確認しました。

 


●『延喜式 上 訳注日本史料』(虎尾俊哉/編 集英社 2000.5)


「延喜式巻第八 神祇八 祝詞」のp.480-485「鎮火祭」を見ますと、その中に「與美津枚坂尓至坐弖所思食久」と書かれています。(尓、弖、久は小さく書かれています。)

 

 

●神代紀の分については、
・『日本古典文学大系 67 日本書紀 上』(岩波書店 1967.3)
・『国史大系 [1] 日本書紀 前篇 新訂増補 普及版』(黒板勝美/編 吉川弘文館 1977.6)
・『国史大系 第1巻 日本書紀』(経済雑誌社 1897)
を確認してみましたが、「与美奈止尓」については記載が見当たりませんでした。

 

 

「與」の甲類・乙類の別については、先に挙げました『万葉事始』で記載したとおりです。

 

なお、母音交替に関して調べるには、

 


●『古代日本語母音論:上代特殊仮名遣の再解釈 ひつじ研究叢書 言語編第4巻』(松本克己/著 ひつじ書房 1995.1)


といった資料があります。
記述としては少ないのですが、p.23に「黄泉」が載っています。

 


参考までに、次の資料の記載を紹介します。

 


●『日本古代地名事典』(吉田茂樹/著 新人物往来社 2001.12)


p.236「よみのしま[夜見嶋] 『出雲風土記』意宇郡に「夜見の嶋」で初見し、鳥取県米子市から境港市へ伸びる弓ヶ浜(夜見ヶ浜)をいう。「ゆみのしま(弓の島)」の意で、古代では弓状の細長い洲島であったが、現在では砂地の半島になっている。」
※この[ ]は原文のものです。

 

 

 

担当:大阪府立中央図書館人文系資料室

 

 

【参考資料】日本古典文学大系 1 岩波書店 1958.6
【掲載箇所】63

 

【参考資料】日本古典文学大系 67 岩波書店 1967.3
【掲載箇所】94-95

 

【参考資料】本居宣長全集 第9卷 本居/宣長∥[著] 筑摩書房 1968.7
【掲載箇所】237-239,545-546

 

 

【参考資料】万葉事始 坂本/信幸∥編 和泉書院 1995.3
【掲載箇所】44

 

【参考資料】小田切秀雄全集 1 小田切/秀雄∥著 勉誠出版 2000.1
【掲載箇所】242-243

 

【参考資料】本居宣長『古事記伝』を読む 1 神野志/隆光∥著 講談社 2010.3
【掲載箇所】94-97

 

【参考資料】新・古事記伝 1 中山/千夏∥現代語訳・解説 築地書館 1990.2
【掲載箇所】85-87

 

【参考資料】万葉ことば事典 青木/生子∥監修 大和書房 2001.10
【掲載箇所】415-416

 

【参考資料】時代別国語大辞典 上代編 上代語辞典編集委員会∥編 三省堂 1983
【掲載箇所】802

 

【参考資料】延喜式 上 虎尾/俊哉∥編 集英社 2000.5
【掲載箇所】480-485

 

【参考資料】国史大系 [1] 新訂増補 普及版 黒板/勝美∥編 吉川弘文館 1974

 

【参考資料】国史大系 第1巻 経済雑誌社 1897

 

【参考資料】古代日本語母音論 松本/克己∥著 ひつじ書房 1995.1
【掲載箇所】23

 

【参考資料】日本古代地名事典 吉田/茂樹∥著 新人物往来社 2001.12
【掲載箇所】236


【サイト名】国立国会図書館デジタルコレクション『佛説地藏菩薩發心因縁十王經 1卷』(2016/3/1現在)
【URL】http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2542700

 

 


ご利用ありがとうございました。

 

大阪府立中央図書館 〒577-0011 東大阪市荒本北1-2-1
TEL 06-6745-0170(代表)
 
大阪府立中之島図書館 〒530-0005 大阪市北区中之島1-2-10
TEL 06-6203-0474(代表)

 


以上、これでもか、というほどの緻密かつ広範なご回答を頂戴いたしました。
たった2週間なのに、ここまで親身な調査を頂けるとは、本当に有り難いことだと感嘆いたします。

 

ただ、当然のことですが、これはあくまでも図書館の調査相談ですから、質問に対しズバリこれだ!という簡潔な解答を司書の方の判断によって提供してくれる、というわけではありません。
ひたすら質問者の参考になるよう、問題解決のヒントとなる資料とその箇所をご呈示頂けるというサービスです。

 

本当に素晴らしいことだと感動すら覚えてしまいます。

ありがとうございました。

 


さて、そのようなことですが、私の「黄泉のヨミという読み方を示す万葉仮名は、何処に記され漢字は何ですか?」という質問へのご回答で核心部分となるのは、本居宣長『古事記伝』のご紹介でした。

 

Wikipedia/本居宣長

 

それも、「書紀に余母都比羅佐可[ヨモツヒラサカ]」と「豫母都志許賣[ヨモツシコメ]」が、まさに解答となります。

 

 

一応、日本書紀および続日本紀、日本後紀、続日本後記、日本文徳天皇実録、日本三代実録という「六国史」全ての本文テキストが一括して掲載されている↓のページで、「余母」という漢字だけで検索してみたら1つだけヒットし、日本書紀巻第一神代上第五段一書第七に余母都比羅佐可がありました。
J-TEXTS/「六国史」入力:荒山慶一 

 

あと豫母都志許賣も、↓のページで「豫母」を検索すると、古事記上-2神代記にありました。
古事記(原文)の全文検索

 

ということで、黄泉のヨミという読み方を示す万葉仮名は、少なくとも日本書紀では「余母」、古事記では「豫母」と分かりました。

 


まぁこれは、もともと私が日本書紀と古事記をちゃんと読み込んでいれば最初から疑問に思うこともなかったようなことですけれど、その反省はともあれ、そのような漢字表記の一つ一つを覚えているわけもありませんし、本文検索しようにも新旧字体や使っている漢字そのものの違いがありますから、素人にとって調べることはそう簡単にいきません。

 

ともあれ、他の豫美能久爾や豫美都久爾などは出典が分からないままですが、日本書紀と古事記での2点が明確になれば、それでもう十分です。

 

 

そして、『本居宣長全集 第9卷』の補注で、

上代特殊仮名遣によれば夜[ヨ]はヨ甲類 yo、見[ミ]はミ甲類 mi である。しかし、黄泉はヨモツシコメ、ヨモツヒラサカ、ヨモツヘグヒなどに、豫母都志許賣、余母都比羅佐可、譽母都俳遇比とあり、豫・余・譽は、いずれもヨ乙類 yö の音である。従って、夜見国の yo とヨモの yö とを関係づけるのは不適切である。

とのことですから、夜見=黄泉は、もう完全にあり得ないことが分かりました。

 

Wikipedia/上代特殊仮名遣

 

 

ただそうなると、黄泉がえりの聖地に神留る揖夜神社~初夏出雲行(35)で考えていた妄想ですが、出雲で「往古には東方が「あの世」と意識されていたかも知れません」という可能性も、もはや風前の灯火になってしまいました(泣)

 


何より、その著書で夜見=黄泉としていた谷川健一と斎木雲州の両先生ですけれど、そのお立場はどうなるんでしょう?

 

両先生ともに大学教授の経歴がおありですし、特に谷川先生は私にとって『日本の神々』『白鳥伝説』『四天王寺の鷹』『神に追われて』『出雲の神々』など拝読し、大きな感銘を頂きましたので、とても残念で微妙です(号泣)

 

もしかしたら、上代特殊仮名遣いについては何か独自の見解をお持ちだったかも知れませんから、それもいずれ調べてみることにします…

 


ともあれ今回は、図書館の調査相談(レファレンス)サービスって素晴らしい!ということをお伝えしたいと思いましたので、ご参照くださいませ。


そこでご教示を頂いた様々な参考資料も、これからボチボチ紐解いてみたいと思っています。

 

 


(つづく)→ [補足] 全ルート地図と行程スケジュール~初夏出雲行(48)

 

 

 

 

 

~いつも応援ありがとうございます~