第１４１６回　死は存在しない（１）

　今からちょうど2年前になりますが、「田坂広志博士」が、「死は存在しない」という著書を出版して話題になりました。この本は今でも売られていて20万部を越えるロングセラーになっています。「死」や「死後の世界」についてはさまざまな立場の人が、それぞれの目線で語っています。最も古いものは古代ギリシャの哲学者「プラトン（前427年ころ～前347年ころ）」が書いた、死後12日間にわたって臨死体験をしたパンピチュリア族の子「エル」の体験談と言われています。これだけの長期間にわたって今でも死後の世界については数多くの人たちがその能力をフル回転して思考を重ねてきたのです。特に最近では、宗教家や僧侶などではない科学者が、科学的に考察してその世界の謎を解き明かそうとしています。それは前回も紹介した通りです。

　今回はまた、かなりの賢人と言って良い優秀な科学者の意見ですので、一考する価値は十分にあると思います。まず、「田坂広志博士」ですが、1951年生まれ、東京大学大学院博士課程を修了している”原子力工学“の科学者です。その後、世界の賢人会議として有名な「世界経済フォーラム（ダボス会議）」のメンバーになり、内閣官房参与も勤めました。現代の賢人の一人として数えられる優秀な人物です。その田坂博士が「死は存在しない」というのは、いったいどのような根拠があるのでしょうか。

　田坂博士は32歳の時に重い病気を患い、医者から余命宣告を受けました。そのときに両親の勧めで禅寺を訪ね、禅師から「過去は無い、未来もない、あるのは永遠に続く今だけだ、今を生きれ！今を生ききれ！」言われ、その一言で病に立ち向かう覚悟が出来ました。また、若いころに、移動の際に気が進まなくて出発時間を遅らせたところ、自分が通る予定の高速道路で大事故が起きました。もし、普通に出発していたらその事故に巻き込まれていたのです。この件を含めていわゆる”虫の知らせ“や不思議体験を何度もしていたので、「死とは何か」を深く考えるようになりました。そのためダボス会議に出席したときに、これらの出来事を科学的に説明できる理論は無いか、注意して探していたのです。

　最先端物理学の世界では、近年、常識に反するような理論が次々と発表されています。たとえば、私たちの住む世界は４次元時空ではなく実は11次元であるとする「超弦理論」や、宇宙には無数の兄弟宇宙、つまりパラレルワールドが存在するという「多元宇宙論」などは、現在は仮説ですが、科学者たちが真剣に議論をしています。そうした新しい理論のひとつが「アーヴィン・マズロ博士」が提唱した「量子真空とゼロ・ポイント・フィールド仮説」です。

　少し難解ですがその要点を順に説明しましょう。まず、素粒子などのミクロな物質の性質を解き明かす物理学である「量子力学」によれば、私たち人間も含めて、この世界に存在する「物質」と見えるものの本質は、実は「波動」であることが分かっています。硬い固体に見える物質も、ミクロに見れば電波のような波動なのです。ですからこの宇宙を「巨大な湖」にたとえるならば、私も皆さんの心や意識も、その水面に生じた「波紋」のようなものなのです。一方、私たちの生きるこの宇宙の背後には、観測することが難しい巨大な「エネルギーの場」が存在しています。それが「量子真空」と呼ばれる目に見えない場です。「真空」とは、分子や原子も存在しない「何も無い空間」のことですが、実は、その空間にも莫大なエネルギーがひそんでいるのです。この壮大な宇宙は、138億年前、極微の「量子真空」が突如、急激な膨張を起こして生まれたとされています。そして「量子真空」とは、この宇宙のすべての空間の背後に、普遍的に存在するエネルギーに満ちた場なのです。そして「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」とは、この「量子真空」の中に、この宇宙で生じたすべての出来事が「波動情報」として記録されているという仮説なのです。（2）へ続く。

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