第１３７６回　Take a break（２）

　約700年前に書かれた随筆「徒然草」を読むと、当時の人々が感じた“命のはかなさや故人への思い・移ろいゆく季節や人の心に感じる機微や寂しさ・宮仕え（会社勤め）の気苦労や人間関係の悩み”これらは現代を生きる私たちと何ら変わらないことに気づきます。考えて見れば18世紀後半、イギリスにおける綿工業の技術革新に始まり、機械や蒸気を用いた大規模な工場が普及して生産性が飛躍的に高まりました。そして経済は、農業中心から工業中心へ大きく移行していきました。それが“産業革命”です。産業革命以降も技術革新は続き、科学は発展して世の中は便利になり、生活様式は大きく変わりました。しかし、人の心は百年経っても千年経っても何も変わっていません。

　史実によると人類史上最初の戦争は、紀元前1286年ごろにシリアのオロンテス川一帯で起きた、古代エジプトとヒッタイトの戦いである「カデシュの戦い」と言われています。この戦争は、史上初めて公式な軍事記録や成文化された平和条約が取り交わされた戦争であったとも言われています。それから3310年が経過した今でも世界各地で未だに戦争は繰り返されています。

　ロシアはウクライナへ侵攻して数多くの命が失われています。紛争はウクライナやパレスチナにとどまることなく、アフガニスタンでもシリアでもリビアでもイエメンでも内戦が続いています。1945年に10月24日に国際平和と安全の維持（安全保障）、経済・社会・文化面での国際協力を目指して世界51か国が集まって「国際連合」が作られました。それは第二次世界大戦を防ぐことが出来なかった国際社会の反省の上に成り立っていたはずでした。

　しかし、国際平和のために作られた国連の中で重要な役割を担うはずの安全保障理事国のロシアが、隣国のウクライナを侵攻しています。武力ではなく法律によって問題解決を図るはずの国際司法裁判所（ICJ）の判決を国連安全保障理事国の中国は「受け入れることはできない」「何ら影響は受けない」と拒否して、南シナ海でフィリピンの領海に基地を建設して、武力でフィリピンを排除しています。

　結局、「カデシュの戦い」が始まったときから、人間の欲望は尽きることが無く、強い国は弱い国を武力をもって占領して自国の領土を増やす。そして弱い国を支配するという構図は何一つ変わっていないのです。そして他国を占領して自国の領土を増やした指導者を国民は熱烈に支持しています。科学やテクノロジーは飛躍的な進歩を遂げてきましたが、人間の心の中に渦巻く欲望や野心を人は今でもコントロールすることはできていません。そしてルールではなく、力によって自分の欲望や野心を満たそうとしています。今でも世界中で、“より強力な武器・より多くの人を殺せる武器”の開発は続いているのです。

　私は常々“人間は感情をコントロールできない生き物だ“と述べています。だから世界中から、戦争も事件も浮気も無くなることはないと思っています。平和で世界の人々が安心して笑顔で暮らすために必要なことは皆が分かっていると思います。それなのに人間はそれとは真逆の方向へ今も全力で突き進んでいます。

～力の強い国が力の弱い国を力で支配する～

　この論理で進む先の終点は、地球上のすべての国を支配する“地上最強帝国”の成立になります。それが実現できるまで戦いは続けられることになります。その愚かさやむなしさにどうして人間は気づかないのでしょうか。約700年前の人の心が今と変わらないこと、そして人類最初の戦争が行われてから３千年以上が経過しても未だに世界各地で戦いが繰り返されている現実を見ると、人類の未来に光明を見出すことはできません。

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