第１６３２回　人はなぜ「先入観」を持つのか

　最近、このブログでは「脳の認知バイアス」が引き起こすさまざまな問題を取り上げてきました。「認知バイアス」とは、脳が情報を処理する際に生じる「思考の偏り」で、合理的でない判断や誤解を引き起こす原因になります。これは進化的に獲得された「省エネ思考」の副産物とも言われています。今回は「先入観」をテーマに考えていたところ、この“認知的メカニズム”にも「脳の認知バイアス」が関わっていることが良く分かりました。

　人間の脳は膨大な情報をすべて正確に処理することができないため、過去の経験や既存の知識をもとに「予測」や「近道（ヒューリスティック）」を使って考えます。たとえば人は他人の身なりから相手を判断します。「スーツを着ている人は真面目」といった印象を持ちますし、“パンチパーマ”をかけている人は「ガラが悪い人」と思います。実際にその人がどういう人であるのかは、長く付き合ってみなければ分かりません。その時間と労力を節約するために、脳は“間違っていたとしても”すぐに判断を下すのです。それはもし、相手が暴力団員や犯罪者であれば、じっくりと付き合って相手を見極めるよりも、直ちに相手を警戒して避けて通った方が安全だからです。「認知バイアス」とは、思考や判断における系統的な偏りのことです。それはさまざまな形で、私たちの行動に現れますが、次のようなバイアスが、「先入観」を生み出します。

〇確証バイアス：脳は自分の信じたい情報だけを集めて、反証を無視する傾向があります。

〇正常性バイアス：脳は都合の悪い情報を無視して、現状を過大評価する傾向があります。

〇ステレオタイプ：集団に対する固定観念は、個人への判断に大きく影響します。

　他にも「先入観」を生み出す素地として、社会や教育・文化から影響を受けます。たとえば、家庭や教育、メディアなどから受け取る価値観や情報が、無意識のうちに「当たり前」としてその人に浸透して「先入観」の土台になります。さらに人間には「感情」がありますし、生命の危機に対する「防衛本能」は無意識に働いています。その結果、不安や恐れの「感情」から“未知のもの＝自分で理解できない世界に対しては警戒したり、避けたりするネガティブな先入観“を持ちます。

　たとえば、目の前に、いきなり”見たことも無い容姿をした生物“が現れれば、人はその生き物に友好的に接することはできません。相手を避けたり、捕らえたり、攻撃しようとするのが普通です。私たち「霊能者」に対しても、霊を見たことのない人や、霊の世界を信じられない人からすれば、強く嫌悪したり、排除したりして警戒します。これは自己防衛の一環として働く心理的メカニズムです。

　ただ、「先入観」を持つことは一概に否定できない面もあります。そこには次のようなメリットとディメリットがあるからです。メリットとしては「迅速な判断ができることで、危険を回避しやくなります」また、「社会的なルールや常識に適応しやすくなります」。逆にディメリットついては、「誤解や偏見を生み出したり、相手の考えや生き方を認める柔軟な思考を妨げます」

　このように「先入観」は一概にすべてが悪いわけではありませんが、その弊害があまりにも強く出るなら、改善するべきでしょう。そのためには、まずは「自分の思い込みに気づくこと（メタ認知＝自分の思考や行動を客観的に認識・調整する能力のこと）が必要です。つまり“考えることを考える力”のことです。そして“多様な視点に触れること”も必要です。具体的には、異文化を理解したり、自分と異なる意見を持つ人との対話などです。さらに内省を促して“「なぜそう思ったのか”を自分に問い直してみるのも良いことです。このようにして「先入観」が強く出てしまったときには、それを改善してくことは可能なのです。

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