突然変異種の大量発生は魔王種と亜魔王種を生み出した

 

魔物たちは魔王種を選択して、魔王の誕生を希(こいねが)っている

 

一方魔物から選ばれなかった亜魔王種は生き残るために身を潜めることにした

 

魔王種たちは幼少時代魔物たちが世話をすることになるが

 

魔王種の寿命からすれば魔物たちの寿命はあまりにも短い

 

そのため魔王種の幼少時代は魔物たちが何世代にも渡り世話をすることになる

 

魔王種たちは自分たちに世話をしてくれた魔物のことをいちいち覚えてはいないのが殆どだ

 

特に物心つくまでの記憶は殆どない

 

魔王種の幼少時代はとてつもなく長く数十万年を経て子供から思春期くらいになる

 

更に数百万年をかけて青年になって行く

 

年を経れば経る程成長速度が緩やかになるようだ

 

世話係の魔物たちはその間何百体と世代交代をしているのだから

 

魔王種たちが記憶に残る魔物がいないことは仕方がないことだろう

 

頭脳が異常発達した魔王テチカは世話をしてくれた魔物たちの殆どを記憶しているらしい

 

けれど、彼女の性質からそれほど重要視していないため

 

重要でない記憶として処理している

 

後は無意識の領域で魔王種の心に刻まれている可能性はある

 

これはその魔王種が魔王として魔物を愛する情の深さに関係してくるようだ

 

恐らく魔王テトは情に厚い魔物たちに育てられたに違いない

 

一方魔王テチカは逆に理知的な魔物に育てられたのだろうか

 

育てられた親に影響される濃度は個性によって違ってくるようだ

 

育ててくれた魔物から多大な影響を与えられる魔王種の方が圧倒的に多いのだが

 

そんな魔物の影響をほとんど受けない魔王種も少数ながら存在する

 

魔王テチカもその一体かもしれない

 

そして魔王サーマイオスもその一体である

 

彼は今でこそ寛容で紳士な魔王だが、昔からそうだったわけではない

 

また持って生まれた性質によるものでもないようだ

 

そこで魔王サーマイオスの過去に少し触れてみよう

 

彼は幼少の頃より上品な品格が備わっていた

 

さわやかなほどにまっすぐで紳士的な風格が子供らしさを打ち消していて

 

落ち着いた子供という印象を与える

 

自制心が強く、常に自分を律して正しい判断に執着する傾向が強い

 

どんな魔物に育てられようと、彼は自分なりのルールを曲げなかった

 

彼流の魔王としての理想の姿がはっきりとしたビジョンとして見えているようだ

 

そのため幼少の頃より「魔王たるものこうあるべきだ」と自らの行動を律することが多かった

 

自ら反省して自力で成長して行く者の典型的なタイプだ

 

こんな生き方はたとえ子供でもストレスが溜まる

 

サーマイオスはストレスと共に生きていた

 

自分を律すれば律するほど強くリバウンドのように破壊的衝動に悩まされ

 

苦悩する子供と世話係の魔物たちは歴代嘆くことになる

 

実は自制心が強い者ほど攻撃性を内側で育て易い

 

自制心の呪いから生まれた攻撃性は時として自分も他人も傷つけてしまう

 

この傾向は正義の名のもとに大義名分が後ろ盾になった時、顕著に現れる

 

悪を断つ、正義の執行をする立場に立てば、悪と見なした相手は残酷なほど冷淡に攻撃する

 

この性質は人間も同様である

 

これを表面的にみれば正義感が強く

 

また悪に公然と立ち向かう姿勢として格好良く映るものだ

 

彼は悪だと判断した場合、たとえその相手が何者であろうとも立ち向かい戦う

 

表面的にみればパルフェがドットに立ち向かうのと同じに見える

 

ところが彼の場合、押さえつけられた攻撃性を正義の名の下で暴走している可能性が高い

 

自分より遥かに強い魔王種が不正を働いているところに遭遇した場合

 

その場で抗議する

 

必然的に袋叩きに遭い、場合によっては深手を負うこともあるが

 

異常発達した再生能力が彼を死の淵から蘇らせた

 

何度命を落としかけても彼は立ち向かい遂にその相手を倒してしまうのだ

 

どちらかと言うとミューヤが自分を淘汰しようとする準魔王に対する攻撃性に近い

 

不正を働いた魔王種を決して許さないのだ

 

彼の再生能力は恐らく魔王たちの中で一番強力かも知れない

 

だから何度斬り伏せられても蘇り

 

何度でも戦いを挑むものだから必然的に戦闘力が跳ね上がる

 

サーマイオスは

 

過ちを犯した相手がどんなに悔いて反省し改めようとしても決して許さない

 

必ず斬り殺してしまう

 

正義に悪が生えると手が付けられない

 

火の付け所がない程正しい行為ではあるが寛容性の欠片もなかった

 

この頃のサーマイオスは日頃紳士的に振舞っているから一見寛容に見えるが

 

相手が悪と見なせば容赦がない

 

「奴は罪を犯した今更改心して生き方を改めようと、その罪が消えるわけではない、罪を犯した時点でこいつは悪だ、悪はどんなに善行を積もうと善になることはない」

 

悪即斬は日頃の柔和とも思える彼とはまるで違う生き方だが

 

悪は決して許さないという彼の生き方は揺ぎ無いようだ

 

一度でも罪を犯した者を決して許さない性質は常にそのまま自分自身にも向けられている

 

彼の自制心は常に彼を支配していた

 

「もし私が過ちを犯した場合、遠慮はいらない斬り殺せ」

 

と自分の魔物たちに常に言い聞かせている

 

もちろん魔物に魔王を斬り殺すことはできない

 

ただ彼が本気なのは

 

ある時罪を犯した魔物の首を刎ねた後になって


それが冤罪だと判明したことがある

 

事実を知った瞬間彼はその魔物の首を刎ねた利き腕を剣で斬り落とした

 

何の躊躇もなくあっという間のことだった

 

しかし彼の異常発達した再生能力は切り落とした利き腕を再生してしまった

 

彼は何度も何度も切り落とし続ける

 

耐え切れなくなった魔物たちが魔王サーマイオスを命懸けで止めた

 

再生能力が凄まじいからと言って、腕を切り落とした痛みがないわけではない

 

「これ以上腕を落とすというなら、我ら全員の首を刎ねてからにしてください」

 

魔物たちの必死の言葉に、過ちを犯した自分の腕を切り落とすことを断念した

 

その代わりその日から食を絶った

 

瘦せ細り魔王と言えど餓死寸前までになったので

 

用意した食事を食べない魔王サーマイオスの目の前で

 

食事を用意した魔物たちが自決した

 

「これから食事を用意して食べていただけない場合用意した魔物たちは自決します」

 

魔王サーマイオスは魔物たちの気持ちに心打たれ

 

「すまなかった」と目の前で食事を一口食べた

 

彼の異常なまでの正義感は、抑えつけられた攻撃性と癒着しているようだ

 

それが相手だけでなく、自分にも向けられてしまう

 

魔王テチカも罪を犯した魔物を決して許さないが

 

彼女の場合贖罪を果たしたとして首を刎ねた魔物たちに正当な葬儀をしている

 

決して犯罪者として扱ってはいない

 

ところが、魔王サーマイオスは違う

 

過ちを犯した魔物は森の奥で穴を掘り放り投げて捨てる

 

冷淡なまでに徹底的に許さない姿勢を崩さない

 

必然的に魔王サーマイオスの魔物たちも自制心が強くなって行く

 

過度の自制心は、心の中で攻撃性を育ててしまうことが多い

 

「魔王たるもの清廉潔白であるべし」

 

自他ともに異常なまでに厳しい側面を持っていたが

 

流石に食事を用意した魔物が、食べなかったというだけで自決した姿を見て反省したようだ

 

その時幼少の頃の記憶がよみがえった

 

自分の世話係をしていた魔物が脳裏に浮かんではなれないのだ

 

彼女は直向きに、時に頑なに

 

自分の生き方を貫こうとするサーマイオスの生き方を馬鹿にした

 

「そんな型に嵌ったせせこましい生き方をして面白いのかねぇ」

 

彼女は魔物の中で自由奔放に生きている方だ

 

「私は魔王に成る、ただの魔王ではないぞ偉大な魔王になるのだ」

 

子供だったサーマイオスはまだ魔王種であり魔物の世話がなければ生きるのもままならない

 

「そんな御託(ごたく)は魔王に成ってから言いなっ」

 

相手が魔王種だろうとお構い無しにはっきりとした物言いをする

 

彼女の歯に衣着せぬ物言いに魔物たちからの反発も多かったが

 

彼女は動じない

 

「私は今のところ魔物だが、魔物ではない生き方がしたいのさ」

 

自由に生きたい彼女が何故魔王種の世話係に任命されたのか

 

実は気難しいと魔物たちから思われているサーマイオスは

 

自分にも他の者にも完璧であることを求めるため

 

大体の魔物は根を上げてしまう

 

またサーマイオスが不正だと感じる行為をした場合

 

世話係でも容赦がない

 

彼に首を刎ねられた世話係の魔物は少なくないのだ

 

つまり、魔物たちは彼女の様な奔放に生きている魔物は間違いなく殺されると踏んだ

 

サーマイオスにぶつけることで首を刎ねて貰い始末するつもりなのだ

 

ところが、サーマイオスは何故か彼女の物言いが心地よく感じられた

 

「そんな杓子定規では物事の半分もみえやしないよ」

 

「基準は基本だ、基本こそ全て、武術もまた型こそ全てだ」

 

「あんたは偉大な魔王になるのだろ、基本や型は確かに大切だろうけれどそれだけじゃぁダメだね、次のステップがあるのさ」

 

「基本や型より深い奥義があるというのか」

 

「そうではない、次のステップさ、つまり型破りだ」

 

その時のサーマイオスはそれが理解できなかった

 

「いつかその厳しさにあんた自身が苦しめられることになるよ」

 

その言葉の意味も解らない

 

「清廉潔白に生きること、悪を許さないことが基本で型だとすれば、寛容とは型破りとなるねぇ、その型破りが出来ない者には偉大な魔王になんて成れやしないさ」

 

賢明に生きている魔物を自決に追い込んでしまったことを自覚した時

 

彼女の言葉が蘇って自分を責めた

 

その時彼女の最期の言葉を思い出す

 

「もう自分を許してやりな」

 

彼女は奇天烈なことを時々しでかす

 

魔王種の中にも時折残忍な者が発生するようで

 

そんな魔王種たちは魔物をいたぶるように殺して楽しんでいる

 

彼女は頭にきてその魔王種にキツイ物言いをした

 

すると激怒したその魔王種は彼女を斬り殺そうとしたが返り討ちにあった

 

たとえ幼少の魔王種でも魔物より遥かに戦闘力が高い

 

そのはずなのだが、彼女はその魔王種より遥かに強かった

 

魔物たちからその知らせを聞いたサーマイオスは慌てて彼女の元へ走った

 

魔王種殺しは魔物にとっては大罪なのだ

 

あり得ない想定ではあるが、万が一魔物が魔王種を殺した場合

 

数千体の魔物に袋叩きにあい撲殺される

 

一対一を誇りとする魔物でも、相手が犯罪者なら話は違う

 

サーマイオスは彼女が大好きだった

 

だから魔物から守ってやろうとしたのだ

 

ところが森の至る所に魔物の遺体が体を斬られて倒れている

 

ざっと数えても千体は下らない

 

夥(おびただ)しい魔物たちの遺体は4784体だと後々判明する

 

恐らく彼女を袋叩きにするべく集まった魔物の全てを彼女が倒したのだ

 

そして木に凭(もた)れ掛かり立っている彼女を発見する

 

みれば彼女はもう助からないと一目でわかるほど斬られている

 

今生きている方が不思議だ

 

「リーム、お前はどうしてこんなことを」

 

「魔物がクソ野郎の魔王種を倒して何が悪いのさ、こいつは虫けらのように魔物たちを殺した」

 

「それでこの魔物たちはお前が斬ったのか」

 

「魔物同士が殺し合うことは良くあることさ」

 

「これは殺し合いではない、奴らは大勢でお前を撲殺しようとした、そうだろ」

 

「だとしたら私は掟破りなんだろ、何故私を責めない」

 

「寛容という型破りが必要だと言ったのはお前だぞ」

 

「そうかい、それは一歩前進したね」

 

「お前にはまだまだ学びたいことがある、だから死ぬな」

 

「残念だがそれは無理ってもんだよ、これだけ斬られたんだ、もう何も見えやしない、程なく逝くよ」

 

サーマイオスが彼女の傍まで来ると

 

「サーマイオス駄目な自分を許してやりなよ、そうすれば寛大な心を手に入れることができる」

 

「それは自堕落を生む」

 

リームは首を横に振る

 

「そうじゃあないよ、寛容と言う型破りは偉大な魔王には必須だと心得るんだね、その一番大事なことは、まず自分を許すことだとあたしは考えるね」

 

そう言うと倒れ込む

 

サーマイオスは彼女を抱きとめた

 

「偉大な魔王におなりよねサーマイオス」

 

そのまま息を引き取った

 

ぽつり、またぽつりと自分から涙が零れ落ちるのを始めて彼は自覚した

 

彼は生まれて初めて涙を流したのだ

 

魔物たちは特別な理由がない限り墓石を作らない

 

魂は天に帰り、身体は大地に帰ると考えるから大地に埋める

 

これが魔物たちの共通認識のようだ

 

ただ葬儀は行われる

 

亡くなった魔物と親しかったものたちが

 

身体や顔を遺体に擦り付けて別れを悲しむ儀式のようなものだ

 

これには、あの世でも自分のことを忘れないでくれという意味と

 

またお前のことは忘れないという二つの意味がある

 

サーマイオスはリームを埋めたところに墓石を立てた

 

あれから何万年経ったことだろうか

 

久々に彼女に会いに来た

 

「お前程型破りな魔物を私は知らない、お前こそ偉大な魔物だリーム」

 

その日からサーマイオスは寛大であろうと努力を続けた

 

ある日、過ちを犯した魔物を裁くことになった

 

その魔物が深く悔いていることを感じ取ったサーマイオスは剣を構えた

 

魔物は首を刎ねられる覚悟はできている様子だったので

 

「誇りをもって生きよ、お前は今後こんなくだらない罪を犯さず立派に生きてみろ、反省する心のあるお前ならそれが出来る筈だ」

 

魔王サーマイオスが罪を犯した魔物を始めて許した瞬間である

 

それ以来、魔王サーマイオスは時折魔物を許している

 

いつの間にか寛容で紳士な魔王のイメージが魔物や他の魔王にまで浸透した

 

程なく彼は罪を犯し首を刎ねた魔物たちの中で

 

心から改心した魔物たちの墓石を立てた

 

時折その墓石の前に座り込んで

 

「すまなかった」と詫びている

 

もしあの時寛容な心があれば

 

この魔物たちは生き方を改め、真っ当に生きたかもしれない

 

自分が首を刎ねることでその道を閉ざしてしまったのだ

 

胸が張り裂けそうな程の自責の念が彼を襲う

 

するとリームの言葉が昨日のことのように思い出される

 

「サーマイオス駄目な自分を許してやりなよ、そうすれば寛大な心を手に入れることができる」

 

その言葉は、彼の心を癒しそして勇気を与えた

 

「リーム、お前に会いたい」

 

彼女の墓石は他者には決して涙を見せない彼が唯一素直に泣ける場所となっているようだ

 

そんな時魔王大戦が勃発した

 

この頃になると魔王サーマイオスの魔物たちは万が一彼が殺された場合

 

運命を共にすると決意するまでに深い絆で結ばれていた

 

それが痛い程感じられたから魔王サーマイオスは魔物たちの為に生き残ると決めた

 

勝ち続ける戦いより生き残る戦いの方が可能性は高くなる

 

魔王はとかく誇りを自分の命よりも大切に思う性質があるので

 

勝ち続ける道を殆どの魔王が選んでしまうのだ

 

魔王サーマイオスにも当然その思いが強く彼を支配していたが

 

魔物たちへの思いがその衝動を抑えつけ生き残る戦いばかりするようになった

 

魔王同士の戦いは魔物たち同様に一対一が絶対ルールである

 

これは魔王としての誇りの根幹の問題なのだ

 

その為互いに名乗りを上げ死力を尽くして戦い抜く

 

名乗りを上げ決闘を挑まれた魔王がそれを断れば誇りが傷つく

 

その為魔王は決して決闘を断らない

 

ところが、平気で決闘を断る魔王と遭遇した

 

「冗談じゃないわよ、あなたとなんて戦ってあげない」

 

魔王サーマイオスにはとても理解できない行動だ

 

「お前には魔王としての誇りがないのか」

 

「そんなものは昨日ディナーで食べたから今はもう無いわ」

 

その不思議な魔王の姿を一目見た瞬間魔王サーマイオスは

 

懐かしさのあまり胸が熱くなった

 

姿かたちは似ても似つかないのだが、何故かリームと重なって見えた

 

彼女の生き方があまりにもリームに似ていたからそう感じたのかもしれない

 

最後までリームが何を思い、死んでいったのか彼にはわからなかったが

 

彼女ならわかるかもしれない

 

「どうしても私と戦いたいのなら、斬りかかれば良いでしょ」

 

そう言うと彼女は背中を見せた

 

戦いにおいて背中を見せることは自殺行為と同じである

 

「背中から斬り殺せば、あなたは永遠に卑怯者の魔王と蔑まれて生きることになるでしょうけれど、それでもあたしと戦いたいならどうぞご勝手に」

 

流石にその魔王も剣を振り上げたものの斬ることは出来ず断念して消えて行く

 

「あぁあつまらないわぁ、誇りだとかに縛り付けられた魔王ばかりで、そんなクダラナイものなんて捨てちゃえばいいのに、馬鹿らしい戦いだわ」

 

「私は魔王サーマイオスだ」

 

思わず彼女に話しかけてしまった

 

「あなたも誇りに憑りつかれた魔王かしら」

 

振り返りざま彼女はそんな言葉を投げかけた

 

「私は貴様と戦うつもりはない、もちろん誇りは持っているが私は生き残ることにしている」

 

「あら面白い考えね、生き残るなんて魔王らしくなくていいんじゃない」

 

マジマジと彼女は魔王サーマイオスを品定めするように観察した

 

「なんか身なり風体は、いかにも魔王様って感じで好みじゃないわね」

 

「貴様の名前を聞かせてはくれないか」

 

「あたしは魔王ミューヤよ」

 

「では魔王ミューヤ何故あの魔王の決闘の申し出を断られた」

 

「魔王ディゲルね、先日あの魔王が他の魔王の魔物を庇う姿を見たのよ、こんな気持のある魔王を殺すなんて気が引けるじゃない」

 

「勝つのは前提なんだな」

 

「もちろんよ、あいつと私とでは魔力が絶対的に違うもの、戦えば一瞬で肉片にしてしまうでしょ、用がないなら私は帰るわ」

 

そのまま去って行ったが

 

魔王ミューヤのその言葉は虚言ではなかったことが次に再会したとき思い知った

 

身体をバラバラに斬り刻まれ、最早これまでかと意識を失ったが

 

目が覚めれば、傷一つ残っていない

 

自分の再生能力は異常だと思い知らされた

 

ふと辺りを見回すと、ミューヤが視野の中に入った

 

彼女は魔王ディゲルの首を刎ねて晒しものにした魔王ガイザと対峙していた

 

「どうしてそんな酷いことをしているの」

 

「こいつのことか」

 

魔王ガイザは魔王ディゲルの髪の毛を掴んで首を振り回した

 

「こいつはあまりにも弱すぎた、魔王と呼ぶのもおこがましい」

 

「あなたも力が全てと考えるのね」

 

「その通りだ力が全てだ、弱い魔王に生きる価値はない」

 

魔王ミューヤは呆れた顔になり

 

「では私も証明してあげるわ、あなたが本当は弱い魔王だということをね」

 

「面白いやれるものならやってみろ」

 

魔王ガイザが剣を構えた瞬間その剣を指で掴んで、魔王ミューヤは電撃を喰らわせた

 

途端に魔王ガイザは膝をつき動けなくなる

 

「どう?自分の弱さが身に染みたかしら」

 

「貴様、一体何をした」

 

「そんなことはどうでも良いわ、何か言い残すことがあるなら聞いてあげるわよ」

 

「貴様如きに負けるなんて耐えられん」

 

「あらそう、面白いことを思いついたわ、あなたの墓石を立ててあげる、この魔王ディゲルの墓石の踏み台のような形でね、そして勇敢な魔王ディゲルとその三下魔王ガイザと記してね」

 

魔王ミューヤはケラケラと笑った

 

魔王ガイザは血相を変えて「止めろ」と叫んだ瞬間彼は肉片となって飛び散った

 

「魔王ミューヤ、本当にそんな酷い墓石を建てるつもりか」

 

「貴様は誰かしら」

 

「覚えていないのかサーマイオスだ」

 

魔王ミューヤは首を傾げた、すっかり忘れられている様子だ

 

「まぁ良いわ貴様はあたしと戦うつもりはないみたいだし、墓石ねそんな面倒くさいことするわけないでしょ」

 

「しかし魔王ディゲルの首をどうして抱えているのだ?」

 

「彼の魔物たちの元へ持って行ってあげるのよ」

 

その時魔王ミューヤは魔王サーマイオスのことを思い出したようで

 

「貴様あのときの魔王ね、魔王ディゲルの首を見て思い出したわ」

 

「本当に魔王ミューヤは強いんだな」

 

「強いわよ魔力じゃ誰にも負ける気がしないもの」

 

そう言うと去ろうと歩き始めてから振り返り言う

 

「でも戦略を練ったりするのは苦手だわ」

 

苦虫を嚙み潰したような顔とはこのことだと魔王サーマイオスは思った

 

そして笑いが込み上げて来て笑う

 

「あぁぁぁ笑ったわね」

 

魔王ミューヤは顔を真っ赤にして足を何度も大地に踏みつけながら怒りを露わにする

 

「そう怒るな、私は貴様に好意を持った魔王ミューヤ」

 

「あたしは貴様のことをそれほど好きではないわ、でも名前は覚えておいてあげる魔王サーマイオス、あたしを笑った魔王」

 

そっぽを向くように去って行った

 

魔王サーマイオスは自分を律し偉大な魔王になるため日々努力を続けている

 

それが魔王ミューヤの鋭い感覚には嘘くさく感じてしまうようだ

 

どこまでも自分に正直で素直に生きている魔王ミューヤにとって

 

自分を律して懸命に生きている者は自分を騙し偽りの自分を演じているようにしか見えない

 

もちろん魔王サーマイオスからみれば、これは誤解で彼女の偏見だと言えるが

 

必ずしも外れているとは限らない

 

これは互いの生き方の違いなのだ

 

その魔王ミューヤが初めて自分の城へ尋ねて来た

 

この知らせを魔物から聞かされ魔王サーマイオスは高揚した

 

急いで客室に向かう

 

「よくぞ来られた魔王ミューヤ」

 

「来たくて来たわけではないわ」

 

また苦虫を嚙み潰したような表情になっている

 

思わず魔王サーマイオスは笑ってしまう

 

「あぁぁぁ笑ったわね私のことを」

 

魔王ミューヤは顔を真っ赤にしてカンカンになって怒りを誇示する

 

その横に座っている魔王パルフェが咳払いをした
 

「魔王ミューヤ自分の城へ帰りたいのかしら」

 

「いやそれだけは嫌ね、あんな牢獄二度と戻りたくないわ」

 

一瞬で魔王ミューヤの怒りを吹っ飛ばしたのだから

 

魔王パルフェは只者ではないと彼は思った

 

元々彼女とは何か近いものを感じていたが

 

彼にとって何もかも未知な存在である魔王ミューヤと

 

これほどまでに近しい存在になれるなんて不思議で仕方がない

 

何故彼女なのだと魔王サーマイオスは少しばかり顔を歪めた

 

「今回訪問した理由は、魔王ロドリアスと魔王グラードとの争いについて、あなたの意見を聞きたいからです」

 

魔王パルフェが冷静に話すと辺りは張り詰めた空気に包まれ始めた

 

一方魔王ミューヤはだらけている様子だ

 

こんな対照的な組み合わせは他にないだろう

 

「このままでは魔王たちが分断してしまうことになりかねないということだね」

 

「話が早いわ、何としてもそれを阻止したいので出来れば手を組みたいと思うのだけれど」

 

「確かに一体の魔王がどう動いてもこの事態は変えられない、本当の意味で魔王たちは力を合わせる必要があるようだ」

 

「それで、考えと生き方が近いと思われる貴様と力を合わせようと思うのだけれどどうかしら」

 

「それは願ってもない事だ」

 

この魔王たちが話し合いの場を設けている間も

 

亜魔王種たちは着々と魔王の崩壊の策略を実行している

 

魔王グラードは最早魔王ロドリアスと決闘しなければならない状態に陥っていた

 

魔王ロドリアスの魔物たちが魔王グラードの統治する魔物の森に乱入して暴れたのだ

 

止む無くその魔物たちを悉く斬り殺した

 

本来生け捕りにして理由を聞くべきだったのだが

 

流石の魔王グラードも自分の魔物たちが無残に斬り殺されているところをみれば

 

怒りのあまり乱入してきた魔物を皆殺してしまったのだ

 

魔王グラードが斬り殺した魔物たちの亡骸を

 

自分の魔物たちが更に踏みつけ何度も斬り刻んだ

 

魔物たちの怒りは最早収まらない所まできているのだと魔王グラードも悟ったようだ

 

「自分の魔物すら統率できない魔王など、もはや存在の価値はない」

 

そう言うと魔王グラードは剣を掲げた

 

魔物たちの歓声が森中に響く

 

その知らせが魔王サーマイオスの城にも届いた

 

いよいよ猶予がない急がねばならないと三体の魔王は意識した

 

 

 

人間たちの落日 落日の兆し もくじ

 

外伝「魔王パルフェは微笑まない」

 

外伝「魔王ミューヤの憂鬱」

 

外伝「失意の亜魔王種とシーラン」

 

関連記事 12魔王ラフ画

 

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あとがき

 

非寛容の時代だと言われる時代が来たような煽り報道がありましたねΣ(@@;)

 

乗せられないようにしなきゃ

 

ネットの炎上も実は数人が多数のアカウントでしでかしている可能性が高いらしいし

 

少なくとも私の周りには気持のある寛容な子が多いのだけれど

 

私を覗いて(=◇=;)あせる

 

ただ私の場合怒りの持続力は皆無なので¢( ・・)ノ゜ポイ

 

寛容とはかなり違いますけどね∑(-x-;)汗

 

大体の場合マスメディアが一方的に犯罪者を攻撃する放送や記事を書いている

 

一部そんな風潮に乗せられた人もいるでしょう

 

人を裁くと自分が正義のような気になってしまいますからね∑(-x-;)←グサッ

 

もちろんそういう人も必要です( ̄‥ ̄)=3 フン

 

私は元々日本は相手を責めすぎる場面を見ると

 

その責められた相手に同情する気持ちが強い民族性を感じています

 

それ以上は言いすぎだという一定の基準の様なものが自然と身についている

 

その代わり、罪を犯した者を滑稽に馬鹿にしたり笑ったりする

 

これは差別ではなく、犯罪を犯せばみんなに笑われるという犯罪抑止になる

 

特に日本人は人目を気にする性質が強いため、

 

人を虐めればブサイクな生き方、滑稽な行為だと笑われると思えばできなくなる

 

何十年もかけてこの性質を見失わせているように思えます

 

相手を裁き弾劾する行為は逆効果を生む場合が強いし

 

むしろ犯罪を増やしやすい(((゜д゜;)))

 

もう一度、本来の性質に立ち返り海外の傾向ではなく

 

日本人に合った生き方に立ち返った方が良さそうに思えますよね(;¬д¬)

 

Σ( ̄□ ̄;)何の話やあせる

 

魔王サーマイオスが何故魔王ミューヤに惹かれているのか

 

彼の再生能力は不死身に近いこと

 

そして、寛容に生きる、自分を許すことの必要性を知ることで

 

彼は自分との付き合い方を学んで行きました

 

人間関係の問題の原因は

 

自分との付き合いが上手くいっていない場合が多いと学習しています(=◇=;)汗

 

もちろんそれだけではありませんが

 

自分との付き合いが良好なら、不思議と人間関係も問題が起きにくい

 

と言うのも、自分との付き合い方を練って生きていると

 

子供の頃から問題ばかり起こしてきた私が

 

ここ最近人間関係の問題が激減してきているのですΣ(=°ω°=;ノ)ノ

 

短気によってトラブルばかり起こしてきたのですが

 

その短気をどう生かすかを考えて試行錯誤して行くうちに

 

短気で無くすのではなく、短気を生かす方法に辿り着き実行しています

 

少しずつ私が怒れば笑いが起きる現象が増えてきました\(*´▽`*)/

 

まだ修業中ですが

 

恐らく魔王サーマイオスも自分との付き合い方を改めることで

 

魔物たちとの付き合い方も変わって行き深い絆で結ばれるようになった

 

実は魔王サーマイオスと魔王ミューヤの間でひと悶着ありましたが割愛しました

 

また機会があれば描いてみたいと思います

 

次回は、双子の魔王にフォーカスしてみようかと思います(,,꒪꒫꒪,,)

 

毒舌の双子の生い立ちや、彼らが抱えている問題は何なのか

 

何故あれほどまでにつまらなそうに生きているのかとか

 

例によって突如違うキャラが現れて、そちらを優先する場合もあります(((゜д゜;)))

 

その場合はあらかじめご了承ください(>人<) !!

 

まる☆

 

追伸

 

ハッシュタグランキングにクランクインとはなにかしらはてなマークΣ(@@;)あせる