摩周屈斜路トレイルを歩く その1

 

 4月中旬、てしかがトレイルクラブが整備している摩周屈斜路トレイルを歩きました。摩周屈斜路トレイルは摩周湖から美幌峠までの62キロ続くトレイル。今は、美幌峠までの50キロが整備されています。てしかがトレイルクラブは30名ほどの会員がおり、日頃もトレイルの点検整備などに参加しています。今回は、ゴールデンウィークにトレイルを歩く人がいるため、その前の点検を兼ねて、会員に呼びかけての3日間で全行程を歩くスルーハイクでした。私は今回は1日目と2日目の前半、参加しました。

 

 スタートは摩周湖第一展望台からです。

まずは摩周湖をカムイテラスより眺めます。小雨が降っていますが、湖面を見ることはできました。昨日の朝は、少し氷が張ってたとAさん。まだまだ寒い早春の北海道です。テラスに設置してある摩周屈斜路トレイル0kmポストの前でみんなで記念撮影をしてから出発。

 今回は、例年5月に行なっているスルーハイクよりも早い時期だったので、摩周湖から美留和へ降りてゆく道には、雪がまだ残っていました。この道は、かつて美留和小学校の子ども達が遠足で登った道です。眼下に弟子屈の町が広がる中下りてゆきます。平地や市街地ではもう雪が解けて地面が見えていたので、雪はもうないかな?と甘く見ていましたが、結構な雪が残っていました。トド松が多く生えている場所は、雪の上に枝先がたくさん落ちていて、よく見るとモモンガが葉っぱや芽を食べた跡もあります。姿は見えないけれど、モモンガもここでトド松の葉っぱを齧りながら長い冬を越したのでしょう。沢沿いではミソサザイの長〜いさえずりが賑やか。途中、川を越えますが、小さな流れなので、軽くジャンプすれば越えられます。この先、林道を歩いて美留和市街地まで出られたのですが、森林管理事務所から、施業の大型車が走行し危険なので林道は歩かず別のルートを通ってほしいとの要請があり、新たに林内にルートを作ることになりました。新しいルートを歩いたのですが、林内はより雪が深く、ところどころ膝くらいまで雪に埋もれました。特に先頭を歩いてくれた人は大変だったと思います。

 

 林道を横切っているクマの足跡もありました。古いものだったので、足跡が広がって正確な大きさはわかりませんでしが、足の運び方からクマらしさが伝わってきました。今この森のどこかに熊がいるんだなあ。ぽかぽか陽気の日もあったからもう起きてるんだね。何食べてるんだろう?フキウノトウ、去年の残り木の実、動物の死体など、まだ食べ物が乏しいからひもじいかな。起きたばかりで、体を慣らす準備期間かな。赤ちゃんを産んだお母さんは、まだ穴の中だろうか。500グラムで産まれる熊の赤ちゃんだけど、お母さんのおっぱいを飲んで人間の赤ちゃんくらいの大きさには育っているだろうか。と、しばし想像を楽しみました。

 

 山を下ったところで、クマスプレーの噴射体験をしました。クマスプレーは使用期限が3〜4年と短く、期限を過ぎると噴射力が弱まってしまうので、買い替えなければないません。期限切れのスプレーはお試し体験に使います。会長が、期限切れのクマスプレーを5本ほど持っていたので、それをみんなで交代で試射しました。途中ゴミで落ちてた空のペットボトルをクマに見立ててスプレーを噴射します。レバーを押すと、褐色の霧が勢いよく噴き出します。クマスプレーのラベルには噴射距離9メートルと書いてありますが、視覚的には4~5メートルくらいまでが射程範囲のような感じでした。期限内であれば、もう少し勢いよく届くかもしれません。今回は5年ものだったので、そんなに切れてから時間が経っていなかったので霧状に吹き出していましたが、以前10年ものを試した時は、液体がぼとぼと~と流れて、吹き出さなかった例もあります。おそらく圧が抜けてしまっていたのでしょう。噴射時間は、結構長い感じがします。クマスプレーは1本1万円くらいするので、なんとなく使うのがもったいない気がするためか、噴射しててもまだ出続けてるという感じで、お試しとしては1本を二人で体験できるくらいの量でした。実際のクマに向けて噴射するのと、空のペットボトルに向かって噴射するのとでは、全く状況が違うのですが。

そんな風に和気藹々(わきあいあい)とクマスプレーの試射をしていたところ、風向きが変わって、自分達の方へ刺激臭が流れてきました。私も唐辛子の匂いを感じ、続いて喉がヒリヒリしてきました。みんな足早に現場を離れます。手ぬぐいて口を押さえたり、タオルで顔を覆ったり、私もハンカチを鼻と口に慌てて当てました。咳をする人、鼻水が出る人、涙を流す人もいます。立ち止まってもまだ治らないので、もっと離れました。100メートル程度離れてるとやっと匂いが届かなくなりました。もう立ち去ることにしましたが、進行方向と逆に逃げてしまったので、再び現場を通過しなければなりません。現場付近は未だ唐辛子エキスが空気中に漂っていました。駆け足で通り過ぎ、200メートルほど離れてやっと新鮮な空気を吸うことができました。予定外にクマスプレーの唐辛子エキス(カプサイシン)の威力を体感してしまいましたが、これを顔に吹きかけられたら、結構なダメージだということがわかり、いい経験となりました。

教訓その1 試す時は、一度に5本はやりすぎなので、2本くらいにしておくのがいいでしょう。

 使用済みのクマスプレーの容器に中身の液体が垂れて付着していた物があって、それを触ってしまったG君。手についたのを雪で拭ったのですが、その後手で鼻の辺りを触ってしまったようで、鼻が真っ赤になってしまいました。口の辺りも触ってしまい、舐めると刺激的な味がすると言っていました。この日の夜、お風呂で顔を洗った時も、お風呂の水が目にしみて目がヒリヒリしたそうなので、カプサイシンの威力は時間が経ってもかなり強烈なようです。

教訓その2 スプレーの中身が付着した時は、流水でよ~く洗いましょう。

 会員の知人が阿寒でクマに襲われた時の話や、私の友人がクマスプレーでクマを撃退した時の話などを共有しました。ここ数年、クマと人との遭遇例は増えていると感じます。クマスプレーは有効であることが実証されているので、ぜひ山に入る時は持参することをお勧めします。

 

 国有林の境界である林道ゲートを出る辺りにもクマの足跡がありました。この先、鹿柵があります。鹿柵の外は畑が広がっています。見通しが良くなり、遠くには川湯硫黄山も見えました。砂利道はやがて舗装路に出て、美留和パークゴルフ場に到着。四阿(あずまや)でお昼ご飯を食べました。

 美留和はアイヌ語で「ベル ワン ベツ」=「清き水の流れるところ」という意味。摩周湖の湧き水が汲めます。看板には、「摩周湖から美留和までは5キロととても近いです。」と書かれていて、歩いて来たよ!と距離感を実感。

 その後は、石山林道を通ります。ここはヒグマ目撃が多い場所です。今年、クマ避けに鳴らすシンバルを設置する予定だそうです。今回のメンバーのH君も去年の夏にここでクマに遭遇。間にフェンスがあって、見つめ合ったそうです。幸い、クマが逃げてってくれたのですが。でも、ここでふと思いましたが、このフェンスは、鹿が山から畑に出ないように設置されています。本来、山側に動物が、畑側に人がいる想定です。H君が熊と出会った時は、フェンスの山側に人が、畑側に熊がいた状況になります。これって逆だよねっとちょっとおかしかったです。熊にとってはどっちがいていい場所で、いていけない場所かわからないし、フェンスも完全じゃないので出入りできてしまう箇所があるので、このような状況があり得ます。まあ、フェンスのおかげで熊との間の障害物となり、お互い安心できたので、大いに役に立ちました。

 

 石山林道を抜けた後は、鉄道跡の道。昔、硫黄山から採掘した硫黄を標茶まで運ぶ蒸気機関車が走っていました。標茶からは釧路川を蒸気船で運んだとのこと。今も線路跡は盛り土が残っていて、その上を歩きます。現在の釧網線は、この鉄道跡とは別に線路が敷かれていますが、旧鉄道跡と近いので、今の釧網線の線路も眺めることができます。1日に両手で数えられるくらいしか走っていませんが、運が良ければかわいい1両の車両に出会えます。鉄道好きにも魅力的な道。しかも、オンコや楡、楓など森もいい感じです。シカの痕跡もたくさん残っていました。

 

 旧鉄道跡を抜けた後は少し国道沿いの歩道を歩きます。国道は大型トラックが通ってゆくので、騒音や土煙や水飛沫が吹き飛んできてあずましくないのですが、少しの辛抱。しばらく行くと国道を離れ、畑作地帯を通る道へ。ここは農作業の車以外は、ほとんど車が走っていません。硫黄山の絶景ポイントです。今日の行程では、硫黄山をいろんな角度から眺めることができます。今日のゴールはあの山の麓です。遠くには、出発地点の摩周湖のある山も見えています。あそこから、ずいぶん歩いてきたね。あともう少し。

 

 川湯温泉駅に到着。駅舎は昭和11年に建てられており、山小屋風のかわいい姿です。足湯もありますので、ぜひ足を温泉につけて休めてください。私達も以前のスルーハイクの時は、足湯したり、駅舎の中にある喫茶店オーチャードグラスのソフトクリームを食べたり、店主のヒデキさんとおしゃべりを楽しんだり、近くの商店でビールを買って飲む人も(その日の終点川湯温泉で宿泊予定の人限定)いたり、くつろぎの時間をしばし過ごしたのですが、今日は時間が迫っています。前半の摩周湖から美留和へ下りる道の雪で結構時間がかかってしまったり、途中も小雨が降り続いていて、ちょっとテンションが下がっていたのもあって、駅前を長居せずに通り過ぎました。

 硫黄山が間近に見えます。青葉トンネルを抜けて、硫黄山レストハウスに。ちょうど夕日が硫黄山の隣のかぶと山に沈む頃で、美しく雄大な景色でした。今日は残念ながらレストハウスはもう閉店していましたが、いつもなら、ここでもソフトクリームや蒸し卵が味わえます。

 初夏には白いお花が一面に咲くつつじヶ原を夕暮れの中足早に歩いて、今日のゴール川湯温泉に到着。青葉トンネルも硫黄山もつつじヶ原も、ほんとはそこだけでゆっくり時間をかけて楽しめるコースです。植物を観察したり、鳥を探したり、景色をぼーっと眺めたり、そんな過ごし方も豊かです。時間のある方は、本日のコースを2日に分けて歩いてもいいですね。

 

 今日は、20.5キロの道のり。よく歩きました。川湯温泉は硫黄成分たっぷりのよく効くお湯で、日帰り入浴もできます。源泉掛け流しの温泉にゆっくり浸かって、旅の疲れを癒しましょう。

 

 ロングトレイルの醍醐味は寄り道にあります。

 

 明日もこの先を歩きます。

  〜 その2につづく。