第１３６９回　同情は禁物　（２）

　相談者は私の話を聞いた後、気になって自殺サイト「大島てる」で自分の住所を検索しました。すると自分の購入したマンションの隣のマンション屋上から「飛び降り自殺があった」と書かれていました。不動産屋は取引をする前に事故物件は告知する義務があります。しかし、目の前にあっても隣のマンションの投身自殺を告知する義務はないのです。相談者は気になって記事検索をして、この自殺の内容を探りました。すると今から４年前に８階建ての隣のビルの屋上から３０代前半の女性が飛び降り自殺をしていました。記事に詳しい内容は書かれていませんでした。しかし、自分と同年代の女性が目の前のマンションから飛び降りて自ら命を絶っていたことは間違いなかったのです。相談者はこの記事を読んだ後、自殺した女性を哀れに思い、花を買ってきて女性が頭から激突した地面に備えました。そしてペットボトルのお水とジュースも花の隣に備えました。そして心から「私はどんなことがあなたを苦しめたのかは知りません。でも、１日も早く成仏してください。安らかに眠ってください」手を合わせてそう念じたのです。

　それからしばらく怪現象は起きませんでした。相談者は「ようやく水晶の効果が出てきたのか」と思い安心していました。しかし、若くして命を絶った女性からすれば、同年代でマンション購入という夢をかなえて幸せに暮らしている相談者は、うらやましく思えたのでしょう。また、相談者の同情心が自殺者の霊を呼び込んでしまい、その影響は今までとは違った形で相談者へ襲ってきました。

　相談者は屋上から落下していく自殺者の姿を目の前で何回も見ています。ですから顔の左半分が吹き飛び、右目が飛び出している血まみれの女性の顔は目に焼き付いています。その顔を昼間でもあちこちで目撃するようになっていったのです。たとえば会社で仕事が一段落して、疲れた目を休めるために窓から外を眺めました。そのとき血だらけで口角の上がった笑顔の自殺者が、会社の窓の外を落ちていきました。駅で何気なく反対側のホームに目をやると、自殺者の霊がまるで電車へ飛び込むように、線路へ頭から転落して行きました。さらに町中の歩道をただ、普通に歩いているだけなのに、ビルの上から人が目の前に落ちてきました。そして、その姿はいつもこの自殺者だったのです。この状況を目撃するたびに、相談者はしばしば大声を出して周囲の人を驚かせました。ついには会社へ行くのも外へ出るのも怖くなり、家から出られなくなりました。そしてこの自殺者を目撃するたびに、「私にはあなたを救うことはできませんから、もう現れないでください」と言って手を合わせました。それでも自殺者の霊はその言葉に歯向かうように、毎日のように相談者の目の前に現れるようになったのです。

　相談者は上司にも勧められて精神科を受診しました。医師には正直に霊の話をしましたが、医師はそれは相談者の妄想であるとして薬を処方しました。しかし、ここまで明確な霊現象が精神科医の薬で治るわけがありません。相談者はとうとう精神疾患と診断されて、しばらく会社を休むことになりました。ただ、カーテンを閉め切りにして家の中にいれば、この自殺者の霊を見ることはありません。そう考えて安心して家にしばらく引きこもりました。しかし、一度つながってしまった自殺者の霊は、さらに恐ろしい形で相談者に恐怖を植え付けていったのです。（３）へ続く。

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