第１３６４回　欲との闘い（２）

　私がサラリーマン時代、会社の帰りに同僚とよく会社の近くの居酒屋へ入りました。そこでは身近な話を肴にしてお酒を飲んでいました。あるとき、競馬の好きな同僚たちが週末の競馬G1レースの話で盛り上がっていました。その頃の私は、社内では〝勘の鋭い人間“と思われていました。ですから同僚たちは、自分が予想をした馬がレースで勝てそうかどうかを私に尋ねてきました。私は同僚が口にした馬の名前や番号を聞いて、「その馬は来そうだ」或いは「その馬は来ないんじゃないか」と、自分の感じたことを率直に口にしていました。また、競馬でも競輪でも競艇でも、出走する馬や選手の番号には”色“が決められています。たとえば”１枠は白、２枠は黒、３枠は赤、４枠は青、５枠は黄色“というように、色によって枠や選手を特定しています。ですから私は同僚から尋ねられて、頭に浮かんだ番号や色をそのまま伝えていたのです。そしてそれは普通じゃないレベルで的中していました。私はオッズや競馬新聞を見ずに自分の感覚だけで答えていたので時には万馬券などの大きな配当を的中することもありました。

　そんなことを何か月か続けているうちに、私の乗っていた車の新型が発売されました。それは今までの旧型に比べて斬新なデザインでエンジンもパワフルになっていました。当時の私はその車種の車を何台も乗り継いでいました。ですから新型が発売になれば、もちろんその車が欲しくなります。しかし若手サラリーマンの薄給では、簡単に新型車を手に入れることはできません。そんなとき、私はいつも同僚に教えていた競馬でお金を増やそうと考えました。週末のレースの前に貯金を下ろして軍資金を用意しました。お恥ずかしい話ですが、そのお金で週末のレースの馬券を買って、新型車の購入資金にしようと考えたのです。そしていつものようにレースの行われる競馬場をイメージして、ゲートが開いてから出走馬が走るコースを頭に浮かべて、ゴール板を何色のヘルメットをかぶった騎手が最初に駆け抜けるのかを想像したのです。

　結果はどうか。結論から言うと、答えはいつも微妙にずれていました。１着２着の馬を当てる当時の“連勝式”で馬券を買うと、１着馬は当たっても２着馬は外れてしまいます。その逆もあります。完全に予想が当たらないのではなく、微妙にいつも答えがずれているのです。私はどうしても新型車が欲しくて、４週ぐらい続けて馬券を買いましたが、答えはいつも同じでした。同僚に教えていた時はあれだけ的中していた予想が、自分で馬券を買うと当たらなくなったのです。私は目先を変えて、株や他の投資にも目を向けました。お金を賭けずに展開を予想すると、ほとんど的中します。しかし、実際にお金をかけて勝負すると、しばしば裏目に出てトータルの収支は赤字になります。

　元々ギャンブルではどのような賭け事でも主催者が“寺銭（＝賭け金の中からあらかじめ利益を差し引いた分を的中者で分配します）”を徴収しますから、たまに勝つことはあっても、ベッティングの回数が増えれば増えるほど、収支は寺銭を指し引かれた金額に帰結します。この寺銭のことを“控除率”と言いますが、ＪＲＡの場合は馬券の種類によって控除率は変化しますが、概ね25％になっています。つまり１万円ずつ１０回馬券を買えば、結果は７万５千円になって戻ってくるのが当たり前です。ちなみに宝くじの控除率はひどくて、55％も主催者が取っています。ですから宝くじを買い続けたとすると、今まで買い続けた総額の45％しか手元には残らない計算になります。ですから“欲の皮”を突っ張ってギャンブルや投資で儲けようとした私の計画は、見事に控除率を差し引いた金額を回収して終わったのです。

　この話は欲が入り込むと正確な霊視が出来なくなることのとても分かりやすい例です。ですからお金儲けでなくても、恋愛成就でも仕事の成果でも、病気快癒であっても、それを願う気持ちに欲が入り込んでしまうと、正しく未来を見ることができなくなります。それが霊能者は他人のことは見えても自分のことは見えないと言われる大きな理由になっています。

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