さて、
『白子屋政談』の後半です。前半は廻り髪結の"新三"が、五百両の持参金目当ての婚約が決まった白子屋の娘、お熊が店の手代忠七と割無い仲になっていて、この婿取りの結納前に、二人は手に手を取って駆け落ちしよう!と、算段している場面を立ち聞きしてしまい、新三は悪い料簡を起こしまして、お熊を拐かして白子屋から大枚百両を瀬締めようと企む。
そして、自分の長屋にお熊を駕籠に乗せて連れて行き、「忠七はすぐ、追って駆け付けるから!」と、言い含めて長屋に留め置き、
一方で、忠七を雨ん中永代橋まで連れ出し、悪党らしく啖呵を切り、悪事の次第を一部始終、語って聞かせます。
雨も止んだ翌日。カラッと晴れた夏空をよそに、娘のお熊が手代忠七と駆け落ちしたと思い二人を探しに出ようとしていると、その片割れの忠七が帰って参ります。そして…。
かくかくしかじかと、廻り髪結の新三がお嬢様を拐かして自分の長屋に軟禁しておりますと、涙ながらに訴えるもんですから、白子屋は更に輪を掛けた様な大騒ぎで御座います。
白子屋の女主人お常は、出入りの車力、善八に十両の金を渡して、新三の長屋に行かせ、娘お熊の解放を交渉されるのですが、
「五百両の持参金の金蔓だ!十両ポッチの端下金で返せるもんか?! 一昨日来やがれ、べら棒めぇ! 返して欲しくば百両持って出直して来い!」
と、威勢の良い啖呵を新三から浴びせられて、善八は剣もほろろに我が家に逃げ帰ります。
家に戻った善八は、そのまま白子屋に戻り「百両持って来い!」と言われました。何て報告したら、お前は子供の使いか?!と、お店をしくじります。
困り果てた車力の善八に助け舟を出してくれたのが、誰あろう女房でした。ここは『毒を以て毒を制す』だ!と知恵を付けて、
地廻りの侠客(ヤクザ)、"弥田五郎の源七"に十両で噺を付けて貰いなさいよと、この源七親分を仲介役に立てて、新三の長屋へ乗り込む所から後半の噺は始まります。
歳は15か20も違う源七親分が来たので、始めは下手に出ていた新三だが、源七が持ってきた銭は、先の善八同様十両の金ではお熊を返す気は一向にない。
暫くは源七の小言?説教?と、付き合っていた新三だったが、仕舞には…。
新三 「そっちが弥太五郎源七なら、こっちは上総無宿の入れ墨新三だ!」と啖呵を切って、十両の銭を端下金だと投げ返した。
堪えかねた源七が脇差を抜こうとするのを、善八が止めに入って源七は腸が煮えくり返る思いで路地を出ようとする。そこへ出て来たのがこの長屋の家主の長兵衛である。
「・・・ああいう馬鹿な男のところへは誰が行っても無駄でございますから、私が口を利いてみようかと思いますから…。相手が白子屋さんだけに、三十両ならばと思うのでございますが」
善八が店へ帰り、お常に話をして三十両用意し、お熊の乗る駕籠を用意して長兵衛の家まで行く。長兵衛は新三の家へ行き、
長兵衛 「新三、いい節句だなぁ〜!?・・・おや、おや、初鰹かい。安くなかったろ」
"新三、いい節句だなぁ〜!?"この科白が、髪結新三では、雲助師匠は一番好きな科白だと言っておられますが、雲助一門以外ではあまり聞かない科白で、
愛山先生も「おーい、新三、邪魔するよ!」てな感じで大家長兵衛は現れて、初鰹の下りになる。小満ん師匠や、六代目圓生の音源「圓生百席」も同じ調子です。
新三 「こいつですかい、三分ニ朱で」
長兵衛 「豪儀なもんだな。・・・時にその娘てのはどうしてる?物事は長引くとこじれていけねえ、早くけじめをつけた方がいい。金に転べ」
そんな遣り取りが長兵衛と新三の間にあって、擦ったもんだしながら、長兵衛が新三を時に煽て、時に脅しつつ、何とか三十両で噺を付けるのです。そして…。
長兵衛曰く「決まりがついたら、そいつ(鰹?)を片身、俺にくれるか?後で取りに来るから」と、長兵衛は善八から三十両受け取って、再び新三の家へ行き、お熊を駕籠に乗せると駕籠はそのまま白子屋へと向かった
長兵衛 「これで片が付いた、約束の金だ」と言って長兵衛が差し出したのは十五両だけで、約束が違うと言う新三に、
長兵衛 「三十両だよ、そいつは片身もらう約束になっていただろ」
新三 「えっ?片身ってのは鰹だけじゃねえんですかい?」
長兵衛 「骨を折って口をきいてやったんだ、片身もらうのは当たり前だ」
新三 「冗談じゃねえや、、十五両くれえなら源七に十両で花を持たせて返してやったんだ」
長兵衛 「愚痴っぽい野郎だ。いけねえのか、いけねえなら、いますぐ店空けろ!かどわかしの罪でも訴えてやるぞ、・・・どうだ、いいのか、十五両で? ・・・じゃあ、この十五両の内から五両は溜まっている店賃にもらっておくからな」 、新三もかなわない強欲さだ。
新三 「それじゃ、結局十両しかありゃしねぇや」
長兵衛 「鰹は片身もらって行くよ」
新三 「形無しだね、こりゃ」
「狼の人に食わるる寒さかな」、髪結新三の一席で御座います。と、愛山先生も、六代目圓生と同じくこの川柳で噺を〆ました。
そして、"閻魔堂の続きが御座いますが…、"と、芝居だとやる『深川閻魔堂橋の場』に、軽く軽く触れてお開きとなりました。
二席目は『荒茶』。花粉症の季節に貞寿さんがやりますね。