自然と共に豊かに暮らす北海道

 

 

 この度、北海道アウトドアガイド資格の自然分野、実技試験にめでたく合格しました。これで、晴れて北海道の自然ガイドに認定されます。ぱちぱちぱちぱち〜。(自分に拍手)

 

 ガイド資格の筆記試験までの経過は、2023年2月のブログ「北海道の自然ガイド」に書きましたので、よかったら読んでみてください。

 自然の実技試験は今年の5月に釧路湿原でもあったのですが、10月の野幌森林公園で受けました。

 5月は先に仕事の予定が入っていたというのもあるのですが、野幌の森が好きという理由が大きかったです。釧路湿原は身近でもあり、仕事場でもあり、試験会場となる達古武は結構よく歩いているのですが、湿原に対する思い入れがそんなになくて、北海道の針葉樹と広葉樹の混じる森が好きなのです。阿寒摩周国立公園だと、和琴半島や仁伏半島の森が好きです。野幌の森は、大学時代、卒論の調査で通ったことがあり、それ以来訪れていないので、また歩きたいなという思いも強かったのです。やっぱり自分が好きな場所をガイドする方が熱が入るし、その思いも審査する方に伝わると思うのです。という訳で、先日、野幌で試験を受けて来ました。

 

 自然ガイドの実技試験は、最初に「実技試験」:遊歩道を行き10分間、審査員2名を受験者がガイド。帰り5分は審査員からの質疑応答。受験者全員のガイド実技が終わったら、「リスクマネジメント試験」:受験者二人が1組となり、それぞれ2つの課題(出血や骨折など)を5分内に応急処置する。「知識試験」:動植物などの写真100枚の名前を記入する20分の筆記試験。最後に、一人10分間の「面接」という内容です。

 試験日は土曜日と日曜日のどちらから選ぶことができます。札幌での自然の実技試験は、釧路よりも大勢の人が受け、また土曜日より日曜日の方が希望者が多いと聞いていましたので、初めは土曜日で申し込んでいたのですが、高校サッカー選手権の準決勝が土曜日に行われることになったため、日曜日に変更してもらいました。うちの子の高校のサッカー部は前の週の試合で負けてしまったので(その話は前話「勝っても負けても」ご参照ください。)、結局は土曜日の試験でもよかったのですが、、、。日曜日は私と同じ組が10名、少し時間をずらして別にもうひと組が受けていました。

 

 さて、この自然ガイドの資格試験ですが、感想としては、受けてよかったな〜と思っています。

 一番は、野幌の森を久しぶりに歩けたこと。ちょうど紅葉のいい時期、10月末にしては暖かく、気持ちよく歩けました。

 北海道の針広混交林の代表的な樹種は、ミズナラ、ニレ、カツラ、トドマツなどです。野幌の森にも立派なこれらの巨木があり、秋、黄金色に紅葉したカツラの葉っぱは、あまい香りを漂わせます。森全体がほんのりとあま〜い香りに包まれていて、幸せな気持ちになります。もみじの真っ赤に染まる「ハレ」の季節です。そんな大好きな森を、一緒に歩く人に私が感じている魅力を伝えたい、一緒に共感できたらうれしい、そんな気持ちでガイド実技をしようと思いました。

 当日、集合するとくじ引きをして、ガイド実技をする順番を決めます。私は10番、一番最後でした。私の番まで2時間ちょっと待ち時間があります。その間いろいろ図鑑見てるよりは森歩きを楽しもうと思って、私は遊歩道をひたすら歩いていました。野幌森林公園はとても広くて(2,000haほど)遊歩道もたくさんあります。

 

 学生の頃、野幌での卒論調査では、エゾリスを観察していました。あれはまだ雪が積もっていたので、3月頃だったでしょうか。雪の中、早朝の森へ行くとエゾリスがやってきて、木に登りツタウルシの実をひたすら食べているのです。その時はツタウルシの実がたくさんの実がなっていて、それを食べている様子を観察し、食べる速さを数値化していかに効率よく食べているか、採食効率がよくなるように食べる場所を選んで移動しているんだよ〜という仮説を証明する論文でした。卒論のテーマを探しに、なぜか野幌へ行って、なぜかエゾリスが観察しやすい状況に遭遇し、先輩の助言もあって(先輩はツタウルシにかぶれてしまったのですが)、テーマを決めて、ひと月ほど野幌へ一人でほぼ毎日通いました。札幌から始発のJRに乗って大麻の駅まで。そこから歩いて野幌森林公園まで。当時は駅から公園までそんなに歩いた記憶はなかったのですが、今回行ってみたら30分ほどの距離で、楽々歩いていた当時の私はさすが若かったなっと思います。いつも公園の入り口に大きな木があって、その洞(うろ)の中にエゾフクロウがいつもいてかわいかった記憶があります。まだいたりして〜とちょっと楽しみにしていたのですが、今回行ってみたら、もう倒れてしまったのか、入り口付近と記憶してたけれどもっと奥にあったのか、その木がどれなのかすらわかりませんでした。まあもう27年も前ですから、森も変わりますよね。

 

 さて、自分の番が近づいてきました。前の人がガイドしている間、少し手前で待ちます。その時、その場所で一緒に待機してくれるスタッフが、なんと!昔ねおすで一緒に働いていたことのある旧友だったのです。20年ぶりの再会でした。当時私は遠藤って苗字だったので「えんます」って呼ばれていて、その友人も苗字が遠藤なので「えんめぐ」って呼ばれていたという遠藤つながり。彼女は、今も当時の勤務地でそのまま働いているそうです。変わらずのやわらかな笑顔でうれしかったです。なつかしい共通の知人の話など話していると私の番となりました。

 

 それまでは緊張していなかったのに、やっぱり試験が始まると緊張してしまいました。こんな話題から始めようとか、次はこんな感じで、と頭の中でシュミレーションしていたのに、頭が真っ白になってしまって、ぎこちない感じで始めました。審査員の方はあまり興味なさそうな雰囲気を醸し出しているし、何か足元の植物を探して歩いているようで、歩調が合いません。自分のペースで進めず、心の中で焦ってしまいました。

 しかも、途中、自転車に乗ったおじさんが話しかけてきて、その話が長い。なかなか終わらなくて、最初は相槌を打っていたのですが、早くしないと時間が!と思って、「じゃあ」と切り上げて、直ちに最後の締めに入ってちょうど時間切れ。

 そう、野幌はたくさんの人が歩きに来る市民に愛されている森なのです。おじさんも自然好きらしく、「今年は木の実のなりが悪いから、鳥が少ない実に殺到して全部食べてしまって大変だ。」という話を熱心に語ってくれていました。前の日も下見で歩いていた時、エプロンをつけた近所のおばさんが、入り口近くの樹齢数百年のカツラの巨木を見に来ていました。「木は長生きね。それに比べると人間はすぐ死んじゃうのよね。」なんて哲学的なお話をしてくれました。豊かな森は人をおおらかにさせ、人と人の距離を近づけてくれる温もりを持っているのです。

 もしかしたら、実はあのおじさんはサクラで、ガイド 中に通りすがりの人が話しかけられた時の対応の仕方を試されていたのかもしれませんがw。

 

 私がガイド実技の時、一番伝えたいなと思ったことは、五感を使って自然を感じて欲しいということです。なので、最後の締めは、「目を閉じて、ゆっくり深呼吸をしてみましょう。 何か音は聞こえますか? 匂いはしますか? 風は感じますか? 日差しはどうでしょうか?」と全身で森を感じてもらう時間を取りました。本当はカツラの木の近くでやりたかったのですが、歩みが遅かったのと、おじさんの登場でカツラの木までは辿り着けず、中途半端な場所でやりました。審査員の方は「ごほっごほって音がします。」「どーん、どーんって音もします。」って答えてくれましたが、「ごほごほ」はあのおじさんの咳払いの音です。これには「森のクマにもきっと聴こえていますね。」って返すことができました。「どーん」という音は、釧路湿原なら別海にある自衛隊の矢臼別演習場の大砲の音とわかるのですが、この付近だと野球場の応援の太鼓の音かな?と思ったり、わからなかったのでスルーしてしまいました。自然の音以外の音もいろいろ聴こえてくる都市近郊の森なのでした。やはり地の利はあって、普段からよく知っている森については語れる幅が広がります。そういう意味では私はアウェイだったので、対応しきれていない部分が露呈してしまいました。

 

 10分は短い。小鳥が飛んできて、でも枝のずっと高いところで鳴いている。遠くてよく見えないけど、動きから「ゴジュウカラ」ってわかるけれど、お客さんにはもう少し近くで姿の見える状態まで待って、「ゴジュウカラですね。」って教えてあげたい。姿を見て、名前を聞いた方が印象に残るから。でも、待っているだけで時間は過ぎる。

 「これはなんですか?」と審査員の方に聞かれたのは雪虫。本当は種名(トドノネオオワタムシ)とかアブラムシの仲間だとか答えた方が正確なのかもしれないけれど、私は雪虫って名前が好きだし、種名は科学的なのかもしれないけれど味気がなくなってしまう。白い綿毛の姿に雪虫って愛称がぴったりだし、この虫が飛ぶと雪が近いって言われているんですよ、なんて北国の話題も語りたいけれど、時間が足りない。

 終わってみると、もっとああすれば、こうしれば、と改善点が思い浮かぶ。例えば、遠い鳥でも動きや鳴き声の特徴を伝えることで遠くても「ゴジュウカラ」を識別できることもできるし、 雪虫も「トドノネオオワタムシ」としての一生もドラマがあって味わい深い。一つの角度からの解説じゃなくて、いろんな切り口から解説できるバリエーションを増やしていくことも大切だ。今後のガイド実践の際に役立ついい経験となった。

 

 今回の試験にあたり、知識を勉強し直すこともできました。木や草の名前を覚えたのは、クマ研で山を歩いていた頃。最近は、記憶も薄れて、あ〜知ってるけど、名前が思い出せないって状態だったので、記憶を新たに更新できたのはよかったです。筆記の100問は、細かいところまできちんと記憶していないと正解とならない。「アジサイ」とわかっても「エゾアジサイ」まで必要。「スミレ」だけど、「ツツジ」だけど、「コザクラ」だけど、「エゾノ?ミヤマ?シレトコ?ユウバリ?」って最後の詰めが甘くて迷うところがたくさんあった。

 昨日図鑑を見たおかげで答えられた問題もいくつかあった。ただ昆虫はやっぱりにわかでは難しい。種数が多いから。コブスジツノゴミムシダマシとか、ムネビロイネゾウモドキとか、カタボシエグリオオキノコ(キノコって虫の名前!)とか、なかなか覚えられない。今まであまり興味を持ってこなかったけれど、ちょっとづつ昆虫についても好奇心を持って知識を増やしていきたいなと思いました。ただ100問テストでは植物が大半で、昆虫は割とメジャーなのしか出なかったので、そこまでマニアックに覚える必要はないと思います。

 

 面接対策では、なぜガイドになりたいと思ったか、とか日頃ガイドする時に心がけていること、などの質問への答えも事前に想定して答えを考えました。改めて自分自身をふりかえって、自然を見つめることで、みんなの人生が豊かになるといいなと思っていることを実感しました。自然は人の心を豊かにしてくれます。自然と共にあることで幸せになれると私は思っています。それが自然を大切にする気持ち、自然への負荷を最小限する日頃の暮らしに繋がり、人も動物も植物も幸せな世の中になるといいなと思います。

 動植物達は声を上げません。森が切られ、水や空気が汚れていっても、その環境に一生懸命適応しながら、あるいは静かに姿を消しながら、今を受け入れ全力で生きています。人が自然を守るという上から目線ではなくて、自然と人は一体だから、自然をおろそかにするいうことは人が暮らしにくい環境にしていることと同義ですし、太古から人は自然に生かされ、自然と共に生き続けている生き物だと思います。

 

 自然と言っても漠然としていて、多くの人にとってはあったらあったでいいし、無くなっても直接は生活に影響は目に見えないかもしれません。そのため、気が付いた時は手遅れになってしまうこともあります。クマはそんな自然の危機を最前線で代弁してくれる存在かもしれません。「動物の暮らせる森が減ってしまってるんです。」「森の中に実を成らせる木が少なくなってみんなお腹をすかせてます。」「川に魚が全然上がって来ないので困っているのですが。」と語りかけてくれています。その声を聞いて、改善して、みんなが(人間も含めて)住みよい環境になっていくといいと思います。

 都市に出てくるクマとの共存の話題では、人の命が優先とか、クマとの共存は無理などという極論も出てきますが、都市部という人が過密な環境で共存を語り合うのはとても難しい。その背後に広がるバックカントリーの豊かさが、都市部での被害を未然に防いでくれていると思うのです。直接の被害が目に見える事態にな陥る前に、その周辺に広がる森はどんな状態か、ここは人間は利用を控えて動物達に譲ってあげよう、みたいな人間以外の生き物への愛と人間の叡智が今、求められているのではないかと思います。

 

 学生の頃は、動物生態学という学問を極めたいと志していたけれど、今は人と自然の調和がテーマだと改めて実感しました。このテーマは壮大なので極められるものではないけれど、この道を先へと歩いていきたいです。

 自然との繋がりが見えにくい、感じにくい世の中になっていますが、自然っていいな、自然ってすごいな、自然ってありがたいな、自然を大切にしたいなって思うきっかけとなる自然ガイドができたらいいです。

 ガイド資格は通過点、これからも日々精進して、人と自然がともに豊かに暮らす北海道を創造してゆきたいです。