第１３６７回　死んでいた人

　先日、別れてからしばらく会っていない“元カレ”に、最近、家や会社の近くで“しばしば出会うという”女性から相談を受けました。それは後ろ姿だったり、横顔だったりします。あまり良い別れ方をしていなかったので、出会っても声をかけることもできずにずっと目を逸らしていました。ただ、最近では街を歩いていて、正面からこちらへ向かって進んできます。そしてすぐ横をすれ違ったので、軽く会釈をすると、向こうも笑顔を返してきました。そのとき元カレは一瞬立ち止まると「久しぶり、元気だった？」そう言うと少しはにかんだ独特の表情を浮かべて話しかけてきました。相談者は「はい、おかげさまで」と、手短に答えて、足を止めることなくその場を離れました。相談者は元カレとあまりに頻繁に出会うので、“もしかしたら私をストーキングしているのではないか？”そんなことまで考えるようになりました。

　元カレとは同じ地方都市に住んでいた高校の同級生です。高校時代に交際を始め、高校卒業後、元カレは地元の会社へ勤めました。相談者は東京の専門学校へ入学しましたので、遠距離恋愛でしばらくは交際していました。しかし、なかなか会うこともできないうちに、元カレは相談者の地元の友人と交際が始まり、かなり揉めた挙句、相談者が別れて、元カレは友人と付き合ったのです。それからもう10年近く時間は経っていました。

～彼は今は友人と別れて東京へ出てきているのかしら～

　ふと気になった彼女は、高校時代の友人に久しぶりに連絡を取りました。すると彼は半年前に交通事故で亡くなっていたのです。友人によると元カレは、相談者の友人とも別れて仕事先で知り合った別の女性と結婚していました。若いころはかなり遊んでいましたが、子供ができてからは父親として真面目に働いて、“良いパパ”をしていたそうです。そう言えば、元カレと東京でしばしば出会うようになったのは、ちょうど半年ぐらい前からです。ですから道端で声をかけてきた人は、元カレではなくて、元カレの”霊”ということになります。ただ、「死んだ人の姿を見ることが仮に合ったとしても、話まですることがあるのでしょうか？」相談者から見て彼の霊は生きている人とまったく同じで、違和感はありませんでした。また、死んだ後、あの世へ上がらず現世を彷徨っているとすれば、このまま不浄霊になることは無いのでしょうか？その点が気になって私に相談してきたのです。

　私は相談者に話しました。「霊の見え方は人によってもその時の状況によっても異なりますが、生きている人とまったく同じように見えることはあります。私は正面から歩いてくる人と“体がぶつかった”と思った瞬間に私の体をすり抜けて、“霊だ”と気づいたことが何度もあります。さらに亡くなった人の霊の声が聞こえたり、会話をしたという話も時々聞きます。先日も知り合いのお父さんが亡くなって、その葬儀へ行く途中で道に迷い、たまたま歩いていた人に道を尋ねて教えてもらいました。なんとか家に着いて、葬儀の祭壇を見上げると、“先ほど道を教えてくれた人の遺影が飾られていた”という人がいました。

　相談者は私の話に何度もうなずいています。

「では、現世で迷ってあの世へ行けないという不安はありませんか？ちゃんと成仏できているのでしょうか？」

私はハッキリと答えました。

「人間が死んだあとは、魂はしばらく現世にとどまり、生まれた場所から死んだ場所まで何度も辿りながら、自分の人生を総括します。そして自分の生きた時間が何を意味するものだったのか、自分なりの答えを出して納得してあの世へ上がります。その間に思い出深い人や場所があれば、そこへは何度も辿りながら、自分との関係性や出会ったことの意味を探します。

　「彼からしても、きっとあなたと別れたことは、不本意なことだったのではないでしょうか。自ら招いたこととは言え、大切な人を傷つけて別れを招いたことがずっと気になっていたのでしょう。だから亡くなった後、何度もあなたのところへやってきてあなたに謝りたかったのだと思います。」

「………」

相談者は私の話を黙って聞いていました。相談者が元カレの死を知ったときから、元カレの霊は一度も彼女のところには現れなくなりました。

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