1987年からTEEの後継としてはじまったユーロシティの歴史を振り返っていく企画を立ち上げました。ドイツから取り寄せた、Die EuroCity-Zuege - Teil 1 - 1987-1993: Europaeische Zuglegendenの翻訳を通じて、ユーロシティーの一端を知る、文字通り「備忘録」としたいと思います。

 

まとめの対象ですが、前述の書籍内では1987〜1993年の間に運転開始されたユーロシティを扱っており、その中の列車名ごとに歴史や仕様がまとめられているページとします。書籍の紹介順に倣って、65回目は、マリア・テレジア号を取り上げます。

EC Maria Theresia

 

(この写真が参考文献に掲載されているわけではありません)

 

(以下原文訳、一部表現、短縮名称等をブログ筆者で補足)

マリア・テレジア(1717~1780年)、オーストリア大公妃・皇后

 

1982年5月23日、IC 464/465 フランツ・シューベルト号とIC 460/461 チューリッヒゼー号によって、オーストリアの首都ウィーンとアールベルク線経由でスイスの各都市を結ぶ国際インターシティが2本追加され、それまでトランザルピン号が独占していた大動脈となる接続が強化された。チューリッヒゼー号は、1986年夏ダイヤから列車番号IC 60/61に変更され、1987年5月31日からは69本のユーロシティ列車のうちの1本となり、列車名も変更された: EC 60/61は以後、ウィーン西駅とチューリッヒ中央駅を結ぶマリア・テレジア号として運行された。

 

ÖBB-1044型電気機関車牽引で、エアコン付きのÖBB客車のみで構成されたEC 60 マリア・テレジア号は、ウィーン西駅発7:00であった。これは、トランザルピン号のちょうど2時間前、フランツ・シューベルト号のちょうど4時間前である。前述の2本のユーロシティ列車と同様、EC 60はザンクト・ペルテン、リンツ中央駅、ヴェルス中央駅、アットナング・プッフハイム、ザルツブルク中央駅、クーフシュタイン、ヴェルグル、インスブルック中央駅、エッツタール、ランデック、ザンクト・アントン・アム・アールベルク、ランゲン・アム・アールベルク、ブルーデンツ、フェルトキルヒ、ブッフス(方向転換とSBB-Re 4/4 II 型に機関車交換)、ザルガンスに乗り入れ、目的地チューリッヒ中央駅着16:26。ザルツブルグ〜クーフシュタイン間は「ドイチェス・エック」経由の回廊列車として運行され(シュヴァルツァッハ〜ザンクト・ヴァイト、ザールフェルデン、ツェル・アム・ゼー経由に比べ、所要時間が1時間以上短縮される)、ザンクト・アントン〜ランゲン間はアールベルクトンネルを通過する。所要時間は9時間26分で、表定速度は84km/h。16の途中停車駅と、ランデック~ブルーデンツ間のアールベルク越えという難所(通常は補機が必要)を考慮すれば、驚異的な速度である。ちなみに、逆方向のEC 61の所要時間は同じである(チューリッヒ発13:34、ウィーン発23:00)。

 

1988年5月29日以降、EC 60/61は新設ユーロシティ EC 48/49 ペスタロッチ号(チューリッヒでEC 48からEC 61、EC 60からEC 49に充当)と共通運用を組んだ。1990年夏ダイヤからEC 61のチューリッヒでの発車時刻の1分繰り上げを除けば、次の3回(年)分のダイヤ改正ではそれ以上の変更はない。1991年6月2日以降、ユーロシティ マリア・テレジア号は、「NAT 91(オーストリア国鉄の運行コンセプト)」の第一段階において、特に中間停車駅を通過することで、大幅に加速された。この改正ではEC 160となり、始発駅チューリッヒ空港の地下駅を13:14に出発し(EC 48 ペスタロッチ号として充当編成が10:43に到着後)、ウィーン西駅着22:30(以前より30分早い)。反対方向では、EC 161がウィーン西駅発7:35で、チューリッヒ中央駅着16:26。

 

これにより、EC 160の所要時間は8時間51分(表定速度90km/h)に短縮された。EC 161は17km長いルートを9時間16分(表定速度88km/h)で走行する。2年後の1993年5月23日ペスタロッチ号は運休となり、EC 161の始発駅は以前のチューリッヒ中央駅に戻った(13:35発)。1996年6月2日の夏ダイヤでは、EC 160/161の運行ダイヤは再び若干緩和されている。具体的には、EC 161はウィーン西駅を従来より15分早く出発(7:20発)し、EC 160はウィーン西駅に22:45帰着(つまり25分遅くなった)。一方で、この3年間で、従来のÖBBによる独占的運用となっていた編成にSBBの展望車が連結されるようになり、1等車利用客の快適性が大幅に向上している。

 

1999年5月30日からは、EC 160/161(ここでSBB展望車非連結となる)がEC 164/165 カイザーリン・エリザベート号と共同運用となり、チューリッヒ中央駅とザルツブルク中央駅を結ぶ(EC 164 チューリッヒ着12:27、EC 161 チューリッヒ発13:33/EC 160 チューリッヒ着16:27、EC 165 チューリッヒ発17:33)。つまり、使用されるÖBB編成の1日あたりの走行距離は1,275kmである!2002年12月15日からは、SBBの展望車が復活するだけでなく、運行時間も再び短縮される(EC 160:ウィーン発7:30→チューリッヒ着16:27/EC 161:チューリッヒ発13:33→ウィーン着22:35)。翌年にはさらにそれぞれの方向で7分の時間短縮が図られ、所要時間はそれぞれ8時間50分と8時間55分となる。また、表定速度も90km/hと89km/hに改善され、このユーロシティ列車の運行開始以来最速をマーク。2006年12月10日、残念なことにSBBの展望車は再び運用離脱し、2007年12月8日、EC 160/161は伝統的なマリア・テレジア号の名で最後の運行を行った。翌日12月9日から、この列車はフォアアールベルク号というシンプルな名前になった。

 

 

  編成例(書籍内イラストから)

 

2005〜06年冬ダイヤ 

1等・2等のコンパートメント車、1等オープン座席と荷物車の合造車、2等オープン座席車、食堂車、展望車(スイス)、途中増解結なし。特記なければオーストリアの車両のみ。

 

今回は以上です。

 

 

参考資料:

・Die EuroCity-Zuege - Teil 1 - 1987-1993: Europaeische Zuglegenden /Jean-Pierre Malaspina, Manfred Meyer, Martin Brandt

・Thomascook European Timetable/Thomascook

参考ページ:

Datenbank Fernverkehr (Database long-distance trains)

Harrys Bahnen

ページ内写真:Flickr(引用元は写真とセットで明記)