第１６３４回　生霊（２）

　私は奥さんに「ご主人が毎夜のようにうなされているのは、生霊が飛んできているから」と話しました。「いったい誰が主人をそんなに恨んでいるのか、相手は特定できるのでしょうか」奥さんはすぐに私に尋ねました。「性別や年齢はある程度は分かります。ただ、相手まで特定するのは難しいと思います」私はそう答えました。生霊は死霊のように実体のあるものでは無く、その名の通り生きている人から飛んでくる”念（エネルギー体）“なのです。それは姿形がハッキリしているものではありません。

　私はとりあえず、生霊に対抗するための神符（携帯するお札）を作り、ご夫婦の寝室にも結界を張りました。ただ、この生霊はなかなかしつこくて、厳重に張った結界の壁をしばしば通り抜けて入り込みます。結界とはそもそも霊や念の侵入を１００％ブロックできるものではありません。私の家は、私の霊的な間口が異常に広いために、多くの霊や念を引き寄せてしまいます。そこで毎日のように霊障を受けてしまうと、普通の生活はできなくなります。そのために家の中には3重にして結界を張っています。それでも入り込んでくる霊や念はいるのです。ただし、結界の中は霊や念にとっては苦しくて不快な空間になりますから、長くその中にとどまることはできません。ですからその悪影響を軽減することはできます。

　私がご主人に神符を渡して、寝室に結界を張ったことで、ご主人がうなされる回数は、週に１～２回に減りました。神符も結界も飛んでくる生霊（念）を確実にブロックしています。しかし、それでも生霊を完全にシャットアウトすることはできません。ご主人がうなされる夜は続いたのです。

　奥さんは私に尋ねました。「いったい何歳くらいのどんな人が生霊を出しているのでしょうか」私は「出しているのは女性です。年齢は40歳前後だと思います。ご主人を知っていて、過去にはご主人と何らかの関係のあった方でしょう」私は自分の感じたままに答えました。しかし、ご主人もまったく見当は付かないと口ごもるばかりでした。

　しかし、しばらく経って生霊を出している女性が判明しました。それは朝起きると、寝室に香水の匂いが残るようになったからです。その匂いはご主人には覚えのある香りでした。それはもう10年以上も前にお付き合いをして別れた女性が好んでいた匂いだったのです。ご主人は当時、今の奥さんとの結婚話が進んだことで、数年間、お付き合いをしていたその女性を振っていたのです。特に婚約をしていたわけではありませんでしたが、かなり揉めて強引に別れていました。

　奥さんは私に話しました。「私がその女性と会って、こんな迷惑なことはやめるように話したいのですが、いかがでしょうか」私はすぐに答えました。「いや、やめた方が良いです。まず、その女性自身に生霊を飛ばしている自覚はありません。ですから突然やってきた奥さんから“生霊を出すな”と言われても、こちらがおかしく思われるだけで、何の解決にもなりません」奥さんは黙ってうつむきました。ただ、一息置いて私は奥さんに話しました。「ご主人が夜うなされているということは、その女性は夜に生霊を出しています。おそらく夜寝る前のリラックスしている時間にご主人のことを思い出して、ご自宅から無意識に生霊を飛ばしています。今はこちらの部屋に結界を張って守りを固めていますが、それでも生霊は入り込んできます。ですからもし、その女性の住まいが分かるなら、彼女の家の周囲にも結界を張りましょう。そうすることによって、彼女の出した念は自分に跳ね返ります。彼女の家とご自宅を両方に結界を張れば、それでも生霊が入り込む余地はほとんど無くなります」

　私はただちに準備を整えて、その女性の住まいの周囲の植栽の中に特大のモリオンを埋め込んで結界の基点にしました。そしてすぐに結界を張って、彼女の生霊がこの家から飛んで来ないようにブロックしました。ここまでやってようやくご主人には静かな夜を向かえられるようになりました。生霊とはこれだけ面倒なものなのです。

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