営業マンをしていて避けて通れないのが価格交渉です。

価格交渉というのはこちらから提示した価格がお客様の予算に合わないために値下げを要望されるケースもあれば、他社製品と競合していて価格が高いために値下げを要望されるケースがあります。

 

ただし、これまで大手企業を相手にいくつもの価格交渉と案件成約をしてきた経験上、以下の二つのことが言えます。

 

1. お客様は明確に予算が決まっていてそれより少しでも高いと買わない、というわけではない

2. 自社製品が競合他社より高いからといってお客様は買わない、というわけではない

 

個人で何か商品を買うときと会社が商品を購入するときでは明確な差があります。

会社が商品を購入するときには必ずそれは投資になるということです。投資対効果がないと判断された場合、その商品を購入することはありません。

 

あくまでお客様は我々が提案する製品のバリューを理解して最終的に購入判断をしているということになります。もしも競合他社製品よりも価格が高かったとしても、お客様が自社製品のバリューを認めてくれれば価格を無理に下げなくても購入してくれます。

 

私自身も経験上、はるかに我々の製品が競合他社より高くても、お客様は我々の製品の購入を決定していただいたことが何度もあります。案件活動中に我々はバリューを売っているという意識を高く持ち、お客様に対して自社製品のバリューを訴求し続けることは必須です。それには以前も触れましたが、提案の初期段階でお客様の課題を探り、その課題を解決できるために自社製品が最適であるということを訴求するしかありません。

 

また価格交渉をされたらそれは案件クロージングに大きく近づくチャンスだと私は考えています。

なぜならそこで合意できればお客様は我々の製品を購入してくれるからです。

 

値下げを行うときには必ず条件を付けます。例えば、来月までの発注を条件とするとか、導入事例顧客になってくれることを条件とするとか、価格を下げるために自社に有利になるような条件を必ずつけます。特に発注のタイミングは必ず値下げの条件に入れないと、ずるずると受注時期が後ろにずれてしまいます。

 

また値下げ交渉の際にどこまで価格を下げたら良いのか?についてですが、一番簡単な方法は直接お客様にターゲット価格をヒアリングして、その価格を提示したら購入してもらうことを事前に合意することです。そのためには合意前にお客様内部でチャンピオンとエコノミックバイヤーの間で購入にゴーサインを出せる金額を決めていただく必要があります。

 

もしもターゲット価格を提示してもらえずにただ価格を下げてくれと言われた場合、真剣に社内交渉をして無理した特別価格の承認を取る努力をしなくて良いと思います。なぜならそのような状況のときにはお客様自身もいくらだったら購入するかについて理解できていないからです。自分の場合にはどうしても価格を提示しなければならない場合には、適当なさじ加減(その時の状況にもよりますが前回提示額から数%程度の値引き)で価格を提示します。

 

また価格を下げること以外にも値下げ交渉に対応する制度がそれぞれの会社によってあると思いますので、それを活用することも有効です。たとえば会社によっては無償ライセンス期間を延長して提供できる制度をもっている会社があります。また現在他社製品を利用中で残存契約期間が残っている場合、その期間のライセンス費用を無償または減額するという制度をもっている会社もあります。そういう制度を活用することによって、無理に価格を下げることを避けることができます。

 

 

お客様に営業をしていて、案件をクロージング(受注)する際に必ず”コンペリングイベント (Compelling Event)は何なのか?”ということをマネジメントから聞かれます。お客様が発注する動機となるイベント、つまり発注をしなければいけないイベントのことになります。これがしっかり固まっていないと受注時期が後ろへずれ込んでしまい、最悪のケースは失注に繋がってしまいます。

 

コンペリングイベントには大きく2つに分けられると思います。

1. お客様都合によるもの

2. メーカーの都合によるもの

 

まず、1.のお客様都合によるものは以下のようなものがあります。

- お客様の既存ネットワーク更改プロジェクト(XXまでに完了しなければならないとお客様側で設定されているもの)

- 既存ソリューションの保守切れ

-  情報漏洩事故が発生

-  従業員または役員レベルからの大きなクレーム

 

上記についてはあくまでお客様都合なので、こちらでコントロールできることは少ないです。

例えばお客様の既存ネットワーク更改プロジェクトが来年度だとしたら、お客様は来年度に向けて予算を確保するので、今年度に大きな売り上げは見込めないでしょう。

 

そして2.のメーカーの都合によるものには以下のようなものがあります

- メーカーが提供する期間限定の評価ライセンス

- メーカーによる価格改定

- お客様からの値引き交渉への対応

 

上記3点についてはこちら側でコントロールが可能で、私自身よく案件クロージングの時に使います。

 

IT製品の場合、案件を進めていくと実際に製品が動くかどうかについて評価をしたいと言われます。

その際に私は”製品評価ライセンスは期間限定となっております。また評価自体が成功したらそのまま評価版を本番環境にしていただくことを前提としていますので、そちらをご了承いただく事と、お客様のご予算が確保されていることが条件となります。”とお伝えします。

 

とても上から目線に聞こえるかもしれませんが、これをお伝えしてお互い合意してから進めることはとても重要です。

また案件の際には必ず何を評価するのか?ということを事前に合意することも重要です。そうしないと評価ライセンスを渡しても何もしないまま終わってしまう可能性が大きくなってしまいます。

 

ここでコンペリングイベントをしっかり設定すれば受注時期を確定させることができます。

 

また値引き交渉も営業マンにとってはコンペリングイベントを決定づけるチャンスです。大型案件では必ず値引き交渉が入ります。

特別価格を提供する代わりに発注期限を設定すれば、それがコンペリングイベントになります。

 

確実にフォーキャスト通りに案件をクロージングするためには営業マンがこのようなコンペリングイベントを作っていかなといけないと思います。

 

 

多くのB2Bの外資系IT企業では直販モデルをとらずにチャネルセールスモデルを取っています。世界の各リージョンの多くの顧客にソリューションを販売してサポートするためには現地の販売パートナー(リセラー)は欠かせません。

 

しかしメーカーの営業、特に大型案件を追いかける営業としてはお客様との直接のコミュにケーションは案件の確度を上げるため、案件を大型化するために必須です。

 

リセラーは数多くの取扱製品の中から我々のソリューションをお客様に提案して販売します。

得てしてリセラーは多くのお客様に対応できるように幅広いトータルソリューションを提供できるように豊富な製品ラインナップを持っており、そのトータルソリューションの中のワンピースとしてそれぞれのメーカーの製品を提供します。

例えばネットワークセキュリティの場合、ウェブセキュリティは我々のメーカーの製品を提案しますが、データセンターへのリモートアクセスはX社、情報漏洩対策ソリューションはY社、認証基盤はZ社というように別々の製品を組み合わせて提案します。

しかしメーカーの立場からすると他社X社、Y社のソリューションは自社でも提供できるので、リセラーにはそれも含めて我々のメーカーのソリューションを大きく提案してほしいと思います。

 

我々メーカーの立場からすると提案するのは自社製品しかないので、そのバリューをいかに上手く見せるかということを考えて営業を行います。以前チャレンジャーセールスに関するブログを書きましたが、メーカーはあくまでチャレンジャータイプの営業活動を行います。

お客様の気づいていない課題にまで踏み込んで提案を行います。

 

それに対してリセラーはお客様の要望ありきで、いかにしてお客様が求めているものに対応するかに重きを置いて提案を行います。悪い言い方ですが、御用聞き営業です。

御用聞き営業は自社のバリューはほとんど出せません。なので価格競争になると安易に価格を下げてお客様に提案します。

 

チャレンジャータイプの営業は自社ソリューションのバリューを訴求しますので、価格交渉になっても簡単に価格を下げません。お客様がバリューを認めてくれたらそれも含めて高い価格でも購入するように動くからです。外資系メーカーの営業はチャレンジャータイプでないと売り上げ目標達成は困難となります。

 

そして、メーカーの営業として大事なのは、お客様とのコミュニケーションパスを100%リセラーだけにしないことです。例えリセラーが持ってきてくれた案件であっても、なんらかの形でメーカーの営業はお客様と直接コミュニケーションを取る手段を取らなければ案件をコントロールできませんし自社のバリューを訴求することは不可能です。自社ソリューションリセラーの提案するワンピースでしかなくなり、たとえリセラーが自社製品の案件を受注したとしても少額で終わってしまいます。

 

もちろんメーカーの営業がお客様と直接コミュニケーションを取ることを嫌がるリセラーは多くいます。そこでリセラーとコンフリクトが生じることもあります。

しかし、特に大規模案件においては100%リセラーを通じて提案を行うと最後の最後で失注したり受注が後ろに伸びる危険性があります。そうやって失敗した営業マンを何人もこれまで見てきましたし、恥ずかしながら自分もお客様との直接のコミュニケーションが取れなかったために案件金額が小さくなってしまった経験があります。

 

あくまでお客様との直接話法でお客様が何を考えているのかを確認して自分で案件をコントロールしなければいけません。

 

お客様と直接コンタクトする方法はいくつかあります。

例えば自社のマーケティングのイベントにお客様が登録してきたら直接コンタクトしてみたり、リセラーと一緒に案件を進めていく中で、メールのやり取りでお客様のメールアドレスがあれば、そこに直接連絡することもできます。

 

メーカーの営業の仕事は自分で案件をコントロールしてレベニューを最大化することですので、お客様との直接のコミュニケーションが取れないようであれば自分の存在意義はないというくらいの考えを持って良いと思います。