ぬばたまの夜
白色矮星が鋭角に氷りついているあたり
稀少種の昆虫などを求めて彷徨っていた概念上の探検家が
不意に、ある存在論上の均衡を崩し
スドンと私の前庭に墜ちて
典型的な乳児の形で泣き始めた
すると
遠い未来と遥かな過去が円環してつながるあたり
原始的ゆえ前衛的なエメラルドグリーンの暖流に溶けて
オウムガイの脚と戯れていた概念上の海女が
ある存在論上の均衡を崩され
ひょいと私の前庭に帰着して
これまた典型的な母の形となって乳児をあやし始めた
それを
私は、人の形の構造物の
最上階のパノラマビューの窓から
何百年に一度の彗星の接近だとか、
何か宿命的に閃光する遠雷だとかを見るような
そんな敬虔な気持ちで観測しているのだ
昨日の夜中のことだ