第１５５２回　覆い隠されること（１）

　呪いのビデオは「リング」で有名ですが、以前、私によく相談する方から似たような話を聞いたことがあります。昔はレンタルビデオ店でビデオを借りてきて「家で映画を見る」のが当たり前でした。その人は少し話題になった“ホラー映画”のビデオを借りてきて、深夜に一人で見ていました。内容は期待以上で、思わず声を出してしまうような怖いシーンがいくつもありました。その方が言うには、ストーリーにはフィクションとは思えないリアル感があって、画像の生々しさは気持ちが悪くなるほどだというのです。そして緊張しながら見ていたラストシーンで、突然、画面にノイズが入って見えなくなってしまったのです。ストーリーの結末も気になりますし、それをどのように映し出しているのかにも興味がありました。そこで何度も巻き戻して再生したものの、やはりラストシーンに差し掛かったところでノイズが入ります。そしてその砂嵐の画面のままビデオは終了してしまったのです。

　次の日にビデオを返却するときに、この状況を店員に説明してクレームを入れました。すると店員は「今日、仕事終わりに自分が画像をチェックしてみますので、また明日来てください」と言われました。その人はその対応に不満を感じながらも言われた通りに翌日、ビデオ店を訪れました。すると店員は、「自分が再生したときには何も問題なくポストクレジット（エンドロールの後に付いているおまけのシーン）まで見えました」と答えたのです。その回答に納得いかない相談者が不満そうにしていると、店員は「それでは同じ映画のビデオが他にもありますから、そのビデオを見てください」といって、同じ映画の別のビデオを持ってきたのです。特に追加料金などを請求されることも無かったので、納得してそのビデオを持って家へ帰りました。そしてまた深夜にそのビデオを再生してみたのです。すると何ら問題なく映画は映し出されて行きました。しかし、ラストシーンになったとたんにビデオデッキは“ガチャン”と音を立てて停止して、自動的に巻き戻されてしまったのです。

“えっ、何だこれっ”

　相談者はまたこのシーンを見ようと再生を繰り返しました。しかし、何回やってもラストシーンになると、そこでビデオは停止して巻き戻しになってしまうのです。相談者は不満というよりもひどく“不安”になりました。それは話の展開がものすごく現実感があって十分に恐怖を感じるものだったからです。翌日、相談者はこのビデオをお店へ返却しましたが、ラストシーンが見えなかったことは店員には伝えませんでした。それは

～もしかしたらその話の結末は自分が見てはいけないようなものだったのではないか～

　そんな気がしたからです。それが自分にとって良いことなのか、悪いことだったのか、それも非常に気になります。それで私にこの話をして尋ねてきたのです。私は相談者に伝えました。

「それで良かったのだと思います。あなたが幼少期から今に至るまで特に大病することなく健康に育ち、学校を出て就職して社会人になりました。そして今も困窮することもなく、趣味の時間も楽しみながら生活しています。それ自体がとても幸せなことなのです。それはあなたの生き方が正しかったことに加えて、守護霊など目に見えないものにもあなたは守られてきたからです。あなたを守る力は今も働いています。その力があなたにそのシーンを見せないようにしたとすれば、きっとその方があなたにとって幸せだからです。その良い流れを無理に変える必要はないでしょう」　相談者は納得しました。

　日本人形が涙を流したり髪の毛が伸びることがあるように物にも念（魂）はこもります。そう考えた時にこのホラー映画のビデオに何か悪念が入り込んでいたとしても不思議ではありません。ホラービデオという内容を考えても、閉じられている扉は無理に開けない方が良いと感じました。同じように本来なら見えて当たり前のものが、何かに覆い隠されるように塞がれてしまうことは意外とよくあることなのです。（２）へ続く

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