あとは大晦日というと、10年ぐらい前に埼玉県と千葉県を隔てている江戸川の河川敷で、認知症で行方不明になった老人を捜索したことが思い出されます。江戸川は利根川水系の1級河川で、川幅は広いところでは200mぐらいあります。この川から5キロぐらい離れた住宅街で70代後半のお年寄りが行方不明になりました。この老人は、そのころしばしば家を出て遠くの町で保護されていました。そんなことが何度か続いた後でしたから、ご家族はすぐにまた徘徊してしまったと思い、警察へ届けました。しかし、警察は「捜索願」は受け取っても、すぐに警官を派遣して捜索してくれるわけではありません。データとして登録して、該当するような人が見つかったときには知らせてくれるだけです。しかし、季節は12月の下旬です。寒風は健康な人でも堪えます。一刻も早く見つけなければ、亡くなってしまう可能性もあります。私にこの家の家族から連絡が入ったのは、行方が分からなくなってからすでに2日が経過していました。私はご老人を何とか生きて救出したかったので、連絡を受けた翌日、他の仕事を延期してもらい、急遽、千葉県の行方不明になった家へうかがいました。その日が大晦日だったのです。
私はご家族から一通りの状況をうかがい、老人の写真をお借りして、すぐに家からの足取りをたどりました。私の頭の中にはかなりハッキリと老人の動きが浮かんでいました。頭に浮かんだ「大手スーパー」や「ガソリンスタンド」などが、波長をたどって行くと面白いように目の前に展開していきました。やがて私の頭には“大きな煙突”が浮かびました。波長をたどると、江戸川の河川敷にある「清掃工場」と「運動公園」にたどり着きました。この辺りを老人が通ったことは間違いありません。しかし、この辺りから頭に浮かぶ映像は、徐々に視界が悪くなって、ときどき何も見えなくなりました。その場に行って見ると、辺りにはヨシ(アシ)が群生していました。ヨシはイネ科の多年草で、条件が良ければ5m以上にも成長します。川原には人間の背丈よりも高い植物が密生していますから、もし、この中に入ったとすれば、容易に見つけ出すことはできません。その日、私も寒さに震えながら江戸川の川原を探して回りました。背の高いヨシの密集地は、その中に入ると風よけになって周囲よりははるかに暖かいのです。老人が家から5キロを江戸川へ向けて徘徊した後、寒さしのぎにヨシの密生する川原に入ったとしても不思議ではありません。ただ、この時点で日はもう傾いています。日が暮れてしまえば、辺りに街灯はありませんから周囲は真っ暗になります。私はともかくこの辺りに的を絞って、足首まで川の水に浸かりながら捜索を続けたのです。
しかし残念ながら日が暮れるまでに老人を発見することはできませんでした。私自身も全身が冷え切って、思考力は低下して動作もぎこちなくなってきました。これは明らかに”低体温症”の症状です。私は髪の毛まで植物の葉が入り、スーツにも植物の枝や葉が何枚も刺さっています。そして足元はくるぶしまで泥水に浸かってびしょびしょです。作業を終えた後、車を止めた場所まで川原から約1キロを歩きましたが、すれ違った人は皆、私を振り返っていきました。きっと川原に住んでいた“ホームレス”だと思ったのでしょう。真っ暗になった大晦日の夜、寒くて震えていた私は、強いむなしさを抱えていました。老人は発見できず、唇は寒さで紫色、全身は総家立って(そうけだって)います。
~自分は大晦日の夜に真っ暗な川原まで来ていったい何をやっているのだろう~
そんな思いが何度もこだましていました。私は家に着くと、今日の捜索の結果を依頼者に報告して眠りました。依頼者はそれから3日後に、捜索メンバーを3人ほど雇って私が探していた川原を中心にして老人を探しました。すると、私が足を踏み入れたヨシの茂みから、わずか20m離れた場所で老人は発見されたのです。今でも思い出すと、あの時の寒さとむなしさがこみ上げる大晦日の思い出です。(4)へ続く。
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■書名
霊界が教えてくれる
この世で幸福になる方法
■著者:霊能者SHUN(シュン)
■四六判248頁
■定価1650円(本体1500円+税10%)
■ISBN978-4-341-08818-7
■発売 株式会社ごま書房新社
目次
序章:地球の誕生と人類の出現
第一章:霊界の存在とその仕組み
第二章:人の縁の不思議
第三章:心霊スポットが危険な理由
第四章:霊障は理不尽なもの
第五章:先祖と私たち
第六章:この世の上手な過ごし方