先日様々な「ボレロ」の編曲・演奏をご紹介したが、今回はこの「ボレロ」の雰囲気を持つ他の作曲家の作品をご紹介したい。(そういう意味では、前回のキース・エマーソンの作品は今回ご紹介の方が適切であったが)今回は完全に純クラシックの作曲家だけに焦点を当てて見たい。
おそらく「ラベルのボレロ」が気に入られた方には、以下にご紹介する作品も必ずやお気に入りとなられると思う。
●ホルスト「惑星」
この曲は、グスターヴ・ホルスト(1874-1934)が1914年から1916年にかけて作曲した「7つの管弦楽曲」として作曲されたが、最終的に各曲惑星の名が付けられ1920年に全曲が初演された。この初演当初こそ好評を持って迎えられたが、当時はストラヴィンスキーに人気・話題が集中し、その後不本意にも忘れかけた存在となったが、この曲を1960年代に入ってカラヤンが再評価しウィーン・フィルの演奏会で演奏してから再び火が付き、現在のような人気を得た。
私がこの曲を知ったのは、60年代後半だったと思うが、当時「日曜洋画劇場」「土曜映画劇場」「金曜映画劇場」など洋画を中心にしたTV映画劇場が沢山あったのだが、(このへんがうる覚え。水野晴郎か荻昌弘かどちらかが解説の番組。淀川長治の番組ではなかったのは確か。)
このTV映画劇場のエンディング・テーマに、このホルストの「惑星」の中の「木星」の第四主題「Andante maestoso」が使われていたのでこの曲を知った。この「Andante maestoso」はホルストの意思とは別にセシル・スプリング・ライスにより歌詞が付けられ、全英の愛国的な歌として広まった。そしてこの部分を平原綾香が「ジュピター」として歌い、2003年デビューしたのだった。
さて今回は「木星」の話ではなく、第1曲目の「火星~戦争をもたらす者」のお話だ。日本では「木星」に次ぐ人気曲。5/4拍子、5/2拍子など変拍子の曲なので、完全にボレロのリズムとは言えないが、ボレロ風のリズムには聴こえる。但し「戦争をもたらすもの」がテーマだけあって緊迫感のある作品。(折りしも第一次世界大戦の時期の作品!)ラベルのボレロは1928年の作品なので、むしろラベルがこの曲を聴いて曲想を得たのではという私の勝手な想像も可能?。以下に名演を紹介。
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●レスピーギ「ローマの松」
オットリーノ・レスピーギ(1879-1936)の作品交響詩「ローマの松」は1926年に自らの指揮で初演された。全体は次の4部からなる。
①ボルゲーゼ荘の松②カタコンブ付近の松③ジャニクロの松④アッピア街道の松、
で全曲切れ目無く続けて演奏される。(プログレッシブ・ロック的構成。)
今回特にご紹介したい「ボレロの雰囲気が味わえる曲」は
④アッピア街道の松、なのだがその前に全体的な印象を軽くご紹介。
①ボルゲーゼ荘の松
いきなり子供たちが賑やかに遊んでいる風景。彼らは輪になったり、兵隊ごっこをしたりして。
②カタコンブ付近の松
「カタコンブ」とは古代ローマでの初期のキリスト時代の墓のことで、ムソルグスキーの「展覧会の絵」にも同名の曲がある。荘厳な賛歌風の曲。
③ジャニクロの松
これは筆舌に尽くしがたい美しい曲。ジャニコロの松をバックに美しい夜鳴き鳥の声が聴こえる。
④アッピア街道の松
そして最後最も鳥肌の立つ部分に入る。ここでは古代ローマ軍の進軍経路として使われた「アッピア街道」が描かれており、奇しくもテーマ的には「火星」と同じ「戦い」がテーマになってしまっている。
どうも「ボレロ」もしくは「ボレロ風」のリズムは=戦い、戦争のイメージとなってしまうのか?しかし音楽は勇壮なもので大変魅力的。
この曲をコンサート・ホールで聴く場合、徐々に盛り上がる後半には金管楽器のファンファーレが舞台裏、或いは客席の後ろや2階席に配置されるので、その昔流行った4chステレオを聞いているような素晴らしい効果が得られ描かれる。
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●ドビュッシ-3つの「夜想曲」(管弦楽作品)の2曲目「祭」
ドビュッシーに関しては以前のブログをご覧頂くとして、この管弦楽のための「夜想曲」は1900年に初演された。①雲②祭③シレーヌの3曲からなる。日本での初演も意外に早く1927年チャールズ・ラウトルップ指揮東京音楽学校の管弦楽団により演奏された。
さてボレロ風というか、ここでは完全にボレロのリズムが現れるのは②祭だ。それ故この曲はドビュッシーのボレロと言われている。但しこの曲をご紹介する前に他の曲もさらっと見てみたい。
①雲
非常に不気味なメロディーと美しいメローディーが現れては消え、まさに「雲」を描いている曲だ。冨田勲氏もこの曲をTV番組のBGM用にシンセサイザーで演奏している。
③シレーヌ
シレーヌは人魚のことらしいが、まさにその存在が肯定できる出来。女声合唱団がその美しさを無歌詞で歌う。このスタイルはラベルの「ダフニスとクロエ」の魁的アイデアだ。
そして順序が逆になったが肝心の②の「祭」。
こちらで描くボレロは、戦いではないが、「喧嘩祭り」といわれることもある「祭り」を描いたのか?
但し祭りの最高潮の部分だけの表現ではなく「祭りの盛り上がり」とそれが終った後の「寂しい風情」まで描かれる。まるで吉田拓郎のような曲というというのは冗談だが、素晴らしい曲。
やや取っ付きは悪いが何度も聴くうちに虜になろう作品。それにしてもラベルの「ボレロ」の28年も前の曲というのは、流石先駆的作曲者ドビュッシーならではの作品。
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